マリメイダ星亡命政府のおはなし
※XR創作大賞 応募作品(小説っぽいなにか)
登場人物・コミュニティ・サービス名称その他すべて、フィクションであり、もし一致していたとしてもただの偶然です。
1.はじまり
・家族のこと
僕の名前は・・じゃなかった、私の名前は静岡プリンちゃん。
一応、物理世界での生活もあるけど、ここ2年ぐらい物理世界で人に会ってない。
名前の由来は、単に抹茶プリンが大好きだったというだけ。静岡に住んだこともないし、静岡に抹茶プリンがあるのかどうかも知らない。
実は、5年前に結婚して同居しているパートナーがいる。
中村かりなさん。
銀行の融資担当として働いてる。まさに、銀行業界のエース、みたいな人。聡明なだけでなくて、気遣いもすごい。
2020年代の人が読んだら、物理で人と会ってないのに、同居してるってどういうこと?って思うかもしれないけど、今どき同居といっても物理的なものとは限らない。
朝起きたら、同じ部屋にいるし、仕事に行く前のスキンシップだって当たり前に取ってる。
仮想空間での同居だからと言っていいことだけでなくて、子供の教育方針とか、親の介護とかで結構喧嘩もしてる。喧嘩できるように物理ダメージを与えられるギミックとか仕込まれてる。最初、仮想空間でまで物理の喧嘩したい人の気持ちがわからなかったけど、最近かりなさんにどつかれると、改めて一緒に生活してる感じがする。
そう、私たちの家には子供がいる。ピカっ子、4歳。
保育園の周囲の子供にも溶け込めたみたいだし、自分で言うのもなんだけど、私とかりなさんの子供だから、めちゃくちゃ頭いい。
ただ、周囲の子供に、名前のことでいじられてるみたい。二人で決めた名前だから、私たちは後悔なんてしてないんだけど、一般人には早すぎたのかもしれない。
・仕事のこと
肉体的な労働はほとんどロボットに置き換えられたのだけど、人の気持ちに働きかける仕事とかは、結局人がやるしかないし、お金と言う概念がなくなる訳でもないので、人類が労働から解放される、なんてことはなかった。
でも、今の仕事には満足してるし、毎日働きに行く場所があるというは、実は精神的にはいい事なのかもしれないと思ってたりする。
そんな私の職場は、「マリメイダ星亡命政府」。マリメイダ星は、地球から40光年ぐらいの惑星で、地球文明とそんなに変わらない程度に発展していたらしい。その星が隣の星の侵略を受け、その中にあるBgon国(ブーオンとか発声するみたい)が地球に亡命政府を作ったらしい。自分はその政府職員。とはいっても、そのあたりはいわゆる設定で、実際は、マリメイダ星の料理やショーを提供する、という立て付けのレストランを仮想空間上で運営してる会社の幹部。
さらに言ってしまえば、飲食店の店長。客が少なくなったら、イベントに出店して宣伝したり、バイトが突然来なくなったら穴埋めを調整したり、お店を荒らしにくる人への対策をしたり、もちろん売り上げ管理とバイトへの給料の支払い、とかもやる。結局2020年代と人類は何も変わってないってことかもしれない。
・国王と王女のこと
社長は、「国王Bx3」って名乗ってる。話し方から、日本人じゃないのはわかる。多分ヨーロッパのどこかの国の人だと思う。そんでもって、よくわからない人を集めて「議会」とか開催することがあって、国王としての儀式的なものにあこがれてるんだと思う。正直レストランの経営厳しいから儀式的なことするなら集客イベントにしてほしいけど、まあ、自分の給料はちゃんともらってるので、そのあたりは特に不満というわけではない。
ついでに、社長の娘さん(本当の性別はわからないけど)は、「王女Mzi3_Arima」って名乗ってる。Mzi3がマリメイダ星での名前(という建付け)で、Arimaは有馬温泉のこと。物理世界のほうか仮想世界の方かわからないけど、子供のころよく通っていて、お気に入りらしい。温泉好きに悪い人はいない。
一言で言って、めちゃくちゃかわいい。お店の方にも時々顔を出していて、彼女のファンでお店が成り立ってるといっても過言ではない。彼女のスケジュールを聞いてくる客とかいっぱいいるけど、一介の店長に、社長の娘のスケジュールを知る術なんてない。むしろ、本人も飢餓感をあおるためにわざと予告せずに店に顔出してるんじゃないかと思ってる。
