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追悼のロービー

台風14号の進路予測を見るとどう考えても日本に恨みがあるとしか思えません。

こんにちは、九州辺りでの急激な右折に納得いかないコッシーです。


さて、久しぶりの投稿になりますが、いろんな事が重なってお仕事が多忙を極めておりました。

入居施設でクラスターが発生しそうになったり、あるスタッフと退職の件で揉めたり、利用者の旦那さんとバトルしたりとそこそこ濃い日々を過ごしていました。

また記事にしていこうと思いますが、とりあえずお仕事の方は落ち着いてきました。
休みなく働いていましたので、仕事の鬼と言われる僕もさすがに疲れを覚えており、次のお休みは絶対に家でダラダラとゆっくり過ごそうと決心していました。

しかし、それを許そうとしない人がいました。

奥さんです。


「次の休みの日にロービーローストビーフって作れるかな?」


仕事中にさらっとLINEが入ってきました。

当然ですが奥さんとは一緒に暮らしており、ここ最近僕がどんだけ大変な思いをしているか知っているはずなんです。

仕事のドタバタにジタバタしてクタクタになって帰宅した僕を1番近くで見ているはずなんです。

もうふざけるなを通り越して、っざけんな!と思いました。
#ふざけるなの最上級

いくらロービー作りが趣味と言ってもさすがに今回は作る気がおきませんでした。


「ごめん、ちょっと無理かな」

「だよね。分かった、ごめんね」


いつもならなんやかんや上手く誘導されて結局作らされていたのに、意外にもあっさりと引き下がる奥さんを不思議に思い逆に気になってしまいました。


「え?いいの?女子会に持ってくんじゃないの?」

「ううん、女子会とかじゃないんだけど…」


奥さんからロービーをどこに持っていくつもりだったのか聞いた僕は、すぐに前言を撤回してロービーを作ろうと思いました。

今回のロービーは奥さんの友人の旦那さんのために作って欲しいとのことでした。


奥さんは友人たちとたまに食事会をやっており、その会に僕のロービーをよく持っていきます。
ありがたいことにご友人たちからはとても好評をいただいており、僕のロービーを楽しみにしている方もいるみたいです。

その中の一人に友人の旦那さんがいました。

どうやら友人宅で女子会を開いた時にそちらの旦那さんが僕のロービーを食べたそうです。

「どこにお店のローストビーフよりも美味しい!」

そう言ってその日あったロービーをほとんど1人で食べてしまったらしいです。
リップサービスも含んでいると思いますが、それでも自分が作った料理を「美味しい」と喜んでもらえるのは本当に嬉しく思いました。

それからその友人宅で女子会が行われる時はいつもよりも多めにロービーを作るようにしていました。


半年ほど前でした。その旦那さんが入院したと奥さんから聞きました。
詳しい病状は分かりませんが、どうやら余命が幾ばくも無いとのことでした。

入退院を繰り返しており、ここ最近は食欲も落ちてきたようでした。


その旦那さんが「あのローストビーフが食べたいなぁ」とふと口にされたと友人から奥さんが聞いたそうです。
もちろん友人は作って欲しいとお願いしたいわけではなくて、それだけ美味しかったと僕に伝えたかっただけだと思います。

奥さんもどうするか迷ったと思います。そのような状態の方にローストビーフを差し入れすることが正解かどうか分からないと思います。
半信半疑のまま僕に打診をしたんだと思います。

だから断られてあっさりと引き下がったんだと思います。


ただ僕はこの話を聞いてロービーを贈りたいと思いました。
たとえ食べられなくても、捨てられたとしても、もしかするとご家族にご迷惑が掛かったとしても。

でもロービーを見た旦那さんには喜んでもらえるんじゃないかと思いました。


「作るわ…いや作らせてもらいます」

奥さんにそう伝えました。念のため奥さんには友人に聞いてもらいました。
友人も喜んでいるとのことでした。

次の休みには今まで1番気持ちを込めて丁寧にロービーを作ろうと思っていました。
そして願わくば一口でも旦那さんに食べてもらえると良いなと思っていました。


しかし、僕の願いは叶いませんでした。
僕の休日の前日に旦那さんはご逝去されました。

仕事中に奥さんから「明日お通夜になりました。ロービーはキャンセルでお願いします」とLINEをもらいとても残念な気持ちになりました。

お休みがもう少し早ければ、お休みじゃなくても作れば良かったと後悔しました。


旦那さんはにぎやかな事が好きだったみたいで、お通夜の後で親しい友人たちと旦那さんを囲んでちょっとした呑み会を開くとのことでした。

奥さんもその会に呼ばれていました。

お通夜の日、つまり僕のお休みの日の朝のことでした。
真面目な顔した奥さんから話があると言われました。

「昨日はロービーキャンセルって言ったけど…」と言われた瞬間に奥さんが何が言いたいか分かりました。

奥さんはお通夜後の呑み会にロービーを持っていきたいとのことでした。実は僕も全く同じ気持ちでした。


「ロービーキャンセルをキャンセルってことね(笑)」

「うん!やっぱり持っていこうかなって思って」


二つ返事でOKした僕は早速ロービーを作りました。


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特別なアレンジはしていません。いつも通りの調理法で作りました。
でも、いつもよりも丁寧に美味しくなれと願いを込めて作りました。

心なしかいつもよりも美味しそうに見えました。

奥さんにロービーを渡して見送りました。


しばらく経った後、呑み会に行った奥さんから1通のLINEがありました。

今まで1番美味しいって。ありがとうって。

短い文章でしたが、きっと喜んでくれたんだなと思えました。


僕はプロの料理人ではありませんので、僕の作るローストビーフなんて素人に毛が生えたレベルだと思います。

それでもそれを好きだと言ってくれる人がいて、ましてや最期の間際に食べたいと言ってくれた人がいることは僕にとって幸せ以外の何ものでもないと思いました。


僕のローストビーフをいつも喜んで食べていただき、そして食べたいと言ってくれて本当にありがとうございました。
これまでで1番心を込めて作りました。食べてもらえずとても残念ですが気持ちが伝われば嬉しいです。


心からのご冥福をお祈りいたします。


コッシー

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