2.西の大陸

〇西の大陸

・星の都

ユウ ここは……?
リヒト とりあえず、森は抜けたみたいだな。
たたら あ!あそこに街が見えるよ。遠目からでも光ってるように見えるけど……魔法都市ではなさそう……?
ユウ えっ!?俺達そこでジャンさんと落ち合う予定だったよな……どうしよ……。
ジャントール それなら問題ないわ。そのままその先……【星の都】まで進んで頂戴。(通信)
ユウ・たたら ジャンさん!?
遥人 お、もしやとは思ったけどやっぱあのジャンさんだったのか~
俊介 まあ、それ以外いないよな……
リヒト え、まって俺知らねーんだけど……つか、前から思ってたけどこれってどうなってんだ?念話?
ジャントール まあまあ、細かいことは置いておきましょ♪(通信)
ジャントール 改めまして、アタシはジャントールよ。気軽にジャンって呼んで頂戴♪(通信)(ウインク)
リヒト っ……!?今、なんか今、心なしか悪寒が……
ジャントール あらあら、会話だけでも分かるわァ~!可愛い子は大歓迎よ!(通信)
リヒト まあ、歓迎されてる?のはありがてーけど……俺、一旦リヒト達のところに戻ろうと思っててさ。だからわりーけど、そっちには行けねえわ。向こうに二人も残しちまってるし……。
ジャントール あら、それは残念……それじゃあ、またの機会に。いつでも大歓迎よォ!(通信)
リヒト お、おう……ま、機会があればな……。
リヒト ってわけだから、一旦ここでお別れだ。また何かあったら呼べよ。特に遥人。
遥人 兄貴~!その話はしない約束だろー!
俊介 ま、あれだけ心配かけてりゃあな……殴られてないだけマシだと思えよ。
遥人 たたら~あいつらなんか冷たい~!
たたら よしよし……。
ユウ それじゃあ、また。今度は俺もちょっとくらいは戦えるようになっとくので……。
リヒト おう、またな。今度会うときを楽しみにしてるぜ。





ジャントール 絆っていいわね……アタシも久々にオズちゃんのところにアタックしようかしら♪(通信)
俊介 やめとけって……オーウェンの胃のためにも……。
ジャントール 冗談よ……っと、アタシとしたことがつい話が脱線してしまったわ。アタシの名前を出せば通れるはずだし、詳しい話もそこでするんだけど……とにかく、急いで星の都まで来て頂戴。みくりちゃん達が大変なの。(通信)





回想

ジャントール 時間がないから走りながら聞いてちょうだい。今この都は神として祀られている邪龍ピスケスと、その意思を伝えるかんなぎによって成り立っているみたいなんだけど……その素性は一切明かされていないのね。それを聞いたノアちゃんは血相を変えて追いかけたんだけど、それきり連絡が途絶えてしまって……みくりちゃんも行方不明みたいだし……。(通信)
たたら そんな……。
ユウ ごめん、俺いまいち話がつかめない……ので、誰か説明してくれると助かります……。
俊介 そっか、ユウはみくりの出身地知らなかったんだったな。
俊介 ジャンの言う星の都ってやつと俺達の知ってるメルクリアが同じかどうかは分かんねーけど……。
??? 同じなわけないだろ。
遥人 ヒビキ!!……と、誰だ……?
ヒビキ 挨拶はいい。今はそれどころじゃないし。
ルーク 俺はルーク。細かいことは追々話すとして……。とにかく中に入ってくれ。ジャンさんもそこで待っている。





ルーク 星の都についてはさっきジャンさんから聞いたと思うから省くが……。メルクリア……今はギルバスだったか。この国はかつて、星の民のみが暮らす王国だったんだ。千年王国の異名も持つこの国は、百発百中の未来予知と竜神ピスケスから賜った不老不死の神性で栄華を極めた。でも、その尋常ならざるチカラは、彼らを内側から蝕んでいったんだ。
ユウ 内側から……?
ルーク ああ。どんな生き物でもいずれは死ぬ。それが、この世界の理であり、超えてはならない一線だ。だが、彼らはそれを超えてしまった。自身の感情を犠牲にして。
ルーク 俺も元はホムンクルスだからな。まあ、個体差抜きにしても俺は感情の機微には疎い方なんだが……。それでも、これが正常な人の営みでないことは分かる。何も感じないのなんて死んでいるのと同じだ、とノアは怒っていたが……俺も、その通りだと思うよ。
ユウ (……でも、この人はとてもそんな風には……)
ルーク ……少し、話がそれてしまったな。それを何とかしようとしたのが、俺とノア、そして当時の最高司祭であるスグリだったんだ。まあ、俺はチカラの源であるピスケスを封印するくらいしかできなかったが。
ヒビキ でも、俺達の世代、滅びの年に、ピスケスは復活した。邪竜として。
ヒビキ きっと、ピスケスは絶望していたんだろ。かつて祖先がチカラを分け与えた一族の慢心と、それを見極められなかった自分自身に。まあ、それだけは俺も共感できるけど。
ヒビキ ともかく。この三人の尽力のかいあってピスケスは封印、慢心を極めた星の民は滅んだ。俺とみくりを除いてな。
遥人 へー……そんなことが……
俊介 いや、お前はすぐりから聞いただろ。
遥人 バレたか~
俊介 絶対寝てたなこいつ……。
ユウ あれ、でもみくりとヒビキ以外ってことはってことは、ルークは……。
ルーク ああ。といっても、俺は封印されていたから厳密には違うが……。何にせよ、本来封じられているべきはずのものが出てこようとしていて、現に今も影響を及ぼしているんだ。野放しにはできない。それに。
ルーク 誰かを傷つけてしまうのなら。分かり合えないのなら……同じ世界では生きられないから。

