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ゼロの平方根・前編①

【祐天寺発砲事件・見えない実像】


平成17年3月25日
(深夜のNNTニュース)
今日夕方5時ごろ、目黒区上目黒二丁目町付近で銃の発砲音が聞こえたという住民からの複数110番通報を受け警視庁パトカーが急行。同時に付近一帯に緊急配備が敷かれました。捜査員が通報を基に捜索した結果、祐天寺一丁目矢羽坂ヘーゼルマンション宮坂晴美さん宅で宮坂さんの別居中の夫自動車販売業宮坂祐一さんと不動産会社社員板橋栄さんの死体が発見されました。宮坂さんと七歳の長女は負傷しており病院へ搬送されて共に手当てを受けている模様です。
現在、現場周辺および周辺道路では検問が続けられている模様です。


(夜のEBCニュース)
祐天寺のマンションの事件です。また銃器による犠牲者が出ました。頭部に銃弾を受けて死んだ別居中の夫自動車販売業宮坂祐一さん四十歳は晴美さんと離婚協議のトラブルを抱えていた模様。別居前の渋谷区のマンションでは数年前に幾度かの争い事があったとの事です。
また、胸部に銃弾を受けた不動産会社社員板橋栄さん三十五歳は晴美さんの転居の相談で二カ月前から頻繁に晴美さん宅を訪れていました。この日は午後四時頃に一緒に訪問した同僚を先に帰した後、事件に巻き込まれたようです。


妻の晴美さんと七歳の長女は現在も碑文谷中央病院で手当てを受けていますが警察は二人の回復を待って慎重に事情を聴く予定です。

平成17年3月26日
(深夜のKBSテレビニュース)
祐天寺マンションの事件です。現場に残されていた事件に使われたと思われる拳銃は自動装填式25口径ベルギー製FNポケット。装填された6発の銃弾の内二発が犯行に使用されたようです。22口径拳銃同様小型ながら殺傷能力も高く主に欧米では以前警備警護用などに広く使われていた銃。最近のアメリカ中古市場ではかなり出回っている拳銃のようです。戦前の国内司法警察官に貸与された旧型などでは無くその形状から一九七〇年以降に生産されたもののようです。
警視庁は死亡者二名の現状から事故ではなく殺人事件として目黒南署に捜査本部を設置、外部からの侵入による犯行を含め現場検証と拳銃入手経路の捜査などを進めています。後ほど記者会見が開かれます。

こちら二人の射殺体が見つかった祐天寺マンション現場前の現在の様子、現場付近、普段静かな住宅街ですが交通規制を受け捜査車両や坂の上まで取材陣の車が並び見物客も一段と増え騒然としています。
事件が起きた時、妻の晴美さんはこの、このマンション向かいのコンビニエンスストアで買い物をしており店員と共に拳銃の発砲音を二回聴いたという事です。
その店員さんに先ほど尋ねる事ができました。学生客が入店し自動ドアが開いた瞬間にまず一発目の音が聞こえ、十数秒後また別の客が外を確かめに出た際に二発目の発砲音が聞こえたと話してくれました。
捜査員の話では妻の晴美さんはちょうどレジ清算で並んでいたようです。
また長女のみや・・、失礼しました。七歳の長女は事件の際、現場となった七階自宅に二人の犠牲者と共に居たと思われます。現在も病院で手当てを受けています。
事件現場となった一室はこちらの道路に面した七階の一番西側の部屋です。今、白いシートでバルコニーが覆われている部屋です。

