見出し画像

アラレ星の夜

紙芝居が終わって、お客さんもいなくなった黄昏時。
僕は握りしめた拳を頬に寄せて泣いていた。

「どうしたんだい?」
「…ぐすん」
「そうかい…まあ、泣きたくなる日もあるさぁな」

そう言って屋台を片付けたお爺ちゃんはポケットから袋を一つ取ってみせた。

「いいかい…あの一番星は瞬きする間もないくらい早いくせに、気の遠くなる歳月を超えてわしらを見つけてくれたんじゃよ」

目深に被った帽子を外して、お爺ちゃんは空を見上げる。
潤んだ瞳は、太陽から光を貰った月のように輝いていた。

「さあ、手をお出し」

そっと差し伸べると、色とりどりのアラレを、手に振りかけてくれた。
僕は星のようなアラレをゆっくりと吸い込む。
すると、べろの上を擦れる触感がざらざらと合わさって、とても甘く、しょっぱかった。

今、お爺ちゃんはいない。
一番星を探しながら、アラレを手に僕は今日も、あのお芝居の続きを書いていた。