抽象とは?まずは簡素に簡単に。

この回では抽象画を理解するためセザンヌ、ピカソ、モランディからデュシャン、ウォーホールを例に出し、わかりやすく、簡潔にお話しします。

まず抽象画の父と言われるセザンヌの理解を深めるところから始めましょう。

ピカソなどの有名な“キュビズム“はセザンヌの作品から派生しています。
キュビズムとは簡単にいうと多角的な視点です。

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上記のピカソの作品はキュビズムを非常にわかりやすく体現しています。
顔に注目して頂くと分かる通り、正面の画角と横から見た画角の2つの視点が1つのキャンバスに描き込まれています。

写実絵画の場合はカメラと同じく、1つの視点で空間を形成しますが、キュビズムの場合は様々な目線からみた情報を1つの画面にコラージュしていると思ってください。(あくまでキュビズムの概念をビジュアルの観点だけで説明した単純な考察ですので、それ以上の深い説明はこの記事では省略します)

なので上記の理由からキュビズムの元となったセザンヌの静物画を見ると台のパースが幾分狂っているように見えます。

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左右の下の台に関しては、明らかな視点の違いが提示されているのが分かるかと思います。
空間の前後感に関しても、写実絵画のようにフォーカスポイントを作ってはいないので全てが同等の強さで画面から迫ってきます。
これを時に”平面的”と呼ぶ人がいます。

ここで出てくるのがモランディです。
彼は多角的な視点をモチーフの物質性にもフォーカスした作家です。

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前後のモチーフの描写が全て同一の※マチエルだったりします。(時には奥のモチーフの方が盛り盛りな時さえあります)

※マチエルとは絵肌のこと。
鉛筆デッサンなどと違い、油彩は絵具という物質で構成されているので厚みなどの差が出やすいです。

セザンヌが一元的な視点に対する問題定義を行い、ピカソらがそれをさらにキュビズムとして発展させた。(キュビズムは当時、アートワークのトレンドでした)
いわば視角主義的だったキュビズムの視点に対して、モランディはそのモチーフの視角情報だけではなく、絵具のもつマチエルを利用し、モチーフの物質そのものにも様々な視点や概念があることを一つのキャンバスに提示した作家と言えます。 

モランディは「私たちは物を見るときにその物の概念を持ちながら見ている。たとえば、コップを見るときは『これはコップである』という概念を持ってながめている。もし、コップから『コップ』という概念を剥ぎ取ってしまえば、それは抽象的で非現実的なものとなる」と言います。
モランディは静物画を通して、身近な物の概念や意味を引き剥がすことで、日常の裏に潜む抽象的で非現実的な空間を描こうとしたのでしょう。
参照先:http://blog.livedoor.jp/kokinora/archives/1017309632.html


上記のテキストはマルセルデュシャンの泉や、アンディーウォーホールのキャンベルスープの様な、誰しもが知っている具象物を用いた作品にも、上記の様な抽象概念が存在することを示唆しています。

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普段私たちが認識している物事も提示のされ方一つで違った見え方をするわけです。
この問題はレディメイドという概念に繋がるのですが、それはまた違う記事で詳しく述べようと思います。


セザンヌ、ピカソ、モランディの空間を破壊したともいえる平面性は、私たちが認識する世界とは大きくかけ離れているため、時に抽象の世界と言われたりします。(平面性は現実空間と異なるものなので抽象世界と結びつけやすいですよね?)

抽象とは普段認識している物事の認知の転換です。
抽象画はその考察の結果を作家が画面に描き出した創作物だと考えていただければ良いと思います。

なので抽象と具象は非常に密接に関係しています。
一見落書きに見えるような抽象画であっても、そこには明確な意図と何らかの具象から派生した”痕跡”が必ずあります。
抽象画は単にそのビジュアル、様式を指すものではありません。

先ほども伝えた通り、抽象画は(抽象画に限らず、すべての創作に当てはまることですが)作家の物事の観察結果や、それに対する考察を鑑賞者にリアルに伝える為の手段の一つです。
作家が思想や概念を画面に提示し、鑑賞者がそれを読み解く所に抽象画の価値があります。

なので時にキャンベルスープ缶のような当たり前の具象物が、抽象性を獲得する場合もあるのです。
単に抽象性のビジュアル(?)を模した抽象画は抽象画ではありませんし、具象を描いたとしても、作家の提案一つでそれは抽象画にもなり得る可能性があります。

抽象画にはもっと様ざまなスタイル、思想が存在しますが、今回は具象から抽象に移行していったお話を簡単に説明させていただきました。


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