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作曲家ジョヴァンニ・ソッリマの楽曲を聴こう!弾こう!

 今年2020年、全国各地でコンサートが予定されている話題のチェリスト、ジョヴァンニ・ソッリマ。昨年は「100チェロ」というぶっ飛んだ企画で話題を呼んだが、今回は作曲家として更に注目を集める機会ともなりそうだ。

 5月の来日に先駆けて、現在57歳のソッリマは作曲家としてどのような道を辿ってきたのか。およそ30年の変遷を、年代順に並べた約20作で辿ってみることで、より深くジョヴァンニ・ソッリマを理解できるようになるはず。

(クラシックの枠におさまらない、新しいレパートリーを探している演奏家の方々にも是非お聴きいただきたい。特にお薦めしたい作品には★印を付けてある。)

▶学歴

・1962年10月24日、シチリア島生まれ。
・作曲家兼ピアニストの父エリオドロ(1926–2000)のもと音楽を学ぶ。
・父の友人、チェリストのジョヴァンニ・ペリエラ(1923–88)に
 チェロを習いはじめ、1973年にはパレルモ音楽院に入学。
・1980~1985年にかけてはドイツ語圏に留学し、
 ザルツブルクでチェロをアントニオ・ヤニグロ(1918–89)に、
 シュトゥットガルトで作曲をミルコ・ケレメン(1924–2018)に師事。

▶20代

1989年(27歳):
  Siciliana con variazione シチリア変奏曲
[編成…ギター独奏]

 曲名は「Tema con variazione 主題と変奏(変奏付き主題)」という定型のタイトルを前提としたもの。拍子と小節線のない音楽で、不協和音が中心であるのは、1980年代前半に前衛的な現代音楽の作曲家に師事していたからでもあるのだろう。ミニマル・ミュージック的な要素はまだない。

1991年(29歳):
  In B [In Si] イン・シィ
[編成…ピアノ独奏]

 タイトルは、おそらくテリー・ライリーの《In C(イン・シー)》のパロディであろうか? 前掲の「In B」に比べると、不協和で抽象的なサウンドは、少しずつ和らぎ、曲の展開のなかにミニマル・ミュージックのような反復も表れはじめる。

▶30代

1992年(30歳):
  Africa アフリカ
[編成…ヴァイオリン2、ヴィオラ、チェロ2による弦楽五重奏]

 全3楽章による約20分の作品。30歳になる年に書かれた本作では、はっきりとミニマル的な反復が基調になりはじめる。

  Cello Concerto チェロ協奏曲
[編成…チェロ、室内管弦楽]

 オーケストラは、弦五部+オーボエ1、ホルン2と小さめの編成による、全3楽章(緩―急―緩)。音源があるのは第2楽章だけなのだが、ここでもはっきりとミニマル・ミュージックを意識した音楽になっている。

1993年(31歳):
  Agnus Dei 神の子羊
[編成…テノール、管弦楽]

 残念ながら音源はないのだが、マフィアに暗殺された裁判官ジョヴァンニ・ファルコーネとパオロ・ボルセリーノを追悼するレクイエム(他の楽章は、同世代の作曲家たちと共作)。ソッリマがイタリア国内で作曲家として注目されるきっかけとなった作品である。

  ★Violoncelles, vibrez! チェロよ、歌え!
[編成…チェロ八重奏]

 いわずとしれたソッリマの代名詞的作品。オリジナルは、チェロの独奏2名と弦楽オーケストラという編成なのだが、上記の動画はチェロ8名で演奏するバージョンである(チェリストの顔ぶれがとっても豪華!)。
 タイトル自体は、ソッリマおよび作品を献呈されたチェリスト マリオ・ブルネロの師匠であるアントニオ・ヤニグロの言葉からとられた。また作品のインスピレーションも、この留学時代のザルツブルクでの写真から生まれたもので、他にもナムジュン・パイクのTVチェロからも刺激を受けたという。

1995年(33歳):
Spasimo スパジーモ(苦痛)

 サンタ・マリア・デッロ・スパジモ教会を2015年に復興した際に、委嘱された作品。チェロ独奏のバックを、五重奏(ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、キーボード、打楽器)とCDによる電子音響が務める。
 上の録音(1996年)が、実はソッリマにとってのCDデビュー(ただし国際的に発売されたのは2000年のこと)。この作品が成功を収めたことで、ソッリマはやっと国際的な作曲家へと歩みを進みはじめる。

