【創作】月とワガママプリンセス
昔々、ある国に美しいお姫様がいました
誰もが見とれてしまうほど美しいお姫様でしたが、お城の家来達、国の住人達は皆、お姫様が大嫌いでした
お姫様はとてもワガママだったのです
ある夏の日には「雪が見たい」と言い出しました
家来達は大慌てで国中の氷をかき集め粉々にしてお城の上から降らせました
またある冬の日には「桜が見たい」と言い出しました
住民達は大慌てで細かく切った紙を桃色に染め枯れ木に貼り付けて偽の桜の木を作りお城に植えました
お姫様のワガママに皆うんざりしていましたが、誰も逆らうことは出来ません
お姫様に逆らうと死刑になってしまうのです
満月が輝くある夜のこと
お姫様がまたワガママを言いました
「あの光輝く月をこのお城に持って参れ!持ってきた者には褒美をやろう!」
皆大きなため息をつきました
月をお城になんて持ってこれるはずがありません
しかしお姫様の言う事は絶対です
逆らえば死刑にされてしまいます
誰もが困り果てていた時、ある聡明な若者がお姫様に言いました
「城の庭に大きな穴を掘ってください」
お姫様は若者が何をしたいのか分かりません
「月を持ってこなければ死刑であるぞ!」
若者は恐れる様子も無くうなずきました
そして城に大きな穴が掘られました
しかし月は依然として空で光っています
「この大嘘つきめ!死刑に処す!」
怒るお姫様に臆することなく若者は言いました
「穴いっぱいに水を入れてください」
お姫様は若者が何をしたいのか分かりません
「今度こそ月を持って来なければ死刑であるぞ!」
若者は恐れる様子も無くうなずきました
そして穴いっぱいに水が入れられました
しかし月は依然として空で光っています
「もう我慢ならん!この者をいますぐ死刑にせよ!」
家来達が若者を死刑台に連れて行こうとしたその時です
若者は穴の水を指差しこう言いました
「月を持って参りました」
若者の指の先にはまるで鏡に映っているように美しい月がはっきりと水面に浮かんでいました
月の鏡を見たお姫様は満足そうに言いました
「見事じゃ!望みの物をやろう!」
すると若者はかぶりを振って答えました
「褒美など要りません。ただ姫様に申し上げたい事がございます」
そう言うと若者は石ころを拾い上げると水面に向かって投げました
パシャリと音を上げて波紋が広がると美しく浮かんでいた月はバラバラに崩れました
「本当に美しい人を空に浮かぶ月とするのなら姫様はこの水面に浮かぶ月でございます
一見美しく見えますが石ころ一つでバラバラになります
どんな時でも美しいあの空の月のように姿もそして心も美しくなっていただきたいと私達は願っております」
若者の言葉にお姫様は自分の過ちに気付きました
そしてこれまでの行いを悔い改め、家来や住人たちに深く頭を下げました
それ以来、お姫様がワガママを言うことはありませんでした
心も美しくなったお姫様を住民達は大好きになりましたとさ
おしまい
※2022年10月11日 修正
(1178文字)