回想

ユウ ―――。
ヒビキ ま、俺は利害が一致したから協力してるだけだけどな。みくりとスグリ以外どうだっていいし。
俊介 (こいつほんとブレないな……)
ジャントール あらァ、ヒビキちゃんったら照れちゃって。一番にピスケスを倒そうって言ったのに。
ヒビキ ちがっ……それはみくりの身も危ないからで……!
ヒビキ ……とにかく!現状の目的はみくりとスグリを救出して、ついでに出てこようとしてるピスケスも倒す事だ。
たたら でも、先にみくりとスグリさんを助け出すにしても、どうやって助け出そうか……最高司祭と巫女ってくらいだから多分それなりの場所にいるとは思うけど……簡単には入れないよね?
ジャントール それに関しては、アタシに任せて頂戴。必ず成功に導いて見せるわ。




回想:潜入直前

ジャントール ちょうどこの後、最高司祭様たちのいらっしゃる宮殿に呼ばれているの。なんでも、祭事用の服を作ってほしいからその打合せをしたいらしくて……。だから、アナタ達にはアタシのお手伝いとして潜入してほしいの。打合せの間は見学とでもいって誤魔化せばいいわ。数時間しかないのが申し訳ないんだけど……。アタシの方でもなるべく話を引き延ばすから、その隙に二人を見つけ出して救出して頂戴。我ながらかなり無茶な作戦だとは思うけど……。
ヒビキ いや、その案でいこう。というか、それ以外に潜入する方法がない。
ルーク 俺も賛成だ。いっそあえて捕まることも考えはしたんだが、リスクが大きいしな……。
俊介 (あれ、こいつもしかして意外とぶっ飛んでる……?)
遥人 それはそれで楽しそうだなー!俺牢屋とか入ったことないし!
俊介 話ややこしくなるから一旦黙っててくれ。
ヒビキ 話はまとまったな。それじゃあ、救出作戦開始だ!
一同 おおー!!





ユウ ……と、意気揚々と乗り込んだのが大体一時間前。中には入れたけど……。
遥人 こんなに中が広いなんてきいてない~
ルーク 流石に闇雲に歩き回るのは得策ではないだろうな。
俊介 でもこの規模だと、せいぜい応接塔ってところか……?ここに全部は収まらないだろ。
遥人 わーお、感覚……ん?
たたら ハル、どうかした?
遥人 いや、ここにいい感じのボタン(?)があって。
俊介 ごめん、俺今めちゃくちゃ嫌な予感してる。
遥人 なにかなーって押しちゃった♪

床が抜ける

ヒビキ えっ
ユウ うそだろおおおおお!?!?





ユウ みんな無事か……?
たたら なんとか……。
ルーク 同じく……。
俊介 お前、今度から絶対知らないもの触るなよ。
遥人 ごめーん……
ヒビキ ったく……もう少し考えて行動し……。
ヒビキ ……………。
??? ……あの……私の顔に何か……?
遥人 …あー、そーいうわけじゃないんだ!ほら、こいつ口下手でさ~!なー!!
ヒビキ むぐぐぐっ……!!
ユウ (ナイスフォロー……なのか……?)
??? よかった、いきなり落ちてきたときはびっくりしましたが……怪我が無さそうでよかったです。
俊介 冗談、だろ……
たたら 君は……
ヒビキ っは……みくり……?
みくり ―――。
みくり ……私の名前を知るのは最高司祭様と限られた者のみのはずなのですが……。
俊介 (どういうことだ?これはまるで……)
??? 君達、こんなところで何をしているんだい?
たたら !君達は……
ユウ シエルと……ノア!?
シエル ノア、君の知り合い?
ノア ……。(ルークを見ながら)
ノア ……あ、ごめんごめん!そうだよ、ボクの『昔の顔なじみ』さ。でも。
ノア ごめんね~。ボク、この通り今職務中なんだよね~。だから……『今は』、一緒に行けない。
ルーク ……わかった。
シエル よし、なんだかよく分からないけど話はまとまったみたいだね。というわけだから……
シエル 君達、おとなしく捕まってくれるかな?
一同 !?!?
ノア は!?!?キミ、何を言って……。
みくり そうです、この方達は……
シエル 問答無用です。この者達は勝手に貴方の部屋に侵入した。ジャントール氏の付き添いとはいえ、これは立派な不法侵入です。衛兵、連れていけ。
衛兵 はっ!
俊介 ちょっ……!?
衛兵 そこのお前!暴れるな!
ヒビキ うるさいっ離せっ……!俺はあの子に……!
ヒビキ 必ず……必ず、君を迎えに行く!だからっ……!





ヒビキ(回想) 必ず、君を迎えに行く!だからっ……!
みくり (思い出せない。けれど、あの人達は、確かに私の……)
みくり いたっ……!
みくり (……いいえ、今はやめましょう。今の私はこの地のかんなぎ。例え他でどんな縁があろうとも、それはこの地を投げ出す理由にはならないのだから。)
大臣 かんなぎ、祈祷の時間だ。
みくり ……はい、今向かいます。





