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ラズパイ1人1台 (1)

令和の教育ICT

2020年度から小学校と中学校では,児童生徒数の情報端末が導入され,校内ネットワーク整備が国の事業として取り組まれました。当時の事業は「GIGAスクール構想の実現」という名称でした。
昭和・平成と,一般社会でパーソナルコンピュータの流行や業務普及は進みましたが,学校教育では限定的な導入に留まり,利用イメージも膨らまないまま足踏みをしてきました。
それが令和に入り,児童生徒1人1台の割合で情報端末が学校教育にもたらされたのです。令和時代の教育ICTは前提が根本的に変わりました。ようやくクラウドを前提としたコンピューティングの世界観で動き始めたのです。

ところが,時の流れは速いもので,導入から2年が経過し,令和の教育ICTは3年目を迎えています。つまり,大規模数導入された情報端末の中には,モノによって動作に支障をきたしているものも出ているはずです。そうでなくとも,機器更新を見据えた対応行動を取り始めなければならない時期といえます。通称「GIGA端末」と呼ばれる令和初期に導入された情報端末は,果たしてどのように更新されるのか。これを執筆している2022年時点から今後,この大きな問題に学校教育関係者は奔走を始めることになりそうです。

Raspberry Piというコンピュータ

2012年に英国で誕生した小型コンピュータボードが「Raspberry Pi」です。
コンピュータの技術革新は米国のシリコンバレーを中心にして回っているというのが私たちのイメージですが,コンピュータの歴史の中では,英国発コンピュータ技術の存在も大変ユニークで強い影響力を持ちます。Raspberry Piもそうした英国発のコンピュータ技術の産物です。
手のひらカードサイズの基盤に高性能なチップやインターフェイスを詰め込み,立派なコンピュータとして動作しながら,手頃な価格帯。出発は教育利用目的の開発だったようですが,ありそうでなかった実用的な小型Linuxコンピュータを産業分野も注目し出して,いまや業務用にも導入されるコンピュータ機器となりました。
幾度かのバージョンアップを経て,最新はRaspberry Pi 4というモデルとなっていますが,端末の可愛らしさは変わらず。いくつものバリエーションも増えて,たとえばキーボード一体型(Raspberry Pi 400)モデルもあります。

現在,コロナ禍に関わる製造・流通の混乱によって,世界中でRaspberry Piの入手が困難になっています。また,モデルによって価格設定も様々なため,Raspberry Piだからといって必ずしも安価でなくなっています。それでもキーボード一体型のRaspberry Pi 400であれば,1万円前半で入手することは可能です。

ラズパイを1人1台

さて,このnote記事では,タイトルにあるように「ラズパイ1人1台」をモチーフにしたRaspberry Pi(以後,ラズパイ)の教育利用について書いていきたいと考えています。
ラズパイを1人1台配布するといったアイデアは,珍しいものではなく,過去に日本でもそのような取り組み事例があったりします。

2014年当時は世界中でプログラミング教育の導入議論が活発となっていましたから,記事にあるような先進的な取り組みに対するラズパイの寄贈は,実践コミュニティの支援・育成やプログラミング教育の盛り上がりを狙ったものでした。

令和の教育ICTで,行なわれたのは環境整備だけではありません。
改訂された学習指導要領による教育実践が始まり,小中高校を通して,プログラミングの体験や学習が実施されることとなりました。2014年当時の議論や推進の動きが実を結んだといえます。
公的には,コンピュータの学習利用が内容として盛り込まれた新しい学習指導要領を実施するために新たな環境整備が執り行われたと説明されています。それがGIGA端末整備の位置づけです。

GIGA端末によって1人1台端末の環境は実現しました。しかし,その実態は全国で様々です。端末やネットワークの利用状況や運用状況は,教育委員会の方針や学校の事情などによって異なります。中学校や高等学校など上位の学校へ上がる時点で,各児童生徒のコンピュータ利用経験が違っていることも珍しくないでしょう。

これを格差問題として捉え,問題解決していくことも重要なアプローチの一つです。文部科学省はもとより,各地方自治体や教育委員会関係者が,この現実に真摯に向かい策を打っていくことが望まれます。

