見出し画像

訪問リハビリテーション部門プロジェクト

はじめまして。かすがいクリニックで医師をしています尾立です。
今回の記事では、今年新たに立ち上げた訪問リハビリテーション部門のことについての想いを綴りたいと思います。

医師としての原点であるリハビリテーションへの想い

訪問診療をしていると様々な病気をもった患者さんの担当をさせていただきます。
訪問診療を利用される方は外出することが難しい患者さんが多いので、内科はもちろんのこと、外科・皮膚科・ときには眼科や耳鼻科等の症状も診察し、可能な限り治療にあたります。

私自身はかすがいクリニックに来る前、リハビリテーションを専門にした病院で7年間勤めてきました。リハビリテーションの専門職と共に、患者さんの治療に取り組んできた日々は、医師として私のかけがいのない経験となっています。

そのため、訪問診療をしていると「この患者さんはリハビリをしたら自分でトイレに行けるようになりそうだな」「ここで諦めることはない!リハビリすれば絶対食べられるようになる!」と、ついついリハビリ視点で患者さんを診てしまいます。

私はリハビリの対象になる患者さんを選ばないと考えています。リハビリができない人はほぼいません。むしろリハビリをしたいかどうか、リハビリをするための目標があるかどうかが大事です。

高齢だろうと、癌末期だろうと、寝たきりだろうと、夢や希望・目標があると思います。自分でトイレに行きたい、家の中を自由に歩きたい、食べたい物がある、会いたい人がいる、行きたい場所がある。人間は死ぬ間際まで様々な欲求を持っていると思います。

私はそういう思いを諦めてほしくないですし、かすがいクリニックのリハビリチームはその思いを受け止め、寄り添い、支えていける存在でありたいと考えています。リハビリテーションの語源はラテン語でre「再び」、habilis「人間らしく・できる」というところからきています。

もちろん実際にリハビリを行っても病気にかかる前の状態には戻せないこともたくさんあります。現実には綺麗ごとばかりではないですし、自宅に退院してきても寝たきりの患者さんもいらっしゃいます。それでも私は本人があきらめるまでは絶対にあきらめないでいたいと思っています。病院があきらめようとも、ご家族があきらめようとも、本人があきらめていないなら、私も諦めない、最期まで寄り添います。

たとえそれが叶わなくても、それに向けて努力して、工夫して、その人も思う希望に少しでも近づけたい、そのために何かできることがないか探したいです。

だから私は訪問リハビリを始める際に必ず患者さんご本人に「何が目標か」を確認します。その人が何をしたいのか、何のためにリハビリをしたいのか、まず聞くようにしています。そしてリハビリテーションの専門職とそれを共有し、どうすれば実現できるか、短期目標・長期目標を決め、それに向けてどのようなリハビリ内容にするか相談して決めていきます。

私の目指すリハビリテーション

私の患者さんのお一人であるAさんは、入院中は点滴やモニターに繋がれ、ほぼベッド上で過ごされていました。Aさんは長期間癌と闘ってきました。しかし「もう積極的治療はしない・自宅に帰ってやりたいことがたくさんある」そう言ってご自宅へ退院することを選択されました。退院されてすぐに訪問診療と訪問リハビリを始めました。
Aさんに最初にリハビリ目標をお聞きしたとき、「目標はいっぱいあります!絵もたくさん描きたいし、食べたい物をたくさん食べたいし、自分の足で歩きたいし、外にお出かけもしたいし、愛犬と遊びたいし…」と仰っていました。

理学療法士と相談し、立位歩行練習・手指の運動(絵を描くための握力アップ)・トイレや更衣等の日常生活動作が自立できるように練習したり、外出するために車への乗り降りの練習等、多岐にわたってリハビリを始めました。
約一か月が経ち、現在Aさんはしっかり三食食事をされ、たくさんの絵を描き、お家の中や車庫を歩いたり、先日は娘様とドライブに外出されていました。目標を一つ一つ叶えていらっしゃいます。そんなAさんはいつもとてもいい笑顔をみせてくださいます。(トップの画像はAさんが描かれた作品になります)

スクリーンショット 2021-11-09 14.24.28

(Aさんとのリハビリ場面。※写真掲載には御本人の許可を頂いております)

Aさんをみているとこれこそ私がやりたかったリハビリだ!と感じます。Aさんの夢が一つでも叶うように、担当理学療法士と相談し、アイデアを出し合います。もちろん癌患者さんであり、毎日調子がいいわけではありません。痛みがないか、呼吸苦はないか、浮腫はどうか、理学療法士と密に情報を共有しながらリハビリの指示を出しています。
私はこのようにチームで取り組むリハビリが好きです。そして患者さんが願いを叶えて「ありがとう先生」と言ってもらえる時がたまらなく幸せです。

リハビリテーション病院を離れ、訪問診療をはじめて約三年。やっと当院で自分が思うリハビリチームが稼働し始めました。これからもかすがいクリニックの仲間とともに、患者さんの希望を叶えられるよう頑張っていきたいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?