ノア (どうして彼がここに?幻術か何かか?でも、偽物のようには思えなかったし……)
ノア だはー!!やめやめ!考え込むなんてボクらしくない!
シエル 相変わらず君は元気だね、ノア。
ノア シエル!
ノア ……。
ノア ねえ、シエル。これは話半分で聞いてほしいんだけど……。キミは、本当にこのままでいいと思ってる?この国の在り方も……かんなぎの、みくりの命運も。
シエル それ、言う相手が僕じゃなかったら不敬罪で処刑ものだよ?
ノア わかってるよ~!だから話半分って言ったじゃん!興味本位!
シエル うーん、そうだなあ……といっても。
シエル 最高司祭がいない今、かんなぎの意志は絶対。まあ現状実権は大臣が握っているからそうとも言い難いけど……。でも、僕達は騎士だし、彼らは上司だ。その命に逆らうなんて許されないよ。
ノア ふーん。でも、その割にはさっきみくりの言葉を遮ってたよね?
シエル 世の中には建前というものがあるからね。それに、長い物には巻かれろっていうだろう?
ノア ボク、巻かれるより解く方が好きだな~。キミもそのタイプに見えるけど?
シエル あはは、間違いないや……と言いたいところだけど。やっぱりお偉方は怖いからね。僕はここでおとなしくしてるよ。
ノア (……違う。君主は確かに敬うべきものだ。でも、その忠誠は本来臣下を縛るものじゃない。少なくとも、彼らは……ルクスやスグリはそうだった。だから)
ノア ま、キミにも分かるときが来るさ。ボクはキミを信じてる。短い仲ではあるけれど……君は、いい奴だからね。
シエル 褒めても何も出ないよ。……それじゃあ、僕は予定があるからこれで。君は見回りでも何でも好きなようにするといい。今日、ほんとは非番なんだろう?
ノア ありゃ、バレてたか。それじゃ、お先に失礼~!
シエル ……。
シエル (分かるよ。持たざる者だった僕にだって、良くしてくれた人はいた。それに、恩を仇で返すほど僕も落ちぶれてはいないさ。だから)
シエル ……少しだけ、騙されてもらうよ。ノア。





俊介 くそっ!いきなり牢屋にぶち込むやつがあるかよ!
遥人 ごめん、俺もまさかほんとに入れられるとは思わなかった。
??? あはは……それは私も同感です。
一同 !?!?
たたら 貴方は……スグリさん!?でも、どうしてこんなところに?
俊介 確かに。お前、最高司祭じゃなかったのか?
スグリ ええ。といっても、それは元の世界の話ですし、ここでの私の地位はお飾りの様なもので……実権は大臣が握っています。私を牢屋に入れたのも、大方政治の邪魔になったからでしょう。……といっても、一度国家滅亡に加担しているのであながち間違いじゃないんですけどね。
ユウ 笑えないタイプのブラックジョークだ……。
ヒビキ ああ……本当に笑えない。
遥人 あ、やっとしゃべった。
ヒビキ 別に俺だって好きで黙ってたわけじゃない。……ただちょっと、動揺と可愛さが臓器に来ただけで。くそっ……似合う服着させやがって……。
俊介 明らかに可愛さが勝ってるだろそれ。
スグリ 君達は相変わらずのようで安心しました……本当に、ここで出会ったのがあなた達で良かった。どうか、一つ頼まれては
ヒビキ 嫌だ。
遥人 (これは……!反抗期……!?)
俊介 (もう突っ込むのやめよう……)
ヒビキ どうせみくりだけでも助けてって願いなんだろ。アンタはいつもそうだ。自分の事なんて勘定に入れてない。……少しは置いていかれる身にもなれよ。
スグリ ヒビキ……。
ヒビキ もし俺の予想が正しいなら、そんな願いは願い下げだ。悪いが両方救わせてもらう。拒否権はないからな……ジャンからも頼まれてるし。だから、俺達と一緒に逃げ
ノア はいドーン!やっほやほ~!!みんな生きてる~!?ってあれ?もしかして邪魔しちゃった?
ユウ 壁壊した……。
たたら ノア!どうしてここに……
ノア …いや~サボってたらシエルに追い出されちゃってさ~。こうして散歩……じゃなかった、見回りしてたら偶然キミ達が見えたんだ。さ!こんなところとっとと出ちゃおう!
遥人 ……。
ユウ ありがたいけど、それっていわゆる脱獄……。
ノア まあまあ、細かいことは気にしない気にしない!きっとシエルもいい感じに誤魔化してくれるはず……!多分……!
俊介 せめて自信持てよ。
ノア さあ行こう!僕達の冒険はまだ始まったばかりだ!





ヒビキ なーにが「さあ行こう!僕達の冒険はまだ始まったばかりだ!」だよ!フラグ立てやがって!思いっきり追われてんじゃねーか!
ノア ごめーん!現実そんなに甘くなかった……。
俊介 ここ夢の中みたいなもんだけどな。
たたら って話してる場合じゃないよ!両脇に衛兵が……!
??? みなさん、こちらです!
ユウ えっ、引っ張られて……ってうわああああ!!!
たたら ユウ!?
ルーク すぐ行く!無事でいてくれ……!
俊介 げっ!この先崖じゃねーか!でもつべこべいってられな……あっおいまて馬鹿引っ張るなうわあああ!!!
遥人 いやっほーい!
ヒビキ くそっ……こうなったらヤケだ!スグリ!しっかり掴まってろよ!
スグリ えっ……ええええええ!?





