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【創作】風鈴と不倫と出来心

「風鈴とさ、不倫ってなんだか似てるよね。なんつって、たはは……」

あなたは私のアパートに吊るされた風鈴をチリンと鳴らすと、力無く笑った。私は黙ったまま話の続きを待った。私から何かしらの返答があると思っていたのかあなたは何も喋らないまま薄ら笑いを浮かべている。一刻の沈黙が流れた後、あなたはポツリと言葉をこぼした。

「妻にバレちゃったんだよね。その、君との関係が」

まいったな、とまた力無く笑ってポリポリと頭を掻くあなた。やけにソワソワして視線を泳がせていると思ったらそういうことかと合点がいった。優柔不断なあなたはきっと私の口から”それ”を言わせたいのだろう。もともとちょっとした出来心で付き合ったような関係だ、たとえここで終わったとしても何の問題もなかった。あなたに対して未練や執着のような気持ちは全くない。けれど、このままあなたに何のお咎めもないまま終わるのはなんとなく釈然としなかった。むしろ「風鈴と不倫」なんていう安易な言葉で片付けようとするあなたにだんだんと腹が立ってきた。

「係長はどうされたいんですか?」

ちょっとした出来心だった。あえて役職で呼んでみる。社外では名前で呼ぶことが多かったが急に役職で呼ばれたもんだから、あなたは明らかに狼狽えていた。私が会社に報告するとでも思ったのだろうか。

「急に嫌だなぁ、係長だなんて。会社じゃないんだから。あ、でもこれからはただの係長になるのか。なんつって。たはは……」

私が言った”係長”を利用してそれとなく別れを示唆しようとするあなたに、私の出来心がさらに加速した。

「なるほど、係長はあくまで私とは上司と部下の関係だったと言いたいわけですか。ならば仕方ありません。私にも考えがあります」

か、考え!?甲高い声で驚いたあなたは見開いた目を私に向けた。きっと頭の中で様々な思いが目まぐるしく廻っているのだろう。立ち上がったり座ったりを繰り返したと思ったら急に部屋の中を歩き出したりと目に見えて焦っている様子だった。


え。おもしろ。


くだらないオヤジギャグしか言わないあなたに、こんなにもおもしろい部分があったのだと感心をした。

「君は一体どうしたいの?君の望みはなんだい?」
「私の質問に答えてください。係長はどうされたいんですか?」

そろそろ許してあげても良いかと思ったけど、私の出来心がまだまだ楽しみたいようだった。次に風鈴がチリンと鳴るまでとことん追い詰めてやろうかな。

風はまだ吹きそうにない。


おしまい(1014文字)


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