事件現場から中継でお伝えしています。

こちら捜査本部の目黒南署です。
先ほど二回目の記者会見が開かれました。
マンション管理防犯カメラおよび周辺防犯カメラの記録を解析した結果、また不審者の目撃情報も無いという事などから外部からの侵入による犯行の可能性は薄い、と考えているようです。
現状では被害者の情報等それ以外の新しい発表はありませんでした。
現場の精密な鑑識結果を待って明日にでも再び記者会見が行われる予定です。
被害者の一人不動産会社社員板橋栄さんの勤務先の説明によれば売却話を進めていたマンションは晴美さん名義。間もなく協議離婚が成立する見込みで静岡市への転出を希望、売買転居の契約を始めた矢先の事件だという事です。
板橋栄さんの同僚の話として妻晴美さんとの最終契約が早いスピードで成立しそうだと話していたそうです。
また、被害者宮坂祐一さんには以前平成14年に電磁的公正証書原本不実記録罪の容疑で逮捕されその後不起訴になったという履歴もあり、現在その関連性について調べているようです。
一方、碑文谷中央病院の母子のその後ですが、妻の晴美さんは左頬に軽い打撲症、左下腕部に擦過傷、全治一週間ほどの傷を負っており事件との関連性について事情を尋ねています。
また七歳の長女は事件現場に居合わせたための重篤な心的外傷があるとの事で新たに警察中央病院からも二人の専門医が派遣されるとの見通しです。幼い容態が気遣われる現状です。

(インターネットの掲示板情報、スレッド「祐天寺速報」)

夫、宮坂祐一は二年ほど前から川崎生田の一軒家に若い女と暮らしている。女は渋谷の化粧品会社経営の優れものだョ。

18
去年の正月あけ、宮坂社長がキレて怒鳴りまくっていた。山手通りのドンキの前。日焼けのあのガタイ、声はカンペキヤクザだから迫力あった。若い社員、みんなビビってた。マジやな奴。
22
晴美さん、美人。今もあこがれの隣の美人妻。おいらの鉢山瓦礫アパートの隣。隣の億ションに住んでた。昔話っす。

33
祐一の車はAMGのデッカいやつ。格安下取りします。だが税金払えない高杉。

37
祐ちゃんたしか以前に週刊FFに載ってたな。演歌デビューしたマジシャンの応援団長だったっけか。あのネーチャン歌もマジックもゼッテー売れねー。腰がくびれてるだけ、頭悪そー。

40
昔トカレフでそのあとマカロフ。最近のマルボー市場じゃロシア銃は重いしデカいしおまけにヤバい。だから今はみなさん一押しコルトポケット。安くて小型でコンビニエンス。ケータイの時代だぜ。あの世の宮坂さん、おたく、狙ってたでしょ、ガイシャ売れなかったし。

45
外部の人間の犯行じゃないってどういう事?宮坂がキレて不動産屋さん撃ってから自殺かい?罪におののいて自害するタマじゃねーぞ。

49
拳銃は祐ちゃんのお持たせ。嫉妬に狂って拳銃持って妻を訪ねたってユーのはストーカーレベル1だね。

52
不動産屋さん、今カレ?

57
板橋栄さんは7年前まで自衛隊の松戸駐屯地に居た。辞める前の階級は曹長かな?銃器の扱いには長けていたハズ。

60
板橋栄さんは真面目な人でした。キレたりした事は一度もアリマセーン。

65
板さんが祐ちゃんの鉄砲もぎ取ったら暴発、祐ちゃんが死んじゃってパニクってバーン!さすが元日本兵。

68
←65クソっ四ね!

73
晴美さんの本カレは年配弁護士だってうわさが

77
←73 違う。親が静岡市内の弁護士だってのがホント。

81
ハルミ、十五年マエ、渋谷のクラブにいた美人のサトミちゃん?

85
←81 絶対ガセ、有名私学K大出たあとロンドンに行ってた。キャバレーじゃネーゾ。それからブリスベンのANZ銀行にいて、最後はゴールドコーストの大きなファームに居た。ボクジョーじゃネーゾ。不動産専門ソリシタさんのアシスタントだった。街じゃウワサの高嶺の花子さんだった。おいらもワーホリ繋いで約一年のブリブリ暮らし、ミスチルの歌聴きながら思いは募ったぜ。

