けっこう嫌じゃない話

小学校の頃、合唱指導の時間に先生が

「声がちいさーーーーーーーーーーい!!!!!脊振山を、押せ!!!!」

っておっしゃられて。
そのせいでみんなの中で歌を歌うというよりも山を押すという競技の方に意識が転換しちゃって。
綺麗に歌おうとか、音程を間違えずに、とかの繊細な気遣いが全部吹き飛んだ。その代わり、できるだけ地面を揺らすように、冬眠中の動物全部叩き起こすつもりで、全員であの山をぶっっっっ壊すぞ!!!!!みたいな凶暴なモードに突入して、実に荒々しい「旅立ちの日に」を歌い上げることになった。

あの時の、全員で大真面目にズレたことをしている みたいな空気感がツボで。終わってみて「なんかちがうよな」っていうぼんやりした感覚だけが残ってる感じ。
果たして卒業式の合唱において、山を動かすほどの圧力要るんかね?
こんな野暮は誰も言わない。言ったらおしまいのやつだから。
分かりきった違和感を継続させる、しかし推進力の胴元は不明。この感じ。

中学の美術の時間に石印を作ることになった。みんな彫刻刀で柔らかい石印用の石を掘り進めていくんだけど、どうしても手が進まなくて。
石だから間違えた時取り消せないよ…っていうプレッシャーからどうしても着手することができずにいた。そうこうしてるうちに時間が経って、来週提出です!みたいな。ぼくの石印は今の所綺麗な四角柱なのですが!!汗
みたいな。時間も無いし、今更みんなみたいに四角い枠の中に球を掘り出して左右に動かしたらコロコロ球が動きます!みたいな難儀は無理だろうと。
結局、彫刻刀をグーで握って、これまで温存しておいた綺麗な四角柱に振りかぶって垂直に突き刺しまくる伊藤誠殺害スタイルでヤケクソ掘りをしたんだけど。出来上がりはもちろん酷くて、ギジャギジャになってしまった石を震える両手で抱き上げてすすり泣くにも足らないお粗末。題名とコンセプトを書く紙みたいなやつには「岩肌」「これは自然の摂理」とか書いて提出した。評価は良くも悪くもって感じだった。先生は呆れてただろうな。

石を掘っている、というか突き刺してる間、合唱指導の時と同じ風が吹いていた気がする。どうにもおかしいことを感じつつも事が進んでしまっている感じ。想像だにしないところから吹き付ける住所不定の逆風にとりあえず従っているこの感覚が、私はけっこう嫌じゃない。





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