モグラの鳴いた夏
深く、深くもぐる。
わっちは腹がへった。
もう長いこと掘り続けとるが、好物のミミズには当たらん。土ん中とは慣れ親しんでおったが生まれてこの方、暗闇ん中で生きちょる。
わっちに名はない。
覚えとるんは、13匹いた兄弟の7番目に生まれた事じゃ。
わっちの一家は揃いも揃って芸術家気質の人間嫌いじゃった。そしてどこの家よりも食いしん坊じゃ。
わっちは寂しかった。
この広い暗闇ん中で一人くらいはわっちを好いてくれるお方がおるやも知れん。
にしても、腹がへったのう。
さっきから下腹が鳴りっぱなしじゃ。
かんかん照りの太陽は、季節が夏である事を伝えていた。縁側で、猫が伸び縮みするアコルディオンのように背中を曲げて爪を伸ばす。
今朝も源六爺さんが、ジョウロを片手に植木に水をかけていた。水をかけながらふと、キュウリを植えた畑のほうに目がいく。
モグラ共にはいつも悩まされておる。
こたび、罠を仕掛けてきゃつらめに復讐してやらねば。