小倉城での撮影と犠牲になる個々人の寒さの話
本日のBGM 畑野圭慧 - Sincere -真愛-
先日ピアニストの方から「ビデオ撮影をするから てめえのガラ貸せや」ということを丁寧に依頼されまして、そのミュージックビデオの撮影のために小倉城に行ってまして、映像の内容でろくろが登場するんですけど、そのろくろを客室の中に持ち込みまして、
小倉城というのは かつての小倉藩のお殿様たちが住んでいたところなわけで、一方私が属する上野焼はその小倉藩に従属する立場だったわけですから なかなかこういったものが持ち込まれるということもなかっただろうなと思いまして、
泥だらけだけどいいのかしら、なんと思いながら下に板だけ敷いて設置してみたらこの泥と錆が和室に大変に馴染んでおりまして、これ多分新品だったらめちゃくちゃ浮いてただろうけど、泥や錆や傷というのは そのものと周囲との境を滑らかにする機能があるんだなあと思いました。
ちなみにこの↑ろくろは祖父が生前使っていたやつで、ていうのも今使っているのは外に出すのがめんどくさかったから、すでに外に出してあった祖父のを持ってきたんですけど、数十年分の傷や汚れがろくろ台の印象を むしろ高貴なものに見せていたりするみたいです。
撮影前のイメージでは ろくろを回転させて、水挽きで器を作る様子を撮影したかったそうなのですが、普通に水挽きして作ったらこの部屋の壁に畳に泥水が飛び散ってエラいことになりますぜ、ってことを進言して手びねりで作ることにしまして、
ほんで 結果としてはこの手びねりにしといて良かったなあって感じで、何回も作り直しできるからリテイクも問題ないし、作る際も体の動きを出すことができるので、ダイナミズムみたいな方向性は手びねりの方が相性いいみたいです。ろくろの場合は静かに力強いって感じですからね。
あと手びねりで作りやすいよう 前日にM-1を見ながら粘土の紐を作り溜めておいたんですけど↑これも正解でして、前日に作ってたから当日は程よく乾いて、ちょうど作りやすい固さになっていました。これは今後普通に役立ちますね。
作業も、紐をひたすら作るっていうのと、それをひたすら積み上げていくっていう2つに分かれるので、一つ一つを集中してできるから そういった作業効率も良くなりそうです。どんなのを作ったのかはビデオが完成したらそちらで見ていただけたら幸いです。例によってその場のノリで作りました。
しかし和風建築は暑さを快適に過ごしやすい作りになっているとは言いますが、撮影中、二間あるでっかい部屋のフスマは全開でございまして、片方の部屋なんかは外に面するフスマが全部取り除かれているから、これはもう屋根があるだけで外と変わらないわけですよ。しかも下に池あるし。すげえ寒いの。
でも格好はそれなりに作ってそうな感じにしなきゃならないから厚着はできず、おまけに裸足で、撮影は夜の9時まで続いたからもう寒いのなんの。普段の作業中でも寒い時ありますけど、それは全力で着込んで寒かったりするわけで、
今回みたいにこちらの対策を制限されたことによる寒さというのは大変にしんどいもので、ドラマの番宣で俳優さんたちが語る季節違いのシーンを撮る時の辛さエピソードを、今後はもっと暖かい目で見ることができるだろうと強く思いました。
しかし前から思ってたけど、なんで真夏のシーンを真冬に撮ることになったりするのかしら。ワンシーンだけとかならわかるけど、舞台設定全体が夏なのに冬にロケしてるとか。それで公開されるのは夏なわけで、それなら1年前の夏に撮って1年後に公開とかってのはダメなのかしら、と思うけど、
まあ多くの人とお金が動くものなので、合理的に突き詰めていったら公開予定の数ヶ月前に撮影ってのが一番の落とし所で、その犠牲になるのがそれぞれの役者さんの熱いとか寒いという感情になるのでしょうな。きっと今年の冬もどこかの海岸で海のシーンとか撮っているんでしょう。ひやはや。
高鶴裕太 コウヅルユウタ
陶芸家
1991年生まれ
2013年横浜国立大学経済学部卒業
上野焼窯元 庚申窯3代目
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