88
←85 お前、ほんまにエーゴできんのか?デブ短足じゃもてへんしな。世界違い杉。

95
子供の父親はユーチャン?なんか違う気がする。

97
←95 戸籍見たら解るのかな

100
スレッド超えた。新しいの立てて。


平成17年3月27日
(目黒南署記者会見)
遺体解剖の結果、被害者の一、自動車販売業宮坂祐一さん四十歳。25口径銃弾Aは被害者の下顎から延髄を撃ち抜き後頭部頭蓋骨にて停止。至近距離からの発砲により即死と思われます。
被害者の二、不動産会社社員板橋栄さん三十五歳。同じく銃弾Bは被害者の正面向かってやや左の至近距離から発砲、胸骨および心房を貫通、背面肩甲骨に停止、同じく即死と思われます。
両名の衣服、両袖部分の発射残渣の鑑識結果はこれらの発射距離にほぼ合致しております。
打ち殻薬莢についても同様です。
遺体解剖の過程で両名の両手に残っていた事が判明した部分的火傷については今後の解析を待つところです。
なお、銃弾AおよびBの時間的順序については未だ断定ができてはおりません。
ですので、被害者両名について被害者または被疑者の推定もできてはおりません。

凶器となりましたベルギー製FNポケットの25口径拳銃につきましては日本国内での拳銃不法所持検挙はここ十年で十数件があるもの凶悪な事件例はありません。反してこの拳銃の米国国内の激増している犯罪件数から推量すれば日本国内の今後の治安に関しましては、いささかの懸念をいだくものであります。
被害者遺族の母子でありますが、妻の打撲痕および擦過痕が被害者の行為に起因するものとの断定には至ってはおりません。付随的に起こる可能性全てについて捜査中です。
七歳長女の受傷、心的障害ですが碑文谷中央病院および警察中央病院専門医の診断によりましても著しい後遺症を所見しております。回復には相当期間を有すると思われます。
警視庁警察庁におきましてはこのような銃器による事件により一般市民の犠牲者が今後絶対に発生する事が無いように銃器の取り締まりを強化し運輸省および法務省との連携を密にしこれら銃器の駆逐を目指すものであります。


(目黒南署現場検証)
祐天寺マンション七階最西側714号室、事件現場のリビングルーム約40㎡を中心に再度実況検分。被害者A、宮坂祐一さん。リビング南窓側にコの字に配置された合成皮革製ソファー(コの字開放側は北側玄関入り口方向)の南側バルコニーを背にしたシートに左上腕をやや下にして座位。 膝上に遺留されたグレーのマフラーには血痕と付着、頭部金属弾受傷による出血の著しい飛散等は所見無し。貫通入り口部等からの破断多量出血や局部鬱血等の所見も見られず心停止は速やかに起きたものと推定。
被害者B、板橋栄さん。Aの左側、ソファー座部下、東側です、ここに受傷した胸部を下にしうずくまる姿勢で停位、やはり血痕の飛散は著しくないもののソファーカーペットにはBの相当量の出血が認められる。左手親指の付け根の圧迫痕および右手親指に薬莢飛出口での受傷と思われる火傷部がみられた他には特異な異変は無し。
使用された拳銃はそのBとAのちょうど中間、コの字型ソファーの中央に位置するガラステーブルの下に遺留。



平成17年3月28日
(目黒南署鑑識結果記者発表)
被害者AおよびBについて胃の内容物等の検査からは事前に摂取した通常の食事以外に薬物摂取等事件性に結び付く所見は全くありません。ただAについては微量のアルコール、おそらく数時間前に摂取した低濃度のアルコール飲料の残留と思われます。摂取当時の血中アルコール濃度から推量しても現在に至るまで酩酊等による運転や思考行為に影響を及ぼすものでは無いと考えます。
事件の凶器、残留の小型自動装填式拳銃ですが、多方向からの把握による両名の遺留指紋があり、また両名の掌には自動拳銃特有の操作過失による発射火傷もあり、発砲の際に両名が拳銃を巡り何らかの揉み合いがあったものと推量されます。ただし、両名に発射衝撃による銃杷支持部損傷等は所見無く、またトリガー部分の指先指紋痕跡等も履歴が不明で、未だにABどちらの受傷銃弾が先に発射されたものか、どちらかが加害者の立場の可能性であったか等の断定には至っておりません。また宮坂祐一さんがマンション駐車場訪問者用駐車装置に残した乗用車につきましては現在も当署内に留置しておりますが事件に関連ある所見は得られてはおりません。


