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家庭菜園

ことの始まりは7年前。魚を漬け込むハーブ液用の鷹の爪が終わった。1kg袋で買うので袋の底には種が残る。「これって完熟した種だよね?」という私の好奇心に彼は培養土を買ってくれた。なんちゃって家庭菜園のスタートはプランターではなく魚が届いた時の発泡箱のに水抜き穴を空けただけの簡単なものだった。

そもそも彼の興味は、魚であり魚釣りであり狩猟と採取派なので家庭菜園にも関心は薄かったものの、勝手に育ってたわわに実をつけた鷹の爪には満足した様子だった。だが、私は鷹の爪よりも種まきにはまり台所で採種できるものはほぼ蒔いてみた。

100均のプランターと発泡箱でやりくりしていたのだが、今年の夏に彼がコメリで深型のプランターを買って来てくれた。「毎年使うんだから安いもんだよ」と

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一時的には食べるのが追いつかなくなるほどトマトができてふたりで毎朝食べていた。株間に植えた落花生は彼が亡くなってからの収穫になった。一緒に食べるつもりでいたので、なんとなく一人で食べたくないからと仲良くしてくださる床屋さんのおばちゃんに貰ってもらった。そして、毎年使うはずだったプランターだけが残った。

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週末になると長野から私の引越荷物を運びに息子が来てくれる。長野の住まいはマンションの4Fで西日しか当たらない幅1m程のベランダしかなく、家庭菜園は望めない。プランターを見ながら「これ買ってもらったばかりだから捨てにくいんだよね。」とつぶやいた。

息子「そうゆうのってあるよね。」

と言いながら車に積み込んでくれた。10年前二十歳の息子を家に残して「頑張って自活してね」と言って離れたときには不安と心配でいっぱいだったけれど、こんなにさらりと気持ちに寄り添う台詞が出てくる大人になったんだなぁとしみじみ思った。たぶん私よりも大人なのかもしれない。

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