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人間もどきなスライマーガール 1-1

深夜、もどきは大通りをバイクで疾走していた。
後ろには、黒服の男が乗るフルカウルのバイクがぴったりとくっついてきている。
「最近は、追われるようなことは何もしてないけどなあ…」
もどきは心の中でぼやきながら、スロットルをひねってスピードを上げる。
風が顔に吹きすさぶ度、スライムのようなもどきの体組織が後ろに飛び散っていく。
制限速度をぶっちぎった速度の中でも、地面に落ちてるジュースの空き缶の銘柄まではっきりと視認できるし、鋭敏になった感覚が人間では感じることのできないあらゆる情報を伝えてくる。
もどきは人間ではない。闇の科学によって生み出されたスライム型の生体兵器である。
その特異な出自と、明らかに異形なスライム状の身体ゆえに普段は表に出ることができない。
今日は、深夜に家を抜け出して友人であるゴースト女の大学に行こうとしたところ、いきなり黒服の男が銃で撃ってきたのだ。
慌ててバイクで逃げだしたはいいものの、なかなか黒服の男が諦めてくれないのが今の状況だ。
バイクのエンジン音に混じって、何発か銃声が響いた。
「うおっ!また撃ってきたよ!」
もどきの腕と背中に銃弾が命中し、小さなしぶきと共に体組織を削り取る。
黒服の男の銃の腕前は、バイクに乗っていてももどきの身体を撃ち抜けるほどに高いようだ。
スライムの身体はいくら銃弾で撃たれても痛みは伝わってこない。
だが、後ろから一方的に銃を撃たれているうちに、もどきはだんだんと怒りが湧いてくるのを感じた。
「あー!もう怒った!手加減しないからね!」
もどきは少し先に、手ごろな道路標識が立っているのを見つけた。
根元がコンクリートで補強された頑丈そうな道路標識だ。
それから、自分の体組織を後ろに投げつける。スライム状の体組織は、黒服の男のヘルメットに見事命中した。
べっとりとした液体を顔に食らった黒服の男は、たまらずバイクを減速させる。
もどきはバイクを加速させ、歩道に乗り上げると道路標識に自身の体組織で作った触手を巻き付かせた。
バイクが振り子のような軌道を描いて、すっ飛ぶように大通りに投げ出される。
人間には不可能な急旋回Uターンである。
ちょうど逆走する形で大通りに戻ったもどきの目の前には、黒服の男のバイク。
「喰らえこんちくしょー!」
もどきが黒服の男の首にラリアットを決めると、面白いようにクリーンヒットして黒服の男は地面に落下した。
見事なフルカウルのバイクは横転して、コマみたいに回転しながらガードレールに突っ込んで爆発炎上した。
もどきは自身が起こした惨状に振り返ることなく、深夜二時の闇の中に消えた。
黒服の男はむっくりと起き上がると、去っていく生物兵器の背中を見つめて冷徹な声で呟いた。
「水澤博士の実験体…なかなかどうして、ここまで成長しているとはな…」
それから、びっこを引きながら歩道まで歩くと、深い闇が立ち込める路地裏の中へと去っていった。

【あるはざのOK出たら続く】

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