ユウ ん……あれ、生きてる……?
ジャントール はァ~いユウちゃん♪お目覚めのようね。元気そうでよかったわァ~。
ユウ ジャンさん!ここは……。
??? ここは、私達のアジトだ。といっても、場所は好意で彼の工房の一つを借りさせてもらっているんだけどね。
ジャントール あら、他人行儀はよして頂戴?アタシはアタシの好きなようにやっているだけだもの。
ユウ 貴方は……。
シオン 事情は大方ジャンから聞いているけど……。見知った人もそうでない人もいるようだからね。改めて自己紹介をさせてほしい。
シオン 私の名前はシオン。君達を連れてきたこの子がリンメイ、その隣にいるのが姉のレンメイだ。
リンメイ 先ほどは粗野な行いをしてしまい申し訳ありません……!緊急事態だったようなので、つい……。
レンメイ この子も悪気があったわけではないの。許してもらえると嬉しいわ。
遥人 だいじょーぶだいじょーぶ!俺達ちゃんと生きてるし!な、ユウ!
ユウ ああ、俺も特に気にしてないよ。むしろ助けてくれてありがとう、リンメイ。
俊介 でも、アジトって……お前らもピスケスを倒すために?
シオン ああ……といっても、ほぼ成り行きみたいなものだけどね。ピスケスの存在を知ったのも、偶然この都によってからだし。
レンメイ でも驚いたわ。私達、少し前まで自分の国……紅華帝国にいたのに、気づいたら見知らぬ場所にいるんだもの。
ユウ (初めから記憶がはっきりしてるとこんな反応になるのか……)
シオン まあ、なぜこの地に迷い込んだのかは分からないけれど。他にも飛ばされてきた人がいるのを考えるに、その人物にとって多少は縁のある場所に飛ばされているんじゃないかな。ここは恐らく古都ギルバス……旧メルクリア王国が土台ではあるだろうけど、彼らの持つ星読みのチカラは天上の国、スカイシアからの授かりものだと言われているからね。あと、星読みや邪神に関しては僕達とも縁があるし。
ルーク なるほど。確かに所々似通った場所や他の要素もあるとは思っていたが……
俊介 だから魔法都市にも俺ん家(フローレス邸)があったのか……。
シオン おや、君は三大名家出身だったのか。それじゃあ……と、すまない。話がそれてしまったね。
シオン ともかく。現状、僕達の目的はかんなぎ……みくりの救出、そしてピスケスの浄化または再封印だ。
俊介 でも、みくりは俺達のことを覚えていないみたいだったぞ。いま闇雲に連れて行っても逆効果なんじゃないか?
ノア うーん……それが完全に忘れてるわけでもないっぽいんだよね……。自分やボクの名前、それにチカラの使い方なんかは覚えてたみたいだし。最初は大臣にとって都合のいい事だけ残してあるのかなーとも思ったんだけど……それなら、チカラ以外の記憶は消去してるだろうしね。
シオン 記憶喪失か、洗脳か……どちらにせよ何かされている可能性は高いだろうね。何か思い出すきっかけになるものでもあるといいんだけど……。
遥人 たたら!そっち押さえろ!
たたら 分かった……って痛っ!叩かないで!なんか僕にだけ当たりが強いような……
俊介 ……お前ら、何してるんだ?
ぬいぐるみ達 (ユウの腕の中に納まる)
ユウ わっ……!これは……ウィルとサナの、ぬいぐるみ……?でも、なんでこんなものが……
リンメイ わあ……!可愛いです……!
ジャントール そうねえ……どうして動いているかは分からないけど、とってもキュート!
レンメイ でもこのぬいぐるみ、少しではあるけどチカラを感じるわ。それも、あなたと似ている……。何か、心当たりはない?
ユウ 俺と、似ているもの……あっ!




回想:霧の森

??? このセカイはお前達の記憶をもとに作られてる。物語という性質上、何かしらの役にあてがわれてるけどな。
??? だから、仲間と正の感情を集めれば、セカイが救われて、お前も元の世界に戻れる。あ、この場合の正の感情ってのはスピリットともうひとつ。それを具現化した物質だ。
ユウ スピリットを具現化した物質……?
??? ああ。多分いくつかあると思うんだけど……このセカイがお前達の記憶を反映してるなら……あるはずなんだ。それが形になったものがさ。例えば、仲間に関係があるものとか。





ユウ ……ってことがあってさ。もしかしたらこのぬいぐるみがそうなんじゃないかなと思って。
レンメイ 感情、想いの具現化……確かにそれならあなたと似たチカラを感じた事にも説明がつくわ。原理の方は正直よくわからないけれど……
たたら でも、どうしてハルのところから出てきたの?ユウに関係のあるものなら自分で持っていそうだけど……。
遥人 あー、それは……。
遥人 魔法都市で俺を浄化してくれた時、傍に転がっててさ。そのままにしておくのもなんだかなーと思って持ってきたんだ。まさかユウに関係あるものだとは思わなかったけど。(回想込み)
俊介 そういうことはもっと早く言えよ。
遥人 しょうがないじゃんか~!ここまでなんかめっちゃバタバタしてたし、なんだかんだでタイミング失っちゃって……。
ヒビキ でも、こいつらが増えたところで痛ってえな!怒るな叩くな!……って、ん?なんだこれ。
ノア なんかすごく埃っぽ……くはないけど、とんでもなく昔の物っぽいね。ボク達が生まれる前のものかも?
スグリ これは、予言の書……!?でも、どうしてこんなところに……てっきり元の世界に置いてきたとばかり……。
ルーク 予言と言えば、最高司祭のみが下すものだろう。基本的に一貫性のないものと聞いているが……そんなものを書き残して、何か意味があるのか?
リンメイ 断片的で一貫性のないものを後世に残しておく理由……先代達は、何かに備えていた……?
レンメイ 備えが必要なほど危惧していたこととなると……大厄災、とかかしら。さっきシオンが言っていたように私達の国―紅華帝国にも邪龍はいたし……。まあ、それも誰かが封じたのだけれど。
リンメイ あれほどのものを長い間封じておくことのできるチカラ……きっと、術者は相当な実力を持った方だったのだと思います。術式から見るに、別の国の方のようでしたが……。
スグリ 大厄災、ラグナロク……かつて一つの世界が滅んだのだという話は、私も教養の一つとして聞かされてはいましたが……。もしその予想が正しいなら……。先代達は、予言を残しておくことで来たる大厄災の再来に備えていた……?
シオン 確か、星読みは本来、未来を見通せるチカラだったと聞いているよ。私の国にも星読みはあるけれど、星の民のそれには程遠い。……とりわけ、最高司祭ともなればなおさら。いままで予言が覆された前例はなかったはずだ。違うかい?
スグリ ええ。私達は滅びのその時まで、星読みのチカラで未来を予見し、最悪を避けてきた。そのなかでも最高司祭の下す予言は絶対のものとされています。だからこそ、彼らはそのチカラを一生に一度しか使わない。そして、その予言は……必ず何かを代償として成就する……!

