証明写真屋さん

「はい!お疲れ様でした。」先輩の女子スタッフが、満面の笑顔でいつも通りの言葉をお客さんにかけた。私は、都内のパスポートセンターの目の前にある証明写真スタジオのスタッフで、今50代くらいの女性客の撮影が普通に終わったのだが、私は、先輩の様な店員らしい挨拶が出来なかった。それには、理由があった。毎日、流れ作業で多くの人の顔写真を撮っているが、この女性の顔がひどく気になった。勤めて間もないころは、いろいろなお客さんの表情やメイクや皺や髪形が、いちいち気になったりしていたが、もう2年もやると、ただたくさんの「顔」が目の前を通っていくだけにしか感じなくなって、特別に意識することなどなくなっていた。にもかかわらず、「あの女性はおかしい。変だ。」その女性がスタジオに入ってきた時,一瞬見ただけでそう思った。「間違いなく、彼女は整形をしている。その整形は美容のためじゃなく、何かを隠しているんだ。」 証明写真スタジオのスタッフとして、不謹慎極まりないことを、根拠なく感覚で思い込んだ。すぐに警察へ電話すべきか、私は誰にもその想いを話せないまま、地団駄を踏んだ。「早くしないと、あの女はどこかへ行ってしまう・・・」

 後半へ続く


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