平成17年3月29日 
(目黒南署捜査本部記者会見)
事件に使用され遺留されたベルギー製拳銃の刻印製造番号等を米国捜査機関に照会をかけたところ即刻返答を頂きました。感謝します。
同形式の一連製造番号の物二十丁は過去カリフォルニア州所在の民間警備会社の登録であった事が判明いたしましたが、その後の転移等についての詳細は判っておりません。この警備会社は2005年に事業を停止しております。
使用された拳銃の弾倉からは被害者Aの指紋およびやや不鮮明な複数の指紋も検出されております。
また残されていた四発の実包の一部および銃把内側等から、これは分解し再度組み立てられたと推定されますが、採取された遺留指紋により、自称音楽プロデューサー白井研一四十一歳を銃刀法違反、実包の所持容疑で先ほど逮捕いたしました。これから目黒南署に移送して取り調べを行います。


平成17年3月30日
(板橋栄氏葬儀)
弔辞。
板橋栄曹長。
貴兄は私たちの真の鏡でありました。
貴兄は正義がどの様なものであるか身を呈して教えて下さいました。

一時も変わらぬ姿勢で我々を導いて下さいました。

正義をもって守らなけばいけないもの、それはすぐそばににいる者。
必ず、必ず、傍らの者を守れ。
貴兄はいつも、常に、その事を、我々に言い含めてこられました。

我々は貴兄によって、板橋栄曹長によって、本当に、真摯に、国を守る事の本意を、教えて、いただきました。

本当に、ありがとう、ございました。
だから、そういう貴兄だから、あなたが命を呈してでも、貴兄が目指した、毎日のように貴兄が示し続けた、正義を貫いた、傍らの者を守り、続けた。・・・。我々は、そう考えております。

この弔辞を読ませていただく事をお許し下さいました板橋栄曹長のご両親に申し上げます。
板橋栄曹長の御霊はご指導をいただいた我々自衛隊員および退官隊員たちの心の中で生き続けております。
お父上、お母上。あなたがたのご子息は、本当に、本当に、素晴らしい方、でした。


(碑文谷中央病院小児科別室看護士談話)
お母さまがずっと付き添って看護されています。お母さまのご両親もよく見舞いに来ておられます。でも、お嬢ちゃんの回復、ほんとに、一歩づつ一歩づつ、なのかもしれません。今日まではまだ通常に声を発して会話する事が無いみたいです。でも、私たちからのお願いごとにはいつも素直に頷いて応じてくれます。とても賢い子って印象です。
当病院小児科担当医師も警察病院の専門医の方も、あとカウンセリング専門医の方もほんとに慎重に対処しています。警備の警察官、交代に四人ほど、女性警察官ですが、看護士と同じ上着を着てもらってます。他の捜査員の方にもお願いしてます。お嬢ちゃんに余計な刺激を与えないようにです。医師の指示です。
病室ですが扉を閉められるのが嫌で常時開いています。お嬢ちゃんがおやすみになっている時だけはベッド周りのカーテンが閉じられます。お母さまのベッドも特別に横付けされています。日中はほとんどカーテンも開いています。だから私たちも通路を普通に行き来する時、親子の表情が良くわかります。若い看護士さんたちは二人と目が会うたびに手を振って通ります。お嬢ちゃんの表情がちょっと和んできたかなって、そんな気がします。お昼前、今日は陽射しもありましたからお嬢ちゃんとお母さまは、公園側の中階パティオを散歩されてました。そこなら外のカメラマンから狙われません。お嬢ちゃん、お部屋に居る時からも公園の木をずっと眺めています。パティオの端から下に街路樹がこんもりと見えるんですがお嬢ちゃん、とても木がお好きのようですよ。ここ二三日でだいぶ落ち着いてきましたから、お母様が持って来られたルソーっていう画家の木の絵本を何度もめくってらっしゃいますよ。
昼過ぎ、病室で女性捜査員にカウンセリング医師が立ち会い少しお話しされてました。カーテンを閉められるのが嫌だそうでナースルームからもガラス越に中の様子は見えてしまいます。お嬢さん、時々頷いたり首を振ったり、お母さまが通訳って感じでしょうか、でも捜査員の質問に答えられていたのはお母さまだけ、お部屋から音は聞こえませんが。そう、カウンセリング医師が一度捜査員の発言を制していた様子でした。お嬢さんをお母さまが抱いてなだめておられましたから。微妙なお話しをされているって、私たちにもわかりました。