1998年(36歳):
Aquilarco アキラルコ

 アメリカへ演奏旅行をしたり、奨学金を得て短期留学をしていたりしたソッリマ。フィリップ・グラスに認められ、彼のレコード・レーベル Point Musicに録音したのが本作。自分の信頼する親族の演奏家に加え、アメリカのSteve Reich EnsembleやBang On A Canのメンバーも演奏・制作に携わっている。作風としては、やはりBang On A Canのメンバーらによるポストミニマルに近い。

  Lamentatio (Lamentation)
[編成…チェロ独奏]

 「チェロよ、歌え!」と並び、様々なチェリストのレパートリーになっている楽曲。チェロ奏者自身が歌うことを要求される、民族音楽的かつ打楽器的な要素が際立つ。

1999年(37歳):
  Alone
[編成…チェロ独奏]

 歌うことに抵抗のあるチェロ奏者にはこちらを。無伴奏チェロの可能性を切り開くような、演奏効果抜群の作品。

  Millennium Bug
[編成…打楽器四重奏]※全3楽章

 ソッリマとしては珍しい打楽器四重奏。新しくユニークなレパートリーを日々求めている打楽器奏者たちにお薦めの楽曲だ。

2000年(38歳):
★Viaggio in Italia イタリア旅行
[編成…チェロ独奏、弦楽四重奏、CD]

 民族音楽的な要素と、プログレッシヴ・ロック的な要素が掛け合わされた作品。イタリアの文化を辿っていく全14曲による70分弱の大曲で、聴き応えがある。

▶40代

2002年(40歳):
★Ellis Island エリス島(Roberto Alajmoの台本の基づく、全2幕のオペラ)

 実は、ソッリマは歌モノが良い。多数のオペラなどの舞台作品を手掛けているのは、オペラの本場イタリアらしいと同時に、フィリップ・グラスやジョン・アダムズなどといったオペラを得意にしているミニマル系作曲家の系譜も継いでいるのだ。

2003年(41歳):
  Terra Aria テラ・アリア(地球の歌)
[編成…チェロ独奏]

 本来はチェロ独奏の楽曲なのだが、2つ目の動画はオランダ管楽アンサンブルが編曲版をカバーしたもの(イランのシンガーソングライターとのアルバムにも収録されている)。このアレンジがまた素晴らしく、弦楽器を主体にすることが多いソッリマ作品としては珍しいカラフルなサウンドを堪能できる。

2005年(43歳):
★Theory of the Earth セオリー・オブ・ジ・アース
[編成…三味線独奏、チェロ独奏、管弦楽]

 日本人三味線奏者 西潟昭子さんからの委嘱で書かれた作品。2005年に初演されたが、今年2020年、15年振りに再演される。上記動画は抜粋だが、第4楽章がとりわけ素晴らしい。

2007年(45歳):
  The Black Owl 黒いフクロウ
[編成…ギター、弦楽アンサンブル]

 やはりソッリマのポストミニマル的な音楽とクラシックギターの愛称は抜群。同じ撥弦楽器を独奏に要する「セオリー・オブ・ジ・アース」と聴き比べてみるのもよいだろう。

2010年(48歳):
★Arboreto salvatico 野生樹木園
[編成…チェロ 二重奏]

 チェロ2本とは思えぬ、分厚い響きで演奏効果は抜群。15分という演奏時間も手頃で、今後演奏機会が増えそうなイチオシ楽曲である。

▶50代

2013年(51歳):
Antidotum Tarantulae XXI
[編成…チェロ2、管弦楽]

チェリストのヨーヨー・マと指揮者リッカルド・ムーティのために書かれ、シカゴ交響楽団によって初演された「2台チェロと管弦楽のための協奏曲」。この10年で書かれたソッリマ作品のなかでも代表作に位置づけられる作品である。

2016年(54歳):
★Ohne
[編成…声楽、ピアノ]

 ソッリマの姉ドロテラはピアニストなのだが、その姉の娘フランチェスカ・アダモ・ソッリマは声楽家。この親子が演奏するソッリマの歌曲である。

2018年(56歳):
  Short Trio Stories
[編成…フルート、チェロ、ピアノ]

 フルート、チェロ、ピアノという編成は珍しいように思われるが、実はジャズを取り入れたカプースチンもこの編成のために人気作品を書いているので、セットで取り上げられそうな曲としてお薦めしたい。

▶楽譜について

https://www.sonzogno.it/en/composer?id=1751&lang=en&epoca=1

 初期作品などを除けば、ソッリマ作品の大部分はCasa Musicale Sonzognoから出版されている。現在は各種ネットショップから取り寄せも可能なので、演奏家の皆様は、是非色んな楽曲をレパートリーに取り入れてみてほしい!

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