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【シロクマ文芸部】会いに行く

「愛は犬?え?山?今なんて言ったのー?」

彼はペダルを漕ぐ足を緩めることなくのんびりと私に言う。マイペースないつもの彼が今日は少しだけ憎らしい。

「だから引っ越すの。愛知の犬山ってとこに」

彼の背中を風よけにして私はさっきより大きな声を出した。
引っ越す、という単語にようやく事の重大さを理解したのか彼は急ブレーキをかけて自転車を停めた。

「ひ、引っ越す?いつ?どこに?愛知のどこだって?」

私の方を振り向いて彼は慌てて言った。焦る彼の顔を見て今度は少しだけ安堵する。一応は慌てさせる存在ではあったのかな。

「配属先がね、愛知県の犬山市ってとこになったの。だから卒業したら犬山かな」

「卒業ってもうすぐじゃん。犬山ってここからどれくらいかかるの?」

「さぁ?電車で3時間くらい?」

はぐらかすように答えた私だったけど、ここから犬山までの行き方や時間はもう何度も調べた。
3時間、自分で言った言葉に気持ちが暗くなった。
黙って俯く彼。静寂が二人を包む。
何か言って欲しいと思う反面、こういう時に気の利いたことが言える彼じゃない事は私が1番知っている。
あーあ…これで終わりなのかな、そんな考えが頭をよぎり目が潤んだ時だった。

おもむろに彼が口を開いた。

「ほら!これ見て!」

彼はスマホの画面を私に見せた。
スマホには立派なお城が写っており【犬山城】と書かれていた。

「おっきな城だよね!他にもモンキーパークとか桃太郎神社とかたくさん観光名所あるみたいだよ!」

目を輝かせて興奮気味に話す彼に私は思わず笑ってしまった。

「犬山に会いにいくから。3時間なんてすぐだよ」

そう言って彼はクルリと前を向くとまたペダルを漕ぎ出した。

私に会いに犬山へ。私たちの愛は犬山に。

私は彼の背中に顔を預けてシャツを掴んだ手にギュッと力を込めた。



🐶🐶🐶🐶

愛知県犬山市、とっても良い所です!


#シロクマ文芸部
#愛は犬
#愛知県犬山市
#別に犬山の回し者じゃないよ


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