(鉢山生活時代。宮坂晴美さん長女の幼稚園同級生の母、友人談話)
宮坂晴美さん、とっても謙虚で知識も豊富な方でした。いつでも私も含め口だけ達者な婦人連の言い分を上手く調整していらっしゃった、温和な口調で決して雰囲気を高揚させず要点をまとめていらっしゃいました。お父さまのご教育だったのでしょうか。
お嬢さまも園内トップの理解力思考力を常々発揮されておりました。
ご主人さまに関しては何らの記憶もありません。


(宮坂夫妻の結婚式出席者談話)
私は亡くなった祐一の中学同級からの友人です。痛ましい事件です。あいつ、確かに切れやすい面がありましたが、基本的には相手を思いやる、そう、いいやつ、だったと思います。あの顔あの声あの態度では好き嫌いははっきり表にでちゃいますよ。でも、そのかわり、裏が無い、だから商売向きだと我々は思ってます。それにしても、あんな美人のいいとこお嬢さんを何故ゲットできたのか不思議です。
新婚旅行には私も無理ムリくっ付かされて行った一人です。みんなは祐一一人でカミサンとずっとアツアツに過ごす自信が無かったからだと思っていますよ。ホノルルで毎晩男の宴会でしたし、昼間というとビーチでビール浴びたり、そうそう、だから先週の事件が起きたって訳じゃないですけど、何度も射撃場に行きましたっけ。祐一、穴の開いた紙の的をトレーナーからもらってエキスパートって言われて有頂天だったな。



(渋谷区青葉台、宮坂オート店長談話)
社長の痛ましい事故の影響で輸入車の販売は極めて思わしくありません。すでに決まりかけていた物件も三つ、パーですよ。来月には総会で代表取締役を選べと銀行屋さんに攻められてますが、正直誰がなるのやら。個人保証ができる方なんて限られていますし。とにかくは明日の仕手決済、来月の資金繰り。まあ世の中なんとかなっちゃうとは思いますけど。あとは切りが着くところで事業の譲渡に向けるしかありません。社長のご遺族の為にもです。



平成17年3月31日
(同日発売写真週刊誌F掲載記事)
「潜入深夜の見本市・六本木拳銃闇市場?」
写真右二枠。①六本木外苑東通り、ピストルズバー店内、バーカウンター前、通常はボトルなどが置かれる棚にズラリと並んだモデルガン。②背面の壁一面、洋画のポスター、古いものではトーキー時代の「大列車強盗」、最新はアメリカテレビシリーズになった「SWAT」。高額希少品は十数万の値段が付けられている。

写真中央四枠、高級人気機種コルトガバメントは十九万円、良く売れるというベレッタ92は一万円弱、ジェームズボンド愛用ワルサーP99プロベラムは約三万円、最近は人気低下したダーティーハリーの44マグナムはそれでも約五万円、実物を精巧に再現した逸品が多くマニアには評判の高い店とガイドされている。他にマシンガンなども数十点、ただし持ち帰りが不便なので通販向きの機種だそうだ。