本を開くスグリ、そこには星の民に伝わる星々の予言が。
過去に読まれた予言の一節に目を止める

『祝祭に 永遠(とわ)の長いは成就する 星の愛し子 その身捧げば』

ヒビキ・ノア っ……!!
俊介 おい!二人とも!!……ってもう見えないな……。
ルーク とにかく、俺達も後を追おう。
たたら でもそうやっていくの?闇雲に向かってもさっきみたいに迷いそうだけど……。
ぬいぐるみ達 (道を指し示す)
ユウ 二人(?)とも、もしかして案内してくれるのか?
ジャントール この子達の指している方向は……本邸の、それも広間の方向ね。そこで行われるのは……
リンメイ かんなぎの儀式……!
ジャントール それじゃあ、祭事用の服をアタシに頼んだのも、まさか……!
ぬいぐるみ達 (こくこく頷く)
シオン そう言う事ならやはり私も向かおう。幸いその手の知識はあるし……それに、人手は一人でも多い方がいいだろう?
ジャントール あら、それじゃあアタシも向かおうかしら。可愛い子達のためだもの、一肌脱がなくっちゃ♪
俊介 物理的に脱ぎそうだな……。
ジャントール ……(視線を逸らす)。
俊介 そこは否定しろよ!
レンメイ でも、これで条件は整ったわ。じゃあ早速向かいましょうか……かんなぎ、みくりを救いに。





戦闘、現役顔負けの実力を発揮し敵を一掃するジャン

ジャントール ふう……これで道は開けたわね!
シオン 君がいて助かったよ。これで、当面は防御に専念できそうだ。
ジャントール んも~!おだてたって何もでないわよ♪アタシも大分楽させてもらってるし。さ、この調子でみくりちゃんのところに向かいましょ!
ユウ・たたら ……。
俊介 ……俺達、ほぼ何もしなかったな。
遥人 わーすごーくつよーい……(思考放棄)
ルーク ああ、正直かなり心強い。
ノア ほんとほんと!僕も助かっちゃった!
俊介 ……ん?
ノア あ、やっほー!さっきぶり!
一同 ノア!?!?
俊介 お前、ヒビキとみくりのところに向かったんんじゃなかったのかよ!
ノア いや~、確かにさっきまで一緒だったんだけど、フィクサー相手にしてたらはぐれちゃって……ま、彼なら心配ないさ。なんせ、ボクに負けないくらいみくりへの愛が重いしね。
たたら 自覚あるんだ……。
ジャントール あらヤダ恋バナ?なんだかとっても楽しそうだからじっくり聞かせて頂戴♪……まあ、彼の相手が終わってからではあるけれど。
リンメイ っ……!いつの間に!?防御に綻びはないはずなのに……。
シエル 君達は確かに強い。でも、今回は僕の方が一枚上手だったみたいだね。
シエル でも残念だな、ノア。君までそちら側に付くなんてさ。
ノア ボクは自分の心に従ったまでさ。それに、今度こそ守り抜くって誓ったしね。
ルーク ……。
シエル ……そう。でも、君達に譲れないものがあるように、ぼくにだって譲れないものがある。それに、僕は目的の為ならなんだって利用するよ。だからね。
シエル 僕との戦いはここで終わりだ。……またね、脱獄者さんたち。




儀式の間。邪気が満ちている。

みくり っ……!
大臣 怖いか?
みくり ……いいえ、といったら嘘になりますが……。でも、ここで引くつもりはありません。私はかんなぎ。この身とチカラは、民のためにあるのですから。
大臣 なかなかいい心意気だな。では早速……

爆発音

ユウ いったた……
みくり・大臣 !?!?
ユウ ここは……儀式の間……?でも、どうして……。
大臣 貴様ら!どうしてここに……!
シエル まあ、ボクが君達を転送したからね。
ルーク 転送?でも、どうしてわざわざそんな……。
俊介 そうだ。……俺には、お前の意図が分からない。みくりの部屋で会った時もさっきもそうだ。本当に俺達が邪魔なら、いくらでもとどめを刺すタイミングはあったはずだ。なのにお前はそれをしていない。お前は一体、何が目的なんだ?
シエル ……そうだね。ま、もういいか。最初から大臣に忠誠心なんて抱いてないしね。
シエル ピスケス復活は僕も本意じゃないから、ジャン達と協力して情報を探っていたんだ。でも、この都で起こっているすべての会話は大臣に傍受されてしまう。それでも、何とかしてバレずに事を運ぶ必要があった。だから、口では彼に忠誠を誓っているふりをしていたんだ。君達と敵対していたのもそれが理由だよ。
遥人 なるほどー。それじゃあ俺達を牢屋にぶち込んだのも作戦のうち……。
シエル いや、あれは完全に誤算。警備破られたのちょっと悔しかったし。
俊介 単なる私怨じゃねーか!
ノア ボクは信じてたよ。キミはいい奴だってさ。でも言ってくれれば手伝ったのに~!
シエル あはは。だって君、嘘下手だろう?
ノア ぐぬぬ……否定できない……。
大臣 小賢しいまねをしおって!こうなったら……!