・仮想世界のこと
マリメイダ星レストランがあるのは、「ラピュータ」という仮想世界。「物理現実の上を自在に飛び回る、選ばれた人だけが入れる城」なんてコンセプト。2020年代のVRソーシャルの一般化に伴い、いわゆるプリビレッジドVRと呼ばれる、高級サービスがいくつか出てきたのだけど、ほとんどはうまくいかなかった。
ただ、このサービスだけは、息を吹き返してきて、仮想世界の覇権を握りつつあるみたい。「人数制限してる」のに覇権を握れる理由は、人数制限してるアピールと、NPCに高級ホテルみたいな動きをさせて雰囲気をだしてる一方で、実は入会審査で断られる人はほとんどいないっていうイメージ戦略の成功。
ちなみに、この仮想世界にあるのは、マリメイダ星レストランだけじゃなくて、私たちの家も、かりなさんの職場である銀行も、はたまたピカっ子を通わせている保育園も、全部この仮想世界の中。
・亡命政府
マリメイダ星のすぐ5光年の距離にハマジリ星という星がある。この二つの星は文明レベルはほとんど一緒だったみたいだけど、ハマジリ星の方が、先に宇宙航行技術を発展させたせいで、マリメイダはハマジリの影響下に入ってしまったらしい。とはいえ、文明社会同志なので、暴力的な侵攻ではなく、マリメイダ星の国家を友好的に影響下に入れていったらしい。でも、マリメイダ星のBgon国はちょっとだけハマジリに対抗できる技術力を持っていたので、ハマジリと対抗する選択をして、最終的に結局負けてしまって、王家と政府関係者が地球に亡命してきたっていう設定みたい。
2.マリメイダレストランとライバル
(そんなある日、開店前の社長室でのこと。この社長室を社長本人は「謁見の間」と呼んでるけど、そういうところも、王族的なものにあこがれる感じが出てる。売上報告等を済ませた後の一幕。)
静岡プリン:「社長は、マリメイダ星から亡命してきたって設定になってるけど、40光年を数年で移動するのは物理的に不可能だってことは証明されてるんですよ。そういって突っ込まれたらどう答えるんですか?」
国王Bx3:「精神はデータの塊なのに、なんで物理的な肉体を送る必要があるんだ?大体プリンさんの子供さんもデータじゃないか。」
プリン:「ピカっ子はデータなんかじゃないです! かりなさんとの間の愛の結晶なんです。うちの子はちゃんと保育園に通ってるし、実家のお母さんにもちゃんと挨拶できるんです。」
国王:「プリンさんも本当はわかってるはず。仮想空間を生きる者に、物理的な肉体の有無が関係ないことぐらい。」
プリン:「100歩譲って、社長が、精神だけ送ってきたとして、どうして地球、それもラピュータなんですか?マリメイダの人が地球の仮想空間サービスなんて知ってるわけないし。」
国王:「マリメイダだって、ハマジリに単純にやられているだけじゃない。ちゃんと他の星のことは調査してるんだよ。ただ、情報だけを送るにしても距離とデータ量に応じて電波の出力が増えちゃうので、どこでも送れるわけじゃない。たまたま、地球の仮想空間サービスがマリメイダ星のものと似ていたんで、データ量をかなり圧縮できたうえにどうにか届く距離だったから亡命先に選んだんだ。」
プリン:「もしそうなら、ハマジリ星の人たちも地球に来ちゃって大変ですね。」
国王:「プリンちゃん、君はとても賢いが、まだ我々のことを信じてないみたいだね。」
プリン:「亡命政府レストランの社長が本当に国王だったなんて、そんなラノベみたいな話ある訳ないじゃないですか。」
国王:「君が信じなくても、もう地球での戦いは始まってるんだよ。我々が亡命するときに強力な電波を使ったので、ハマジリ星のやつらもすぐに気づいた、そして、亡命政府狩りのエージェントを送り込んできてるんだ。」
プリン:「社長も冗談がきつい。エージェントなんて、ほんとにいたら教えてほしいですよ。」
国王:「もうとっくに来てる、彼らは『山本すし店』を拠点にしてる。だから、やつらの関係者をうちの店には入れちゃいけないんだ。」
(そこにアリマ王女もやってくる。)