写真左三枠、①エアガンや火薬付モデルガンを実射できる部屋。かっては秘密クラブの裏部屋で現金カジノがあったそうだ。防音室になっていて、店オーナーのネットワークから実力ロックバンドの練習やミニライブにも貸し出されている。換気は悪そう。
②北側奥壁、ウレタンと合板三重の六尺パネルが隙間なく並ぶ表面の傷を見るとエアガンでもかなりな威力がある事がわかる。裏を覗くと壁のクロスにいくつもの穴が見える。実弾の痕のようにも思えるのだが。(店長は、「ありえません。広尾署の方もしょっちゅう巡回してもいますから」とか)
③メニューのようなガン価格表とライフル弾を模したマドラー、取手にトリガーが付いた縦長のビールジョッキ、こだわりの証なのだそうだ。

平日夜十一時過ぎてもまだ店内には十人ほどの客。店内には一応風営法2号と古物商の届け出許可が飾られている。



平成17年4月8日
(目黒南署記者会見および配布資料)
えー冒頭に。すでに入り口張り紙ご確認頂けたとおもいますが、「祐天寺二名射殺体事件」と呼称を替えております。
遺留拳銃の入手先ですが3月29日に逮捕した元音楽プロデューサー白井研一を銃刀法違反、当該拳銃他25口径コルトポケット計2丁の密輸容疑同譲渡容疑、実包12発の密輸容疑、同譲渡容疑、これらの容疑が固まり4月2日東京地方検察庁に身柄送検、先ほど同容疑により起訴いたしました。概略についてはお配りした資料をご覧ください。
なお遺留拳銃は同日被疑者宮坂祐一死亡のまま銃刀法違反事案にて書類送検しております。
また、残存すべきコルト小型拳銃および実包につきましては本日鋭意関係先家宅捜索を実行しており、その所在解明を急いでおります。ただし、発砲事件現場となりました祐天寺マンションはすでに捜査済みとして除外されております。家宅捜索箇所は宮坂祐一経営社屋各事業所三カ所、渋谷区鉢山町事務所兼旧自宅、川崎市生田区の現居宅、港区南青山の同氏実質経営の飲食店、渋谷区渋谷の同氏実質所有の倉庫兼音楽スタジオ、渋谷区桜ヶ丘町芸能プロダクション事務所、計9箇所であります。
また現場マンション一室の家具敷物等はご遺族の強い希望があり民間処理業者による廃棄となりましたが、一部については所有者の許可をいただき江東区新木場警視庁科学捜査研究所に仮置きし詳細な再鑑定を進める予定であります。

資料
容疑者白井研一は平成15年9月18日渡米。カリフォルニア州パサデナの飲食店においてコンサートで来日予定ある音楽グループWARPの警備担当者ジョナサン・エル・ロペツから当該二丁の拳銃を入手、容疑者自ら分解し同WARPの備品であるギターアンプ等に巧妙に隠し終え、同年9月30日WARPメンバー等とは別に一日早く帰国、メンバー等の機材としてANA便で日本に持ち込ませたものである。成田から宿泊先の赤坂の施設で分解した拳銃を取り出し、日をだいぶ置いてから自室において組み立てた。
同様な手法を利用し同年11月6日渡米、将来の違法な銃器密売をも画策して、カリフォルニア州内の違法ガンショップで不法に25口径実包2箱百発および中古コルト小型銃など八丁を合計約三千ドルで購入、前述ジョナサン・ロペツに預け、そのうち実包12発を試験的に日本より持ち込んだ内径約11ミリの側面解放真鍮チューブに詰め、直後に来日予定だったのジャズ楽団員から一旦サキソフォンケースなどを預かった後、その内部に巧妙に隠し、ロスアンジェルス国際空港で他の器材に合流させやはりANA便で日本に持ち込ませた。同様に同年11月10日、成田で他の器材と共に港区内の音楽スタジオに運び実包入りの真鍮チューブを取り出した。FN拳銃二丁分部品はその後組み立て拳銃二丁に仕上げそれぞれに実包六発を装填、平成15年12月3日午前10時頃、神奈川県横浜市中区南本牧港湾工事現場付近においてFN拳銃およびコルト拳銃を工事現場のパイル打ち込み音に合わせ海に向け二発づつ、両容疑者それぞれ一発づつ試射し性能を確認した上で容疑者は宮坂祐一容疑者にその場において拳銃二丁および装填実包8発および試射実包4発分の価額現金45万円を受領し譲渡したものである。

