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高円寺を愛し、高円寺に愛された女 ”アニー”こと安田明日香(34) わたしの湯 vol.12

—小杉湯で好きな仕事はなんですか?
番頭です。お客さんともコミュニケーションも取れるし、掃除したり、タオル畳んだり、現場を肌で感じられるのが好き。でもね!一番好きな番頭業務は、コインランドリーにお金を入れてる瞬間!!(笑)

—え!なんで!?(笑)
だってゲームセンターだったら夢のようだよ!? 100円玉じゃらじゃら入れる、あの快感。一番好き!

こちらが質問しなくても、勝手にしゃべりまくる彼女。久しぶりのインタビューに緊張していた私もすっかり気が抜けて一緒に笑ってしまった。
こんにちは、つっつーです。“わたしの湯”とは、2020年5月コロナ禍真っ只中に始まったスタッフ紹介企画。わたしが小杉湯に入った当初、会う人会う人「何この人、面白い!」「この人のこと、お客さんが知らないなんて勿体ない!」と感じ、筆をとりました。小杉湯はお客さんにとってのホーム銭湯であり、スタッフにとってのホーム銭湯でもある。そんなみんなのホーム銭湯、小杉湯を今まで以上にもっともっと好きに、内側から好きになってくれたらうれしいな。
「アニーさんが大阪に帰る前に絶対わたしの湯をやってほしい。」何人かのスタッフから声がかかる。みんなから愛される彼女は、お姉さんでありながら子どものように無邪気でかわいい。大人になると忘れてしまいそうになる素直な心を、今も大事に育てる彼女が、わたしは本当に大好きだ。
 
企画:つっつー 写真:Gota Shinohara 編集:わたしの湯編集室
 

小杉湯との出会い 30歳、上京という挑戦

—自己紹介をお願いします。
アニーです!小杉湯では2019年5月から働いています!それまでは、大阪で福祉の仕事をしながら、劇団で芝居をする、という生活を8年くらいやってました。だんだんと「劇団員だけじゃなくて色々な人とお芝居をしたい」って思いが湧いてきて、環境を変えて、色々な人と何かを作りたい!働き方とか生き方とかも含めて、色々チャレンジしてみよう!と思ったのが28歳。そこから社会福祉士の資格試験を挟んだりもして、結局東京に出てきたのは30歳の時。

—30歳、挑戦しようという気持ちがあったんだ。
そうだね。色々な人と何かする=芸能事務所に入るってこと?ってイメージして、でも「30歳で芸能事務所か…いやいや無理やで。」と上京前から思ってしまって。人と違う形で戦える方法はないかな?と、大阪にいる時に色々な本を読んでみた。その中の一つで、伊藤洋志さんの『ナリワイをつくる-人生を盗まれない働き方』という本に出会ったの。固定費を抑えて、家の機能を小さくして、その代わり銭湯に通ったり、公園を自分の庭のように使ったり、図書館を書斎として使ったり、町に開いた生活をするのも面白いのでは?みたいなことが書いてあった時に、なんかすごく共感して、せっかくのはじめての一人暮らしだし、実践してみよう!って。だから風呂なし物件を探すところからスタートしたんだよね。
東京銭湯ふ動産のカシマさんにお世話になって、探してたどり着いたのが高円寺の日当たり良好駅近物件。レトロな雰囲気が良くて、広さも家賃も満足。「この家に住む!」と決めた。そしたら、すぐにカシマさんから「この家の周りには銭湯が3軒あって、そのうちの一つが小杉湯で、アニーちゃんに合うと思うよ」と言われた。「じゃあ私、小杉湯に通って、仲良くなって、バイトするようになったらお風呂代も浮きますね!あはは」みたいな話をしてた。それが上京前の2月の話。その後大阪に戻って、残った仕事をしていたら、カシマさんから「小杉湯で深夜清掃を募集しているよ!」と教えてもらい、美帆さん、佑介さんの二人に、オンラインで面接してもらって、上京後働くことになったの。深夜清掃は1年くらい。その間に“銭湯で働きながら風呂なし物件に住む女”としていろんなメディアにめっちゃ出た。テレビのコーナーや新聞にも取り上げられて。あと東京の町で芸能人を見かけることも多くて…なんか「東京に来たな…!」って感じた1年やった。そして、「自分は東京で何ができるかな」って探っていた時期でもあった。待合室で恋愛イベントを企画したり、北中夜市で妄想寺※を出店したり。

※妄想寺: 妄想寺という架空の寺。その寺の小坊主アニーと一緒に、楽しく妄想話をする企画。
本人提供写真参照

—なんでそんなに様々な企画をやろうと思ったの?
もともとイベントを企画するのが好きだったのよ。上京して最初に作った名刺があるんだけど、“芸能事務所に行くかもしれない”という可能性があったから、大阪でバッチリ宣材写真をとって名刺を作って。名刺の肩書には役者・社会福祉士・小杉湯番頭・ポップアップイベンターって(笑)