大臣、ピスケスと同化
みくりが中に取り込まれる

ヒビキ・ノア みくり!!
遥人 二人とも待て!うまく説明できねーけど……あいつ、すごく嫌な感じがする。
俊介 嫌な感じ……魔法都市でブリュメールが言ってた『見え透いた悪意』ってやつか?
遥人 そうそれ!
たたら これは……!?
レンメイ みくりのチカラを使ってピスケスと同化した……!?
リンメイ そんな、ありえません!神と人間が一つになるなんて……。それに、そんなことをしたら大臣自身も……なにより、みくりさんの身体が持たない……!
大臣 まったく、手こずらせおって。初めからこうすればよかった。かんなぎがいなければピスケスも止められまい。これで待ち望んだ永遠が手に入る!私の、私だけの永遠が!
シオン くそ、やられたっ……!彼らの暴走を止めるには星の愛し子、かんなぎのチカラが必要不可欠だ!その彼女自身が取り込まれてしまうなんて……。
スグリ ……なるほど。では、それは私の役目ですね。
ヒビキ は!?お前、冗談も大概に
スグリ 私はいたって真面目ですよ、ヒビキ。それに、予言にもあったでしょう?『星の愛し子 その身捧げば』と。私も星の民の、それも元とは言え最高司祭。幸いこのセカイではまだチカラが使えるようですから……代わりには十分事足りる筈です。
スグリ 絶対に外れない予言。けれど、その内容は曖昧で断片的。いくらでも解釈のしようがある……それに。
スグリ いつだって、未来は今を生きる者達によって切り開かれるべきだ。そうでしょう?

ノア、大臣を押さえる

大臣 なっ……!?しまっ……
ノア たたら、ユウ!今だ!思いっきり、やっちゃって!!
ユウ ああ!
たたら うん!

スピリット、光

ユウ ヒビキ!今のうちにみくりを!
ヒビキ 言われなくても!




星々は、この世界を見守り続けている。今もなお紡がれ続ける、人の営み。それは、この先も――ずっ――つ―いて――
(ノイズ、幸せの崩壊、メルクリアの最期)

幼少期回想、スグリの顔は見えない

みくり(小) ……にいさん。
スグリ(小) どうしたんだい、こんな時間に。
みくり(小) こわい、夢をみて……みんな泣いてて……にいさんが、いなくなっちゃう夢。
スグリ(小) ……。
スグリ(小) おいで、みくり。
スグリ(小) 星の導きも……夢も。あやふやで不確かなものだ。でも、自分がどうありたいかは、確かに自分で決めることができるんだ。みくりは将来、どうありたい?
みくり(小) えっと……ヒビキやにいさん、それにみんなと……ずっと、笑っていたい。
スグリ(小) ……そうか。なら、それを忘れずにいることだ。そうすれば……みくりが恐れていることにはならないよ。
みくり(小) ほんと……?
スグリ(小) ああ、本当だ。……さあ、もう遅い。もう一度、楽しい夢を見ておいで。今度は僕も一緒だよ。
みくり(小) うん!





みくり (……うそつき)
みくり (いなくならないって、一緒にいてくれるって、言ったのに。どうして……どうしてみんな、私を置いて行っちゃうの?私は、ただ……みんなと―)
ヒビキ 置いていかないよ。
みくり ヒビ、キ……?
ヒビキ やっと見つけた。
みくり ……。
みくり ……心配かけて、ごめんなさい。でも、私は……。
ヒビキ 俺、ほんとはあの国のこと大嫌いだったんだ。スグリには悪いけどね。
みくり ……え、急に何を……。
ヒビキ 帰りたくないんだろう?なら、少し話をしようよ。離れ離れになってから今までまともに時間なんて取れなかったし……。なんでもいい、君の話を聞かせて。俺はずっと、ここにいるから。
みくり ……うそ。
ヒビキ 嘘じゃないよ。俺はどこにもいかないし、君が望むならどこへだってついていくよ。例えそれが地獄の果てでもね。なんなら、帰らないでずっとここにいてもいい。君がそれを望むのなら。
みくり ……うそ、嘘!……本当は、そんなこと思ってなんていない癖に……!
ヒビキ そんなことないよ。俺はただ―
みくり それじゃあどうしていなくなったの!?それとも、ずっと一緒に居てくれるって約束も嘘だったの!?。
ヒビキ そんなわけないだろ!!
ヒビキ ……嘘なわけ、ないだろ。
ヒビキ …………大好き、なんだ。初めて出会った時からずっと。俺は世界なんてどうだっていいし、君が本当に望むならどんなことだってする。それも本当だ、だけど!
ヒビキ 君にはまだやるべきことが……やりたいことが残ってるはずだ。でもそれは、今から目を背けることでも、ここで永遠を過ごす事でもない。願ったんだろう?みんなと笑っていたいって。
みくり っ……、なんで……
ヒビキ わかるさ。君は僕の幼馴染で、守りたい人で……僕が、初めて好きになった人だから。
ヒビキ さあ、もう少しだ。大臣も、ピスケスもやっつけて一緒に帰ろう。……今度こそ、傍にいるから。
みくり ……うん。