平成17年4月9日

(インターネット掲示板・スレッド「祐天寺速報続報版」)

ひさびさスレッド立ちました。わくわくお願いします。真面目にやりたいのであらしは御法度です。


白井研一くんはN大芸術の先輩っす。2002年に天才殿下プリンス初来日ではあの顔だけど器用で機転が効いて殿下にケンとまでよばれて重宝がられてたって、舞台裏じゃ有名。赤坂でもお台場でもスタジオ顔パスだったらしい。その後に植毛していろんなプロモしたけどノーパットだったらしい。

15
ケンちゃん、大学出てからマツタケ芸能で小道具作ってた。実家は金属加工やさんだったからあそこじゃすぐ出世した。でも、ほんとに女に縁がなかった。髪の毛薄くて二十代でもうカチョーってあだ名。

33
白井研一、テッポーオタクの雑誌では白井拳一といいます。枯れた銃器評論家です。イスラエルでレポした特集ではメルガバ戦車の前でアサルトライフルを構えてました。


(新聞各紙朝刊および夕刊)
■祐天寺マンションで小型拳銃による二人の射殺体が見つかった事件、昨日行方のわからない別の拳銃を捜索するため合計9箇所の家宅捜索が行われましたが拳銃発見にはいたりませんでした。捜査本部では引き続き関係各所の捜索を行う予定です。

■祐天寺マンションで亡くなった元自衛官で不動産会社社員板橋栄さんの所属していた自衛隊松戸駐屯基地の隊員および元隊員約六百名が警視庁に対し板橋さんを加害者と断定しない事を求める嘆願書を提出している事がわかりました。受理した警視庁は板橋さんの優れた人格を表す貴重な意見として受け入れるものの従来通りの捜査に何らかの変更を与える考えは無い、とコメントしました。

■本日午前、碑文谷中央病院に入院していた宮坂晴美さんの長女七歳が無事退院し、宮坂さんの実家のある静岡市に向かった。担当していた医師によると家庭の生活環境で更なる回復が期待できると判断したという事。今後のケアについてはご家庭に近い静岡市立医大付属の専門医が引き継ぐ予定。


平成17年4月14日
(午後の捜査本部記者発表)
3月28日、目黒区祐天寺マンションで発生した小型拳銃による二名の死亡事件ですが、現場に遺留された血痕の着層を警視庁科学捜査研究所の鑑定により、被害者板橋栄さんの血痕の上に宮坂祐一の血痕が付着したと結論され、その経緯から板橋さんが先に被弾、二発目の発砲により宮坂祐一が被弾した、と、断定いたしました。板橋栄さんは宮坂祐一との何らかの口論、不動産契約に関するものと推定しておりますが、その過程において宮坂祐一が所有持参した25口径小型FN拳銃、所有持参した動機については判明しておりませんが、当該拳銃を取り合う最中に暴発、板橋栄さんが一発目の銃弾を胸部に受け、その後失血死に至った。その後板橋栄さんの手に残された拳銃、その時点ではまだ板橋さんには手の握力および上腕部の筋力は維持されていたと推量いたしますが、当該拳銃を宮坂祐一が取り上げようとした時、二発目の銃弾が暴発、拳銃は発射衝撃により両名の手を離れ床に落ち、宮坂祐一は取り上げようとした動作慣性等によりソファーに座位したもの。宮坂祐一は二発目の銃弾を頭部に受け即死したものです。
両名の着衣に遺留された発射残渣および両名の両手に遺留された煙硝反応および指先火傷の所見にこれらの一連の行為に矛盾するものはありません。
以上、二名の死亡に至った過程を結論いたしました。
なお、宮坂祐一をすでに銃刀法違反で書類送検しておりますが、さらに被疑者死亡のまま業務上過失致死罪で追送検いたしました。
本日、祐天寺マンション二名死亡事件につきましては以上を持ちまして目黒南署捜査本部を解散いたします。
なお、本件においてご遺族の被害につきましては特に長女七歳の一刻も早い完全回復を願うものであり、今後犯罪被害者等基本法に基づき国および地方公共団体が関連機関と連携し長期的看護をご支援いたす所存であります。
また、不明なコルト小型拳銃の捜索に関しまして引き続きこの目黒南署で続ける事になっております。


