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『おやつマガジン』と2020年の春

6月初旬に『おやつマガジン』という雑誌の2号目を発刊しました。

おやつマガジンとは? “おやつ”とはなんだろう。小腹を満たす食べ物? 友達と話しながら楽しむスイーツ? 家族の団欒の時間? それとも仕事の合間のささやかな休憩? こっそりひとりで食べる贅沢? そう、人の数だけおやつの姿があるんです。そんなおやつにまつわるあれこれを、世界中を旅しながら、食や暮らし、文化、歴史、科学といった、さまざまなテーマで迫っていくのが、『おやつマガジン』です。https://oyattumagazine.stores.jp/

まず、『おやつマガジン』について。コンセプトは上記。ざっくり言えば、おやつを媒介にしてまつわるいろいろなことを追いかけていく本です。「そもそも何でおやつなの?」という話はいずれ書こうと思いますが、本にしろウェブにしろ、「取材」をベースに製作を行っています。自分の強みであり得意としていることであるのですが、逆を言えば取材がなければ何にも作れない(ぜんぶがそうというわけではないけれど)ということでもあります。

あと、「検索」して出てこないものを大切にしているので、人に会ったり、対象となる場所に伺ったりしてインプットを蓄積するのが製作の第一プロセスということになります(もともと旅雑誌が原点だったりもするわけで、どこかに行くという行為自体が好きだということも否めませんが)。

『おやつマガジン』2号の話

もともとは「沖縄特集」を考えていました。沖縄は自分にとって特別で、思い入れもある場所。御嶽をはじめとする信仰、特有の宗教観、唯一無二の自然環境、観光産業に隠れがちな土着の文化、そして食も。沖縄のおやつといえばサーターアンダギーや近年はかき氷を思い浮かべる方も多いかもしれませんが、琉球王国の宮廷料理をルーツにもつものもあり、そういった歴史背景や文化的な側面も興味を引くものがあります。加えて「島」という地理環境からくる本島以外の離島にもユニークな文化があります。そんな「沖縄号」を考えていたのですが、取材を想定していたのが4月上旬。取材・撮影したいお祭りもあったりしたのですが、動向をみつつ断念しました。

「取材の中止」。これは沖縄に限らず、特集がなんであろうと全国どこでも起きていたことだと思います。近しい編集者やカメラマン、ライターなども同時多発的に「ロケができない」状況になっていました。

今(もう7月!)からすれば、少しばかり懐かしさも感じるけれど、人と会う、動きを制限されることのダメージをじわじわと実感しはじめていました。2〜3日うだうだしていたのですが、「こんなときだから発信すべきものがある」「同じようにどうしようか悩んでいる人もいるはず」と思いはじめ、特集内容を変更。「2020年を、考える」という方針を立てました。

「立てた」とはいえ、具体的にどういう内容にするか。構成をわかりやすくまとめた「台割」という表があり、製作を進めるにあたっての「地図」のような役割を果たすのですが、決めきれない。これは!と思う作家に声をかけたりしながら、少しずつ埋めていくことにしました。2号は旧知の編集者にも協力してもらうことができたのですが、やはり撮影・取材ができないので、寄稿してもらったり、リモートでインタビューをしたりと、ほぼPCの前から動かずに製作することになりました。

それで、どういう結果になったのかは本を見ていただきたいのですが、簡単に解説しておこうと思います。

コンテンツの話

目次的なものはこちら。

コンテンツ
・巻頭エッセイ 長島有里枝
『甘いものと想像力、 幸せについて思うこと』
・焼き菓子レシピ by ORGANIC BAKES『焼いてみたいな、3時のおやつ』
・夏を楽しむ涼しげなおやつ『初夏の心象風景』
・巻頭特集 フォトエッセイオムニバス
『記憶に刻まれた、写真家たちのおやつ』
寄稿:柏田テツヲ/相馬ミナ/植本一子/飯坂大/山西もも/鮫島亜希子/安彦幸枝/田中ヒロ
・特集『2020年を、考える』
寄稿・インタビュー:
小川奈緒/星野概念/Goma/浅田政志/服部雄一郎/山本憲資/石川伸一/菱田雄介/白川密成
・おやつの世界をめぐるルポ
山形 梅津菓子舗『愛しののらくろボーロを求めて』まちだまこと
沖縄 家庭のおやつ『うさがみそーれ 母なる島のおやつ』北村華子
三重 『みんなのドムドムハンバーガー』濱田紘輔