ノア ぐっ……そろそろ、限界、かも……

光、ピスケス消滅

ノア ピスケスが、消えた……?じゃあ、もしかして……!
みくり ノア!!
ノア みくり!……とヒビキ!よかった~!
ヒビキ 絶対俺の事忘れてただろ。
ノア そ、ソンナコトナイヨー(棒)
たたら みくり、ヒビキ!無事でよかった……!
ユウ 後は……。

ユウ達の目の前、なれ果てと化した大臣

大臣 𓇌𓍯𓅱 𓍯𓈖𓃬𓇌 𓇌𓍯𓅱...... 𓅱𓇋𓏏𓉔𓍯𓅱𓏏 𓆑𓄿𓇋𓃬......(お前は……お前だけは……必ず……)

みくり、大臣の前に行く。

みくり ……ごめんなさい。私は自分の願いを諦められないし、あなたの大切な何かの代わりにもなれない。私はいい子じゃないから、みんなと笑っていられる方を願っちゃうんだ。……それが、あなたを犠牲にして成り立つものだと分かっていても。これは私のエゴだし、私があなたを許さないように、あなたも私を許さなくていい。だけど、私は……その本心までは、なかったことにしたくない。だから―。

みくり、チカラを使う。
星の記憶の流れ、大臣と彼の一人娘と彼女の最期

大臣(若) 返してくれ……たった一人の、大切な家族なんだ……!
大臣(若) 今度こそ……今度こそ、必ず……!

みくり 大切な人を守ろうとしたあなたの、その最期くらいは……せめて、安らかでありますように。

大臣に近寄る一人の少女

ユウ 君は……。

少女、ユウに何かを言った後、大臣と共に光の中に消える

ユウ ―――。
たたら ユウ?どうかした?
ユウ え、あっいや……なんでもない。ただ……もう少し早く気付けたら、何か違ったのかなって。
たたら ……。
ヒビキ ばーか、何言ってんだ。そんなもん無理に決まってるだろ。未来が見える俺達でさえ間違えるんだ。それに……最初から全部分かってたら、きっと俺達は対話すら諦める。それじゃあ気づくものも気づけないからな。だから、これでいいんだ。間違えたって、救えなくたって……その想いまで無駄になるわけじゃないんだから。
ユウ ヒビキ……。
ジャントール んも~!!ヒビキちゃんったらいいこと言うじゃない~!アタシ、感動しちゃった!(バシバシ叩きながら)
ヒビキ 痛っ!!力つよ!?!?
みくり あっ、そこさっき私を助けに来てくれた時にできた傷かも……。
遥人 えっそれやべーじゃん!シュンー!止血―!
俊介 ごめん俺も魔力切れてる、わりーけど諦めてくれ。
リンメイ わー!?ヒビキ様、しっかりしてください!?姉様、シオン様ぁ~!
レンメイ はいはい、今手伝うから待っててちょうだいね~。
シオン あはは、なんだか一気に気が抜けてしまったね。

わちゃわちゃしているのを遠巻きに眺めているノアとルーク

ノア ……。
ルーク どうかしたのか、ノア。
ノア ううん。ただ……やっと、終わったんだなあって思ってさ。
ノア …あっ、別に変な意味じゃないよ!?もちろんボクだってピスケスを倒したかったのは本当だし!でも……。これで、キミとは本当にもう会えなくなっちゃうんだなあって。それが……ほんの少しだけ寂しかったんだ。
ルーク ……。
ルーク ノアは、時巡りという逸話を知っているか?
ノア ん?また巡り合えるって言い伝えのこと?もちろん知ってるけど、それがどうかしたの?
ルーク そうか……うーん、改めて言うとなると少し難しいな。まあ、要はあまり気にするなと言いたかったんだが……。
ルーク 昔別れた俺達が、今こうして会って話せている。だから、時巡りは迷信なんかじゃないと思うんだ。次がいつになるかは分からないが……それでも、俺達はまた出会える、友達になれる。俺は、そんな気がするよ。
ノア ルーク……。
ノア ……分かった。それじゃあ、さよならは言わないでおくよ。
遥人 ノアー!ルークー!ジャンがなんかくれるってー!早くこっち来いよー!
ノア わーい!今行くー!!ほら、ルークもはやくはやく!
ルーク ああ、今行くよ。





ユウ こ、これは……!?
ジャントール ふふふ……アタシを舐めてもらっては困るわ。これでも今はそれなりに名のあるデザイナーだもの、有事の合間を縫って服を作るなんて朝飯前よ。それに、昔はこんなのばっかりだったし。
たたら そう言えば、ジャンさんって昔は前線で戦ってた軍人だったんですよね。
ユウ えっ!?
ルーク なるほど、どうりであんなに強いわけだ……。
ジャントール やめて頂戴、昔の話よ。それに、半分くらい黒歴史だから……。
ジャントール アタシの所属してたところは特に規則が厳しいところだったから、服のアレンジなんて当然許されてなくて……。破れた服をね、縫っても縫っても縫っても縫っても終わらなくて……。
俊介 ああ……(同情)
遥人 俺の方見るなよー!悪かったって!!
ルーク でも、それこそ魔法で作ればよかったんじゃないか?
ジャントール いいえ、それは私のポリシーに反するわ。当時のアタシはまだ無名だったけど……それでも、心を籠めて作りたかった。戦場を共にする相棒みたいなものだもの。まあ、せめて気持ちくらいはって思うのは、作り手の意地のみたいなものだけどね。それに、不思議だけど……そういうの、相手にも分かっちゃうの。さっきヒビキちゃんも言ってたけれど……人の想いっていうのは、それだけ強いものなのよ。アナタ達にも、思い当たることはあるんじゃないかしら?
たたら ……。
スグリ ……。
スグリ えー……皆さん。良い話の後だと非常に言いにくいのですが……。
スグリ この都、そろそろ消滅しそうでして……。
ユウ えっ。
俊介 ……なんか、前にも似たようなことあったな。
遥人 じゃあ、もしかしてスグリも……。
スグリ はい。先ほどピスケスを押さえるのにチカラを使い果たしてしまったので……。現実世界でメルクリアが滅亡していることもあってもともと不安定ではあったんですが……先ほどの戦い、というより、私がチカラを使ったことが決定打だったようです。
ユウ ……。
ルーク 安心してくれ。今度は俺も一緒に行くよ。ひとりは堪えるからな。それに。
ルーク 今を生きる君達なら……俺とは違う選択だって、選べるはずだ。

