3月15日 眉の日

前日夜への誓い  2019年09月30日


5年ぶりの運転免許更新。

ゴールドな免許であはあるものの、ペーパードライバゆえに、

運転免許証はもはやよく役に立つ身分証明書。


そんな身分証明書利用の者にとって免許の写真は重要。

本人確認のためによく使うため、
いつもしっかり写真を確認される。


毎回、毎回、素行も機嫌も悪そうに映る運転免許。

今年こそは、堂々と見せられる免許にしたい。


いよいよ明日が更新日という前日の夜、

伸びすぎた前髪がやたら気になり出し、

夜ハサミでチョキチョキ切ったら、若干切り過ぎてしまった。


当日になり、いやな予感はしたけれど、

一晩たってみると、切りたての突っぱった前髪は、

さらに他の髪の毛とは別行動をし出し
完全に浮いてしまっている。


なすすべもないまま試験場では、

ベルトコンベヤーに乗せられたかのように、
写真撮影のブースにとっとと流れ着く。

心の準備も、前髪の準備もできないまま、フラッシュが光る。



講習ののち「意外とよく撮れたりして」

なんて期待は一瞬にして吹き飛ぶほどの、
残念な免許証が渡される。


なぜか5年前より面長によく伸びた顔に、垂れた短い前髪。

ペラペラ前髪付きのヘチマみたい、とテンションが下がる。

これをまた5年も身分証明書として
使わなければならないのかと、憂鬱な気分になる。


きっと、前髪さえあの時、切らなければ、

もっと、まともな免許になったに違いない。

思えば、いつもそうだ。

どうして、いつも前日に余計なことをしてしまうんだろう。


大学生になったばかりの頃、友達とサマーランドに行く前日に、

ボーボーに生えた眉毛が急に気になりだしたことがあった。


眉毛なんて整えたことがなかったのに、

慣れない手つきで、カミソリを眉毛に当てるうち、

気がついたら、左側の眉毛そほとんど剃り落としてしまった。


中途半端に残った眉毛。

書き足すにも邪魔で、結局、左側だけぜんぶ剃ってしまった。


翌日、サマーランドのプールの水は普通のプールとは違い、

流れるプール、波のあるプール、と、

容赦なく水しぶきが顔にザッパンザッパンかかる。


片方しか眉毛がないのは、全部ないより不自然なことに、

サマーランドで気づく。

しぶきを浴びるたびに、気になる左の眉毛。

トイレに行くたび、書き足す左の眉毛。


結局、お年頃のサマーランドは、眉毛のことばかり気になって、
プールの記憶はほとんどない。

写真を見ると、遠近法で左眉の不自然さをごまかすべく、

私だけ斜に構えて写っていてあやしい。


あれから数十年経ちいい歳になった今も、

なぜいつも、前日に余計なことをしてしまうのだろうと。


前日に、前髪さえ切らなければ。

前日に、左眉さえ剃らなければ。


大事な日の前日、「余計なことをしない」ということを、

5年後の自分にちゃんと伝えたい。


でも、分かっている。前髪があろうが、左眉があろうが、
運転免許の写真の目つきは、絶対ガラが悪く映るし、

生えててくる眉毛の代わりに、細くならない太い足が気になるんだろう。


これからも、気になる何かが、気がつかない何かを隠しながら、

ちょっとの不幸が、まあまあの平和を保ってゆく。


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