平成17年4月20日
(宮坂祐一を契約者とする生命保険A社B社、損保会社C社代理店談話)
A社
当社、宮坂祐一氏を被保険者、配偶者を受取人とする生命保険がございましたがお答えできるのは契約履行に関しては今のところ問題がございませんという事です。詳細に関しましてはお答えできかねます。

B社
融資保証の要件により代表者を被保険者、会社を受取人とする加入生命保険がありますが詳細はお答えしかねます。

C社代理店
司法機関の決定で本件は事故と結論されましたから、保険金支払いを直ちに遮絶する要因は無くなりました。生保も同じでしょう。
銃刀法違反は不法行為ですが別個独立した行為、事件では、もう一方に対しては業務上過失致死ですか、これは犯罪行為ですが、自らを死に至らしめたのは事故に起因するというものなわけです。それに死亡に至らしめる当初の目的があり使用されたものじゃ無いとされましたから。うちが扱ったのは車両保険を含む総合保険です。個人のものも、事業者のものもあります。結論異なれば全く違った判断でしたよ。ただ微妙な解釈もありますから、今後の事は上が決める事なのでわかりません。


(宮坂オート経理役員談話)
顧問弁護士の意見も聞いております。宮坂社長は常に会社の事を考えておられましたからこれらの保険に関しましても万が一の事を考えてここに法人登記した頃から加入継続してきたものです。現在、当社は順調な事業譲渡手順を進めております。優秀な経営者でありました宮坂社長はこうしたご配慮をも考えておられたということです。頭が下がります。不慮の事故で命を落とされた宮坂社長は誠にお気の毒です、ご冥福をお祈りします。



(東京都目黒区区役所・死亡届)

平成17年4月15日
■死亡した配偶者、本籍・目黒区若葉台二丁目3番11号、宮坂祐一
■死亡した日、平成17年3月25日

東京家庭裁判所・子の氏変更許可申立
平成17年4月15日
■申立人、法定代理人宮坂晴美
■申立をする子、宮坂葉菜
■申立の趣旨、申立の氏を宮坂から母の氏・佐藤にする
■申立の理由、6・父の死亡後母復氏
■申立の動機、6・犯罪被害者等基本法に基づく子の傷病回復

東京都目黒区区役所・復氏届
平成17年5月8日
■届出人、東京都目黒区祐天寺一丁目53番21号、宮坂晴美
■死亡した配偶者、本籍・目黒区若葉台二丁目3番11号、宮坂祐一
■復氏する氏、佐藤、父・佐藤孝一郎、母・加津子、続柄・長女
■元の戸籍に戻る

(東京都目黒区区役所・転出届)
平成17年5月8日
■転出先、静岡市籠上南町一丁目三番5号

(静岡市市役所・入籍届)

平成17年5月14日
■申立人、法定代理人・佐藤晴美
■入籍する子の名、平成9年9月11日生・葉菜、続柄長女
■添付、戸籍事項全部証明書および家庭裁判所許可審判書の謄本


NEXT→②平成疑惑の銃弾 最後の13秒

https://note.com/kotan777/n/nb4a02a4f78e9

全エピソード一覧を見る

https://note.com/kotan777/n/n2f3d40418d14

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