ルーク(回想) 誰かを傷つけてしまうのなら。分かり合えないのなら……同じ世界では生きられないからな。

ユウ (……そうか。やっぱり、この人はきっと……)
ヒビキ ……ないだろ。
みくり ヒビキ……?
ヒビキ そんなの、すぐに納得できるわけないだろ!アンタはいつもそうだ!俺が、あの時どれだけっ……!
ヒビキ あの国のためを思うなら……みくりのためを思うなら、もっと足掻けよ!自分のためにみっともなく足掻いて、それで……
ヒビキ もっと、生きていてくれよ……。
スグリ ヒビキ……。
スグリ あなたが私を案じてくれているのはとても嬉しい。けれど……やはり、それは出来ません。
スグリ 元とは言え私も最高司祭、その役割は民を想ってこそ成し遂げられる。けれど。
スグリ それ以上に、私は望んでしまった。あなた達の生きる未来を。民と身内(あなたたち)を天秤にかけて、後者を取ってしまった。だから、これは私の我儘です。あなたは自分のために足掻けと言いましたが……私は、自分のために、あなた達に生きていてほしい。
ヒビキ ……むちゃくちゃだよ、そんな……そんな。
みくり ……。
みくり うん、わかってるよ……兄さんは昔から、そういう人だから。
ヒビキ みくり……?
みくり ありがとう、ヒビキ。私の代わりに怒ってくれて……でも、もう大丈夫。
みくり 私だって、本当は行ってほしくなんてない。もっと一緒に居たい。けど……。
みくり それでも私は、兄さんの選択を尊重したい。それがたくさん悩んで出したものだって、分かるから。
スグリ ……。
スグリ (いつの間にか、こんなに大きくなっていたのか。守るべきだと、ずっと思っていたのに……守られていたのは、僕のほうだったみたいだ)
みくり にいさん……?
スグリ ……いや、なんでもないさ。ただ少し、嬉しくなっただけだよ。
みくり ?
ルーク 悪い、そろそろ限界みたいだ。みんな、今都の外に出すから後ろを向いてくれ。
ユウ 分かった。振り返らないから、安心してくれ。
ルーク ……。
ルーク ……ああ、助かるよ。
スグリ それではみなさん。もし、どこかで出会えたら……その時は、またよろしくお願いします。
ルーク ありがとう、ノア。俺との約束を守ってくれて。それと……また話せて、嬉しかった。
ノア ばか!!ボクの方がもっと!ずーっと嬉しかった!

ルーク、すぐり、笑顔で消える
ぬいぐるみ(クラリス)がその後に転がる

ヒビキ ……。
みくり ……これで、最後にする。全部終わるまでは、私頑張るから……だから……
みくり いま、だけはっ……この涙は……
ヒビキ ……うん、いいよ。
ヒビキ 次に笑うその時まで……君の涙は、僕が預かっておくよ。





ジャントール それはそうと、アナタ達これからどうするの?まあ、勇者ってくらいだから魔王のところに向かうんでしょうけど……休憩していくなら、アタシの店はいつでも歓迎よ♪
ユウ そうだな……。さっきクラリスのぬいぐるみ拾ったから……あれ、あと行ってない場所ってどこだっけ。
ノア あ!それならボクにまっかせて!地図は必ず買うようにしてるんだ~!まあ、直感で動くから見ないことの方が多いけど。
ヒビキ それ地図の意味ないだろ。
俊介 つっても、今何も持ってないしな……どっか資材調達できる場所でもあればいいんだけど。
みくり うーん……。話を聞くに、ユウ達が出発した場所が東、今私達がいるのが西の大陸だから……。あとは北の大陸か南の大陸、それに中央の大陸かなあ。
シオン それなら、南の大陸にいくといい。魔王城からは少し離れてしまうけれど……。あそこはフィクサーの被害も少ないと聞くし、何より資源が豊富だからね。それと、代わりと言ってはなんだがジャンの店には私達が行こう。人手が足りていないんだろう?
ジャントール あら♪気の利くイケメンと美女は好きよォ。それじゃあ、お願いしようかしら。……少し確認したいこともあるし。
シオン 話はまとまったみたいだね。というわけだから、僕達はこれで失礼するよ。
リンメイ 短い間でしたが、ありがとうございました。
レンメイ 今度は私達の国にも遊びに来て頂戴。歓迎するわ。
ユウ はい。……それじゃあ、また。




予言の書に記された最後の予言、最悪の結末
『蒼と花 縁の約束泡沫に 両の願いは実らない』(一部終章、アンダーランド組)
『花枯れ散るか蒼墜ち果つか 灯る明かりただひとつ』(みんなの死、かぐらの死)

??? っ……!!!!!
??? っはあ、……う、ぁ……
??? !
??? (これは……スピリットの副作用?でも、どうして急に……あ、)
??? ……そっか。僕は、もう……
??? ………………さむい。

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