プリン:「王女様、いつもありがとうございます。おかげさまで今月の売り上げは史上最高額です。」
王女:「お父様と真剣な話をしているところだったかしら。」
国王:「プリンちゃんに、山本すし店のやつらの恐ろしさを教えているところなんだが、全然信じてくれないんだ」
プリン:「私だって山本すし店にはぷんぷんですよ。イベントのアイデアパクられたし、広告打とうとしても、金の力でつぶしてくるし」
王女:「お父様、プリンちゃんは地球の人だから、私たちの戦いに巻き込んではいけませんよ。」
プリン:「王女様、大げさすぎます。私は王女様を心からお慕いもうしあげております。多少危険なことでも遠慮なく申し付けてください。」
王女:「私たちもプリンちゃんはとっても大好きだから、手放したくはないけど、私たちのせいで、かりなさんやピカちゃんに何かがあったらどう謝っていいかわからないの。そう考えるとすごく不安になるの」
国王:「一応、ハマジリ星のやつらも、一般の地球人には手を出さないだろう。それに実は最近、Bgonを再興することよりも、こうやって地球で生きてく方が正しいのじゃないかと思い始めてるんだ。国王としてBgonの民をちゃんと守れていたのか、ハマジリ星の影響下で民はむしろ幸せに生きてるんじゃないか。」
王女:「お父様、何弱気になってるんですか!そんな簡単に再興をあきらめないでください。」(何かが物理的に当たる音)
プリン:「ちょっと盛り上げってるところ申し訳ないのですが、そろそろお店を開く時間なので、私はお店の方に行きます。とりあえず、今度スタッフと一緒に山本の奴らをぎゃふんと言わせるイベント考えましょう」
3.中村かりなの活躍
(中村かりなの職場である高山銀行青い鳥支店での一幕。支店長のジャンと融資案件についての打ち合わせ。ちなみに高山銀行は、各VRソーシャルサービス上で支店を運営しており、青い鳥支店は、ラピュータ上の関東地区に設置された支店。)
ジャン:「松島エレクトロニクスへの融資の件だけど、工場に投資するから、また金を借りたいって言ってきた。もうすでに彼らには50億貸してるけど、まだほとんど売上立ってない。今回は慎重に対応した方が良いかもしれないと思うけど、かりなさんどう思う?」
かりな:「まあいいんじゃない。松島のやってる旧式ロボットの再生ビジネス、なんか面白いし」
ジャン:「面白い、とかそんな基準で融資しちゃだめでしょ。我々は、金融を通じてこの世界を安定させるために存在してる。我々はその使命を果たすために、ちゃんと融資を回収して、銀行としての収益を確保しないといけないの。かりなさんの給料だって、その利益から出てるのわかってるの?」
かりな:「今まで言っちゃいけないと思ってたけど、ジャンさんって結構年齢いってますよね?そんな回収できて当たり前の融資先なんて、今どきAIと勝負して勝てるわけないでしょ。こっちが提示する条件が完全に読まれて、その0.0001%下を正確に提示してくるんだから。」
ジャン:「たとえAIが相手であっても、熱意を示せば相手に通じて勝てることもある。いやそうでなくてはいけないんだ。」
かりな:「本当に不思議なのは、そんなジャンさんも、なんだかんだ言って私の判断を尊重してくれるところですよね。」
ジャン:「かりなさんの基準は、良くわからないけど、少なくとも、ちゃんと相手を調べてるし、冷静に分析してるのはわかる。悔しいけど、そこはかなわない。」
かりな:「じゃあ今回の件もOKということで。」
ジャン:「OKしたいんだけど、僕も、本部に理由を説明しないといけないことはわかってるよね。だから、松島がどうしてこれから成長するか説明はしてほしいんだ。」
かりな:「面白いからー」
ジャン:「だから、もう少し論理的に説明考えてくれー」
<人々の思惑がまじりあう仮想世界において、弱小マリメイダレストランは、無事に生き残っていけるのか、そして、きらきらネームを付けられてしまったピカっ子ちゃんの運命やいかに。プリン店長と銀行員かりなの奮闘はこれからも続く? かもしれない>
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