—迷走してますね〜(笑)あと、印象に残っているのはアニーしんぶん、あの話は外せませんね。
アニーしんぶんは、私のことを色々な人に知ってもらおうっていう欲望の塊でできたもので、マジで自分のことしか書いてない。これが思いのほかウケがよくて、みんな声をかけてくれてん。小杉湯となりを運営する銭湯ぐらしの代表の加藤さんもその一人で、小杉湯となりのオープニングスタッフとして声を掛かけられ働くことになった。

“小杉湯となり”とアニー

—東京2年目は小杉湯となりのスタッフでスタートしたんだ。
番頭もしていたけど、2年目はとなりでの活動が濃かったなぁ。会員さんと一緒に色々なイベント企画をした。コミックエッセイストでイラストレーターのハラユキさんが本を出版することがきっかけではじまったスペインイベントは、思い出に残ってる。ハラユキさんの力がかなり大きいけど、“場所”や“人”との掛け算がすごかった!小杉湯となり初、会員さんとの大きな企画ということもあって、走り回ってあのイベントができたな。あと、運動生理学者の佐藤さんとも出会って小杉湯健康ラボ※が立ち上がったり。※健康ラボ:小杉湯を中心とした、まちの健康に関心のある人たちからなるチーム。夕焼け散歩などを企画したりしながら、常連さんや地域住民の方とコミュニケーションをとっている。

—その年に健康ラボも立ち上がったんだ!色々な始まりを作った一人ってことだ。それって出来そうでなかなか出来ない、アニーさんだからできたって思う。これはハラユキさんとも共感したことがある気がするよ。
スペインイベントは特に「おもしろうそう!やりましょう!」の勢いで、もう“うわ〜っ!”と走り抜けたな。劇団でゴリゴリに公演をうって、泥臭く準備して、パーン!とやる!という楽しさと似てて、その経験が活きたと思う。でもやっぱりみんなの掛け算がすごかったよ。小杉湯の佑介さんも、銭湯ぐらしの加藤さんも「いいねやろう!」って後押ししてくれて、“あ、こっちに進んでいいんだ!”って思った。
あと、番頭の時に話をしたお客さんが、となりオープン当初にご飯を食べにきてくれたり、ふらっと足を運んでくれて、小杉湯では顔見知りだったお客さんと、となりで喋ってもっとその人のことを知れるようになったっていうのは面白いなって思ったね。

—アニーさんのなかでは、小杉湯となりって小杉湯以上に思い入れがある場所なのかな。
どちらも行き来しているから、同じように思い入れはあるよ。小杉湯で働いている時間も、小杉湯のお風呂に入ってる時間も、裏の事務所で喋ってる時間も、となりにいる時間も、高円寺の町にいて「やぁ!」って話してる時間も全部、“一つにして抱きしめてる”みたいな感覚。だから私にとって「これが一番!」とかはなくて、“小杉湯・小杉湯となりを中心にした高円寺”が…この生活全部が大好き。当初考えていた【町で暮らす】っていう感覚が、想像以上に楽しんでやれた。私にとってすごく大事なこの4年間の感覚を、自分の物だけにしたくないな、って思って、本にしたり、展示にしたりしたい、っていう気持ちが出てきた。

—あ、21(日)の展示の話だね!
そうそう!21(日)小杉湯となりで『アニーの高円寺生活展』という企画をするの。【町で暮らす】っていう感覚は、すでに小杉湯に来ている人はあると思うんだけど、あえて形にして伝えたいって気持ちがある。
そして地元に帰っても【町で暮らす】って体験を、おばあちゃんと暮らしながら挑戦したいなって思ってる。まだ高円寺でやれることは沢山あるけど、それは私じゃなくてもできる。でも自分の家族とのコミュニケーションは私にしかできないことなんだよね。1年前の5月24日、私の誕生日を祝いに、お母さん、おばあちゃん、妹が高円寺に来てくれたの。その日はみんなで2軒はしごして飲みに行って、その帰り、庚申通りを歩いていると母親が泣き出してしまって。「明日香と会えると思ったらドキドキして本当に眠られへんかってん。でもいざ会ったらなんか本当に、嬉しいのと何喋ったらいいのかわからんのと、喋りたいこといっぱいあるけど、時間もないのとで、なんかもうどうしていいかわからんねん!」って言った顔をみた時に、あ、自分がしっかり向き合って耕していくものは、次は家族かな、ってすごく思った。まぁ、転職とか、家の更新とか、現実的なタイミングも後押しした感じ。21(日)は、そんな高円寺での蓄積を自分なりに表現したい!となりを公園のような場所にするぞ!という企画!