巻頭のエッセイは長島有里枝さんに。実は創刊号でも依頼していたのですが、ちょうど著作(↓)の執筆中で叶わず、2号でようやく実現しました。

つづいて「ビジュアルページ」にはレシピを掲載したおやつページを。「おやつマガジン」というくらいなので、おやつのこともちゃんと掲載したいというのは創刊号から思っていたこと。いくら「おやつにまつわること」を中心にするとはいえ、「つくってみる」という「読む」の次のアクションにつながるページはほしかったんです。

ORGANIC BAKESさん(@organic.bakes)は、もともとイベントなどでもご一緒したことのある焼き菓子の作家さん。基本的にはインスタグラムで不定期に通販を行っているので購入することも可能。

つづいて、mash-iroさん(@mash_iro0301)には、初夏に向けたおやつを3つつくってもらいました。mash-iroさんは、実は事務所から歩いて3分くらいのところにあるお店。キッシュとコーヒーがメインですが、「なんかつくって」というざっくりリクエストに応えてくれました。もともと期間限定での店舗営業で、6月で閉店だったのですが、8月まで延長とのことなので、吉祥寺にお越しの際はぜひ。

このペースで書いていると終わりがみえない? 

そして「フォトエッセイオムニバス」。いろんな人のおやつ〜は、創刊号で終わりのつもりだったんです。でも、旅に行けない、どこにも行けないという今だからこそ、いろんな旅先のおやつやエピソードを聞いてみたいと8人の写真家さんに寄稿してもらいました。それぞれ雑誌を中心に、作家活動や広告だったりと、幅広く撮影していて、聞いてみるとたくさんでてきて1人2Pでは足りないかな?と思いつつ。知り合っていたもののなかなか仕事をご一緒する機会がなかった写真家さんにも寄稿いただけて嬉しくもありました。

柏田テツヲさん(@tetsuokashiwada)にはアメリカ旅とワッフルハウスというお店でのこと、相馬ミナさん(@minasoma)にはキューバのアイスクリーム、植本一子さん(@ichikouemoto)はお子さんと過ごすお菓子づくりのこと、飯坂大さん(@dai_journal)はスリランカの旅のこと、山西ももさん(@momoyamanishi)はネパール・アマダブラム峰登山のこと、鮫島亜希子さん(@akiko_sameshima)はインドの旅、安彦幸枝さん(@abikosachie)は旦那さんと旅したおやつの話、田中ヒロさん(@hiro.tanaka.7545)は仲間とすごすおやつ時間について。

創刊号でも特集した、ひとそれぞれのおやつを伝えられたのかなと思います。今だからこそ、旅のことや何気ない時間が尊く、愛おしく感じます。

特集「2020年を、考える」の話

で、ここからタイトルにもなっている特集です。もうおやつ関係ない話です。もちろん何かしらおやつを絡めることもできたのですが、それよりもいま向き合っている日々のことを考えたい、よくなることを伝えたいという思いが中心にありました。

メインで編集してくれたのは、TRANSIT時代からの旧知の編集者、池尾優さん@wooper37。執筆依頼とインタビューを中心にページを構成してもらいました。

パートは大きく2つあり、ひとつめは「家族の○○を見直す」というサブタイトルで、編集者・ライターの小川奈緒さん(@nao_tabletalk)には「家」、精神科医の星野概念(@gainenhoshino)さんには「心」、料理研究家ユニットのGomaさん(@gomatokyo)には「食」、写真家・浅田政志さん @asadamasashiには「記録」を。