けれども,このnote記事は,その方向は別にお任せして,少し無責任かも知れませんが,別提案をしようというものです。

Raspberry Piを1人1台のコンピューティングやコンピュータサイエンスの文房具として導入しよう。それが「ラズパイ1人1台」の提案です。

全員がLinux環境を所有する

2022年度から高等学校では,共通教科「情報」がスタートしています。
しかし,義務教育段階の小中学校とは異なり,高等学校はGIGA端末のような一斉導入は実現していません。各地域や各学校がそれぞれ個別に対応しているのが現状です。
仮にGIGA端末のように高校端末の一斉導入が試みられたとしても,おそらく実際に導入される端末や利用環境が統一されるわけではありません。
統一が絶対正解ではない世界ですが,とはいえ,現実問題として物事は統一されているとだいぶ楽な面があります。

そこで,ラズパイです。

GIGA端末あるいは高校端末が何であれ,教師と生徒はRaspberry Piをセカンドコンピュータとして1人1つ所有するのです。

小学校段階は,先生達が1人1台ずつラズパイを所有したり,教室に1台ずつ常備したりすることを目指します。
利用の一例は,ローカルサーバーを動かすことです。教室にある「学級ラズパイサーバー」でWebサーバーを運用できます。
たとえば,拡張Scratch3.0の1つである「Xcratch」を常駐させておくこともできるようになります。

こうすれば,GIGA端末から学級ラズパイサーバーにアクセスすることで,Scratch3.0はもちろん,外部の拡張機能を使った様々なプロジェクトを自由に作成することができます。
公式Scratch3.0のように自動共有は出来ませんが,高学年であればプロジェクトを保存し読み込むという手順は難しくないでしょうし,リンクURLによるプロジェクトの共有は可能です。クラウド利用に制限があったり,フィルタリングなどで公式Scratch3.0サイトにアクセスできない学校にとっては,自分たち専用の拡張Scratch3.0を利用できるメリットがあります。

クラウド利用に制限がない地域や学校にとって,ローカルな学級ラズパイサーバーの存在はメリットが薄いかも知れませんが,学級専用ポータルWebページを作成するなど,ローカルならではメリットは探せばあるはずです。

中学校段階であれば,技術・家庭科の技術分野〔情報の技術〕で利用することが考えられます。
「ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミング」や「計測・制御のプログラミング」といった学習を展開するのにLinux環境は悪くない教材といえます(むしろ本格的過ぎか)。

GIGA端末は3種類のプラットフォームに分かれてしまっていますが,これを無視してセカンドコンピュータであるラズパイを使い,全国の先生達が統一的に教材作成や授業ノウハウの共有をしたり,生徒たちがネットワークを利用して学校間でつながり合ったりする実習を展開してもいいのです。

ラズパイをモバイルな開発環境に使おうという利用例です。

たとえば,ラズパイ4/400モデルからはUSB Type-Cというインターフェイスが追加されています。このType-Cインターフェイスは電源供給用に使われるのが主目的ですが,実はネットワーク通信にも使えます。
Type-Cケーブルを使ってラズパイをパソコンやiPad Air等に接続すれば,電源供給だけでなく通信もできるので,ラズパイ遠隔操作が可能なのです。それをそのまま開発環境に利用してしまおう!というわけです。

高等学校段階になれば,共通教科「情報」の情報Ⅰで学ぶ内容を,一人ひとりがラズパイ利用の実績の振り返りや更なる活用を通して習得していくことが期待されます。

問題解決活動の過程で行なうデータ処理や統計処理をラズパイ上でPythonを使って処理したり,データの視覚化を行なってPDFファイルを出力するなどの高度な使い方をしてもいい。

もちろんプログラム開発に使ってもよいでしょう。
Linux環境でのプログラミングは,様々なオープンソースや技術共有によって大きく広がっています。社会に開かれている,世界に開かれているといってもよい環境です。高等学校段階の学びが世界と直結することの威力を小さなセカンドコンピュータで体感することが可能なのです。

実際「全員がLinux環境を所有する」とは,ラズパイに限ったことではありません。私たちがGIGA端末や日常生活で利用している情報機器,それらは近からず遠からずでLinuxと親戚関係にあります。お互いが影響し合いながら今日の情報環境を構成しています。

ラズパイ1人1台は,そういうことを初めて知ったり,いま一度思い返してみることにつながればよいな…という提案なのです。

ラズパイを用意しよう

というわけで,まずは自分用のラズパイを手に入れましょう。
できればRaspberry Pi 4B+モデルを。でも入手困難な状況ならば,手に入れられるモデルから始めてみればよいでしょう。
キーボード一体型ならば手に入りやすくなっているようですので,次回の記事からはRaspberry Pi 400を使って自分用Scratch3.0(Xcratch)を動かす挑戦を書いてみようと思います。


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