—お母さんの話は初めて聞いたな…21(日)すごい企画が楽しみになった!
もう、あと半年ぐらい準備期間がほしいよ(笑) 本当はもっとあれもこれもって考えたけど、今回は自分の手が届く範囲で、みんなの力を借りながら、楽しい場所を作れたらいいな。

これから向かうアニーの未来

—小杉湯での思い出も少し聞きたいな。
そうやな…このまえすごい良いシーンがあって、番頭中、男性脱衣所で髪の毛がすごい落ちてたから、床掃除しながら「髪乾かして自分の髪落としちゃったな〜って思ったら、ティッシュで拾ってもらったら助かりま〜す」って言いながら掃除機かけてたら、髪を乾かした人が「あ、はい〜」っていって、片付けてくれた。あと、濡れた体のままロッカー行こうとする人に「あ!今度からタオルは棚に置いてね」って、伝えたら素直に応えてくれて。相手も受け取ってくれそうな雰囲気を感じて、自分も一声かけられる気持ちの余裕がある時は伝えて、気持ちよくコミュニケーションできたから嬉しかったな!
 
—アニーさんの“思ったことは相手に伝えようとするところ”は素敵だな。相手が「うわっ…注意された」って受け取らずに、気持ちよく受け取れる形で伝えられる。それってかなり難しいと思うから、本当に尊敬する。
自分が気持ちよく伝えられないなって時もあるから、その時は黙ってたり、眉間にシワ寄せてたりする時もあるよ(笑)できない時もあるけど、相手の雰囲気と自分の気持ちを測って「今なら言えるな」って時は言うな。昔から知らない人に声かけるのはできる方だったけど、小杉湯で働くようになって、更にできるようになっちゃったから、「馴れ馴れしいな!」っていつか誰かにすごい叱られる時が来そう。(笑)
この前、小杉湯に向かって庚申通りを歩いてる時に、アロハシャツを着たおじいさんに「そのシャツすてきですね〜」って言ってしまって。(笑)桃を買いすぎてしまった時も、ベビーカーを押してる夫婦がいたから、「あ!すみませんそこで買ったんですけど、桃をちょっともらってくれません?」って声をかけたり。「この人たちだったら大丈夫かな?」って後ろ姿でわかるじゃん?この感覚は美帆ちゃんの影響もあるかも。自分の得意だったことがこの4年間でさらにパワーアップした感じはある。
 
—パワーアップして大阪に戻るわけだけど、戻ったら具体的に何をするの?
まずは、きよちゃん(おばあちゃん)と暮らすから、一緒に何かできたら、とは考えている。おばあちゃん家のとなりにはヤマザキショップがあるの。ヤマザキショップって自由度が高いフランチャイズで、レコードを売っているところとか、車を売っているところとかもあって。そこも手作りの弁当を置いていて、福祉的な要素で見てもコンビニのポテンシャルは高いから、一緒に地域連携できないかな?っていうのは妄想してる。
そして、向こうの新しい仕事は、この4年間の経験をすごい活かせそうだなって思ってる。認定NPO法人D×Pといって、10代の孤立、困りごとをサポートする団体。その中で私が関わる部署は、アウトリーチ事業といって、心斎橋にあるグリコの看板の下(通称グリ下)に集まる若者たちを対象に、テントを立てて、お菓子や飲み物を準備して、無料コンセントを解放してる。その中でコミュニケーションをとって困りごとを探って、他機関と連携しながらサポートしていく。6月にはグリ下近くにユースセンターができるのね。若者が集まれる場所ができるから、ご飯を作ったりイベントをしたり…その場所だけじゃなくて、その町で若者が生きやすく、夢を持って生活できる為に、地域の人と連携していく。
 
—東京で得たことがすごく活かせそう!高円寺で見た景色が、大阪でも見られたらいいね。
そうなのよ!この4年間すごく大事にしていたことの一つでもあるんだけど、「してあげる」じゃない、対等な町に暮らす人同士の関わりの中で、その人に生き辛さがあったら、一緒に支え合うことができたらいいなって思ってる。D×Pは寄付を中心に運営しているから、集まった資金を何に投資するかとか、利用者とのコミュニケーションの方法も自由度が高いと感じているの。みんなに活動を知ってもらえたら嬉しいな。

—アニーさんのまた新しい挑戦が始まるんだ。最後に、小杉湯はあなたにとってどんな場所ですか?
小杉湯は私にとって、“人生の風呂!”(笑)みなさん、これからも銭湯ライフ楽しみましょう!

わたしの湯 “人生の風呂”ってなんだろう

本当にいなくなってしまうんだろうか、まだ実感がない。アニーさんと出会った日から今日まで、「この人みたいに自分らしく素直にいられたら、どんなにいいんだろう」って思いっぱなしだ。大人のようで子どもな顔をする時。子どものようで大人の言葉で話す時。一緒にいるとハッとしたり、かと思えばミルク風呂に浸かったみたいに心がポカポカしたりする。“人生の風呂”って私にはまだ意味不明だけど(笑)その答えを見つけられるように、自分の素直な気持ちに耳を傾けて生きていきたいなと思う。アニーさんがそばにいてくれる10代のみんなが羨ましいな。アニーさんこれからもずっと大好きだよ!                        つっつー

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