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技術書典8の新刊を通販だけで頒布した人の赤裸々な収支報告

技術書典応援祭お疲れさまでした。自分は理由あって応援祭参加できなかったのですが、裏でBoothととらのあなでエア参加みたいなものを行っていました。本来は技術書典8は新刊を委託で参加予定でした。

あんまり同人誌のお金の話というのはあまり表に出てこない印象がありますが、自分的にはここはすごく大事だなと思いますし、技術書の場合お金の話を書いている人がちらほらいるので何らかの参考になればと思い書きました。

何を書いたか

『モザイク除去から学ぶ 最先端のディープラーニング』という薄い本を書きました。薄い本ながらA4・195ページという、全然薄くはない厚い本です(大抵の同人誌はA5かB5です。A4は面積比でB5の1.33倍、A5の2倍)。厚さだけで1cm、重量で700g前後ある大変重量感のある本です。

リアル即売会が中止に

みなさんご存知の通り、コロナが猛威を奮っており、その煽りで技術書展8は中止になってしまいました。そこで代替としてWEBで完結する応援祭を開催しようということだったのですが、契約上委託が受け付けられないという落とし穴があったのです。ここらへんの話は以前こちらの記事で書きました。

通販特有の頒価事情

リアルの即売会と異なり、通販だとどうしても手数料がかかってしまいます。例えば、通販で1000円の本が売れたとしても、作者には1000円振り込まれません。リアル即売会だとここがイコールになるので計算しやすいんですがね。

自分の場合はとらのあなとBoothで物理本と電子版の頒布を行いました。各プラットフォームの頒価と取り分は以下のようになります。

Boothの物理本+電子版:2400円が売れると2287円入る(113円は決済手数料と倉庫利用料)

Boothの電子版:1700円が売れると1638円入る(62円は決済手数料)

とらのあな:税別3000円が売れると2250円入る(併売75%の掛計算ですが、これは期間のキャンペーン仕様で普段はもっと低いです)

とらの値段設定は最初70%でそのあとキャンペーンがあって75%に上がったので、もう少し頒価を抑えられたかもしれないですね。掛80%キャンペーンも追加で行われましたが、登録日が2日早くて対象ではなかったようです残念。

Boothの場合は消費税はかかりません。なぜなら年間売上が1000万円以下なので消費税の支払い義務がないからです。

原価の部

本を作るのに最低限必要な、印刷代と振込手数料だけを計上したものがこちらです。

・初版(120部)印刷代:99,880円
・第2版(420部)印刷代:293,590円
・DLカード(500枚)印刷代:4,950円
・振込手数料:1,100円

原価合計:399,520円

実際はこの他に使うモノや費用(例えば今後の即売会で使う販促用のタブレットや運搬用の台車、計算用のサーバー代、在庫移動時の送料)が計上されるので、現時点の経費としては、ここに書いてある金額よりは現時点でもう10万強プラスになります。

頒布実績(4/5時点)

応援祭終了時点(4/5)の頒布実績は次の通りです。

・Booth物理本+電子版:87部
・Booth電子版:128部
・とらのあな:53部

合計:268部

通販だけでここまで行ったのはとても手応えを感じました。物理本と電子版に相乗効果があって、「物理本の発送が遅いけど電子版読んでる」みたいなバックアップができたのは意外でした。後にも書きますがお金よりもBooth倉庫の発送がとにかく遅いのが一番の問題になります。

売上の部(4/5時点)

さて皆さんが一番興味であるであろう売上について計算していきたいと思います。頒価から手数料を引いて計算します。

・Booth物理本+電子版:87部×2287円 = 198,969円
・Booth電子版:128部×1638円 = 209,664円
・とらのあな:53部×2250円 = 119,250円

売上合計:527,883円

売上ー最低限の原価合計(いわゆる利益):128, 363円

最低限の原価には計上されていない費用があるので、トータルで見れば現時点でトントンぐらいですかね。ただ、物理本が140部で損益分岐点超えてくるのはちょっと意外でした(もうちょいあとの方だと思ってた)。なんでこんなに増刷したのかについては後ほど。

増刷の理由

第2版を420部という強気の増刷をしてるところに、「あれ?」と思った方がおそらくいるのではないかと思います。この数値をもっと控えめにしたら黒字額は大きくなったはずです。この背景にはコロナが大きな影響があります。

・今後も即売会が中止になることが予想され、通販主体が長期間続くだろう

・そうなったときに100部単位でちまちま印刷するよりかは、仮にBoothの倉庫代を払ったとしてもどかっと印刷したほうが安い

・自家通販は事実上不可能。なぜなら30部でダンボール1個で20kgオーバー。300部印刷したら200kgの荷物を自宅に置くことになり家が崩壊する。長期間家を空けたときに注文が入ってくると対応できない。

・入荷作業にとにかく時間がかかる(入荷だけで1ヶ月かかる)ので、ちまちま印刷して購入者を待たせるんだったら、倉庫にありったけ在庫おいておいて、随時そこから買ってもらい、即売会のときに在庫を引き出すという形にしたほうがユーザーエクスペリエンスは高い。

・コミケの中止でBoothの倉庫の新規受け入れがストップする可能性を考えると、ちまちま印刷はもうやってられない

頒価について

以前「技術同人誌が2000円超えてくると気合入れて作らないといけない」と某イベントで中の人に伺ったことがあるのですが、2000円超えてたどころか3000円行ってもちゃんと作れば買ってくれるというのには手応えを感じました。正直なところ「シリーズ本で1000円の本×4」と「3000円の本1冊」だったら「後者のほうが安いでしょ?」と思うのですが、買う側にとっては前者のほうが買いやすいんですかね(人間って不思議)。

