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仄暗い施設の部屋から

台風に名前があることを初めて知ったのですが、今回接近している台風14号は『チャンホン』という名前らしく、そんな可愛らしい名前をつけると愛着が湧いてしまうので、いっそのこと『鬼丸』とか怖そうな名前にした方がより警戒すると思います。

こんにちは、コッシーです。


さて、うちのような入居施設では年に1度、電気保安協会による電気設備点検が行われます。ほとんどの電気設備の電源を落として点検するため、基本的に館内全てが停電になります。

エレベーターなど一部待機電力で作動する機械もありますが、厨房設備からフロアの照明やエアコン設備その他もろもろ全ての電源がOFFになります。

消防の緊急装置や防犯関係、その他精密機器に関しては事前に業者に連絡して、電源が落ちても良いように手配をするので問題はありません。

入居者の居室も完全に停電となるため、理解できる方には事前にお知らせをしておき、認知症の方は説明しても忘れてしまう事が多い為、予めスタッフルームなどでその時間を一緒に過ごします。

しかし入居者の中には理解されてるようで実はあまりよく分かっていなくて突然の(事前に言ってるけどね)停電にビックリされる方もおります。

こういう時に事故などは起こりやすいため僕らは細心の注意をしなければいけないのです。


先日、今年度の電気点検が行われました。

停電時間は昼食後の13:30~14:30の予定です。例年通り入居者には前日に告知をして、さらに当日の昼食時にお知らせしておりました。

精密機械の業者にもきちんと連絡は済ませており、手順通り電源を落としました。さらに自動ドアのロックを外し手動で開けれるようにしました。

ちゃんとそれぞれの居室に戻られたか確認をして、認知症の入居者の方々をスタッフルームにお連れし準備は万端です。

電気保安協会の担当者へ「いつでも大丈夫です」と伝えると、担当者が電気を落としました。フロアの照明と居室の灯りが消え館内が薄暗くなります。その日はあいにくの雨だったため例年よりも暗さが増している気がします。

心配する認知症の方々に声掛けをします。異常がないか念のため各フロアに職員を向かわせます。

薄暗い中しばらく過ごした後、2Fフロアに行ったスタッフが慌ててこちらに戻ってきます。

「203のIさんがお部屋にいません!!」


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Iさんは男性の入居者で、歩行に少し不安はあるものの日常生活の事をほとんどご自身で出来ます。ただここ最近は少し物忘れが目立ち始めてきました。

Iさんには昼食後に停電の事をきちんと説明して納得もされてるようでしたので僕らも安心していました。それに停電する前に確認した時にはIさんは確実に部屋にいました。

懐中電灯を片手にIさんの居室に行きました。確かにベッドにも椅子にもトイレにもいません。うちの居室の窓は転倒予防のために少ししか開かないため窓から外に出ることは不可能です。

「Iさんいますか!?Iさーん!返事してください!」

いつもはカードキーがないと開かない玄関前の自動ドアが停電の際は手動で開くようになっています。玄関前には必ずスタッフがいるようにはしていましたが、もしかして隙をみて外に出たのでは…そこで事故にでも遭っていたら…最悪の事が頭をよぎったその時、居室内からかすかに声が聞こえてきました。

耳を澄ましてよく聞いてみると、「…ここです。」とIさんの声が聞こえます。

「Iさん!どこにいますか!?大丈夫ですか!?」

大声でIさんを再び呼びます。さっきよりもはっきりした声で「ここです」と聞こえました。声が下の方から聞こえた気がして、まさかとは思いましたが、ベッド下を懐中電灯で照らすとそこにはIさんの姿がありました。


ベッド下からIさんを救出して詳しい話を聞いてみると、どうやら停電の事をすっかり忘れていたらしく、突然部屋が暗くなったため地震かと思い慌ててベッドの下に潜りこんだとのことでした。

Iさんがここ最近物忘れが目立ってきたことはこちらで把握できていました。もっと深く考えていれば例年と同じ対応ではなく、念のために一緒に過ごすことも出来ました。配慮が足りていなかったと反省をしました。

Iさんには本当に申し訳ない事をしたと深く反省しておりますが、薄暗い中で懐中電灯に照らされたベッド下のIさん顔といったら、まるでホラー映画のようで僕も思わず「うわわぁぁ」と声を上げちゃいまして、それを連日スタッフから弄られる日々を過ごしているので、ベッド下だけはやめてほしかったなとIさんを少しだけ恨んでおります。


来年は絶対に一緒に過ごそうと心に固く誓いました。


現場からは以上です。それではまた。

コッシー

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