必然的に家で家族と過ごす時間も長くなった時期。いいこともあれば悪いこともあるでしょう。そんなときのアイデア、ヒントになるような内容です。平常であっても自粛期間であっても、時間は同じ時間。後から振り返ったときに後悔のない過ごし方ができたら、と思いました。

後半は裏テーマが「私たちはこう生きる」

エッセイベースで各識者の方々に、執筆していただきました。高知在住でサステイナブルな暮らしを実践している服部雄一郎(@sustainably.jp)さんにはゼロウェイストの話、サマリーポケットなどのサービスを手掛ける経営者の山本憲資さん(@kensukey)にはリモートワークと日々のことを、分子調理学を研究する石川伸一さん(@yashoku_nikki)には未来の食について、テレビディレクターで写真家の菱田雄介さん(@yusuke.hishida)には、「忘れてしまう」こと、僧侶の白川密成さん(@missei57)には仏教や祈り、自然から学ぶことについて。

このパートで興味深かったのは、「忘れてしまう」「変われない」ということ。リーマンショックや9.11による経済面だけでなく東日本大震災による(主に原発にまつわる)暮らしの危機は、いつしか思い出す機会も減り、関心も薄れていくもの。日々前を向いて歩いているわけで、そのこと自体は致し方ないと思います。とはいえ、当時感じていた「変えていかなければ」という気持ちも薄れてしまっていないでしょうか。

「喉元過ぎれば〜」という言葉もありますが、忘れてしまいがち、変われないということを自覚しているだけでも、日々の過ごし方はよくなるような気がしています。

2020年をどう過ごすか

ちなみに、『おやつマガジン』2号で、自分が書いた文章に「コロナ」という言葉を使っていません。この数ヶ月のあれこれは、伝染性のウイルスが原因ではあるものの、そのことだけでなく、日々のことや身の回りのことを考えるきっかけになってほしかったから。と同時に、少しでもコロナという言葉から離れた時間を作れないかという思いもありました。

「少しでもポジティブに前進していこう」。

それは自分に言い聞かせるような言葉でもありました。発刊して一ヶ月。わりとあっさり緊急事態宣言も明け、街中はコロナなんだった?みたいな賑わいに溢れたのも束の間。ボディーブローのようにじわじわと生殺しのような日々は第二フェーズなのかもしれません。

巻末のルポ

最後になってしまいましたが、巻末にはおやつをめぐるルポが3本あります。旅をしながらおやつの世界を伝えていく、これこそ本来おやつマガジンでやっていきたいこと。

山形・梅津菓子舗を尋ねた『愛しののらくろボーロを求めて』はまちだまことさん(@kohitsujisha)に、過去に訪れた旅と電話インタビューを、『うさがみそーれ 母なる島のおやつ』では、沖縄の家庭のおやつを弊社・北村華子(@hanak003)が、先行していた取材で撮影したものからスピンオフ的に。
創刊号につづき、濱田紘輔さん(@kosukehamadas)さんは、地元三重で長年親しんできたドムドムハンバーガーの閉店までの話を 『みんなのドムドムハンバーガー』として寄せてくれました。

おやつマガジン2号の全体像としてはこんな感じ。1ページごとにいろいろ書けることはあるけれど、本として読んでみてどうかだと思うので、まだの方がいたら是非とも書店で手にとってみてください。

休業や営業短縮などしていた書店の話もあるけれど、それはまたいつか。

おやつマガジンインスタグラム @oyattu_magazine/

あまり更新頻度は高くありませんが、公式のインスタグラムで刊行情報などお伝えしております。次号は10月ごろに向けて鋭意制作中。途中経過のお話もしていきたいと思います。だらだらと書いてしまいましたが、ここまで読んでくださりありがとうございます。





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