コアなファンの方は「5000円でもいいんじゃない?」とか言ってくることがあってそこまで評価していただいているのはありがたいのですが、データを見てると物理本でもとらよりBoothのほうが出ているので「遅くなってもいいから安い方がいい」というのが総意ではないかと思われます。もちろんこれは電子版をつけて遅延をバックアップした結果なので、物理版単独でこれが成立する保証はありません。

また、同一の本をプラットフォーム間で値段の差は影響しますが、そもそものベースの頒価を下げることはあまり意味がありません。なぜなら、1000円の本を500円にしたからといって売上が2倍にはならないからです。なので、この内容・分量だったらBoothぐらいの値段は適正ではないかなと感じています。

一番のネックはBooth倉庫の入荷作業

Boothは非常に良いシステムです。今回のコロナで知名度がぐんと上がってクリエーターにとってデファクトスタンダードとなるプラットフォームになることは間違いありません。現に電子版(DL版)だけでしたらもう十分な機能を備えています。

ただ、一番のデメリットは倉庫の入荷作業に要する時間です。Boothの時間がかかるポイントは、(1)本を倉庫に送る→入荷作業が完了する(ここが一番時間かかり入荷完了しないとそもそも発送されない)、(2)入荷完了している前提で→注文が発送される、という2つがあります。初版がつい先日発送されましたが、この2020年4月時点の実績では(1)が入荷作業開始が3/2→完了が3/30(約1ヶ月)、(2)が3/30完了→4/7発送(約1週間)というとてつもない期間を要します(コロナで需要殺到していることもありますが、今年の頭からこのぐらいの時間がかかったようです)。

また、初回入荷作業は送料とも関係していて、例えばゆうパケットのように送料400円で発送できるケースでも、初回入荷作業が完了しないと宅配便730円がかかってしまうということがおきます。これは購入者の利益になっていません。

またこの長期間要するのは著者にとってもかなりのデメリットがあります。いくつか出しましょう。

・同人誌、特に通販はそもそもリーチさせるのが難しい(「こんな本あったの知らなかった」というケースが多い)ので、人が集まっているタイミングで捌くのが重要になる。1ヶ月も間が空いてしまうとここの期間をロスしてしまう。期間が長期化することで余計な宣伝コストが発生してしまう。

・システム上、発送が完了して初めて売上が確定するので、売れてるのにキャッシュがないという状態になる(キャッシュフローの問題)。例えば、2月に印刷したのに発送が4月の場合は、振り込みが5月末になる。印刷代が40万近いとこれは大変厳しい。

なので、極端な話「高速入荷」みたいな課金をして入荷を即日終わらせるオプションがあったほうが全然良いということがおきます。倉庫チケットを消費してこういうことをするとかできないでしょうかね?(「結局課金かよ」って不公平感を生むからやらないのでしょうか?) 「倉庫で後からおまとめ」みたいな送料削減機能があるのに、入荷がボトルネックになって事実上機能が死んでるのがもったいないなと思います。

あるいは、荷物が到着した段階でゆうパケット発送可能かどうか判定してくれるとありがたいなと思います。遅れることに関しては「後から倉庫に入荷」で事前受注できるので。

発送の早さに関してはとらの完勝なので、「お急ぎの方はとらのあなをご利用ください」と特急券のようにアナウンスするのが現状できる精一杯のことかなという感じです。

もしかすると、ちまちま印刷+自家通販が正解だったのかもしれません(ただし自宅に100kg単位の荷物を置くのはものすごい気が引ける)

同人業界に必要なのは強い物流」という認識が広まればいいなー(でもここを最大化しようとするとAmazonに卸すとかの話になっちゃうんだよなー)。

これからが本番

ただちょっと懸念事項がありまして、旧版(電子版だけ)は1年スパンで見て直線的に部数が伸びていったのですが、あくまで数日スパンですが、今回は応援祭が終わったらパタッと勢いが落ちたんですよね。応援祭に出していないのにこれは「ん?」となりました。やはりいかにリーチさせるかポイント? 旧版の頒布データあたりから印刷部数を考えたので、この状態が続くようだとあんまりよくないかな思っています。早く即売会ができるようになってほしい。

人によって考え方が違うのでなんともいえませんが、自分の場合は似たような本をいっぱい出すのよりも一冊を大切にしていきたいスタンスなので、乱造ということはあまり考えたくないなと思います。乱造してしまうと「買ったのに1ページも読まない」「どれを買っていいかわからない」という焼き畑疑惑があってあまりやりたくないかなというのが現時点の感想です。冊数を増やすことにデメリットがあるのか、相乗効果があるのかはデータがないのでなんとも言えないところはあります。

ただ、これから今後の即売会も含めてゆっくり売れてくれればいいなーという気持ちで増刷したので、完全に勢いがストップしなければまぁ合格かなと思っています。著者が感想おしえてー!とか届いたら教えて!って言ってるのはこういう背景があったりします。二次的な宣伝効果が期待できるんですよね。

結論:即売会強すぎ

通販だけでやった感想ですが「即売会強すぎ」ということになりました。なぜなら、キャッシュは即金で回収できますし、発送コストや入荷期間も手渡しで無視できます。購入した人とその場で交流もできます。メリットだらけです。

よく中小企業の即売会が営業の場と言われるのですが、即売会の強みは営業だけではありません。クリエーターにとっても大きなメリットがあるのです。これを長期間行えないようにするのではないかと言っているオリンピックさん、何考えてるんですかね(どうせならコロナ対策の予算でもう1個展示場作ればいいのに)。

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