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【こうせいの馬体講座】~距離適性編~

 こんばんは、こうせいです。

 今週から2週にわたり、オークス・日本ダービーと世代の頂点を決するビッグレースが行われます。そこで最大のポイントとなるのが、東京2400 mという舞台。基本的に距離延長での臨戦且つ、初の2400 mという馬も多くなるため、当然ながら距離の壁に泣くような馬も出てきます。

 そこで今回は、『こうせいの馬体講座』と題して、競走馬の距離適性について自分の意見を述べていきたいと思います。どのような馬が距離延長を苦にしてしまうのか、はたまた得意とするのかに関して、馬体を勉強してきた身として、少しでも参考にしてくださると嬉しい限りです。

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 結論から話すと、私は以下の2点に注目して競走馬の距離適性を判断しています。(馬体的な観点のみの話になります。)

➀ ストライドの広がり(カラダの柔軟性)
② 道中でのタメが利く走り

 では、それぞれの項目について詳しく説明していきます。


1. ストライドの広がり(カラダの柔軟性)


1-1. 脚が長いとストライドが広がりやすい

 大方イメージは付くかと思いますが、この理論を説明するにあたり、まず人類における長距離戦であるマラソンを思い浮かべてみましょう。皆さんは以下のようなことを感じたことはありませんか?

 どうしてマラソンは、ケニアやエチオピアといったアフリカ勢の選手が強いのか

 マラソン=スタミナ勝負だから、心肺機能が優れている。このように考えた方も多いと思います。勿論、この要素も多少ないし影響しているとは思いますが、私は、『アフリカ勢の選手は脚が長い』という理由が大きく起因していると考えています。

 新春に行われる箱根駅伝で留学生がごぼう抜きをしていくシーンを見ると分かりやすいと思いますが、1完歩がまるで違います。それだけ脚が長ければストライドが広がりやすく、有酸素運動におけるエネルギー消費を抑えることに繋がるため、長い距離でもペースが衰えないまま走り切ることが可能になります。そして、これは馬にもリンクする内容になります。長距離ではストライド型がいいよ!!と浸透しているくらいですし。

 では、ストライドが広がる馬とはどのような馬なのか。『脚が長い馬を選べばいいのではないか!!』と言われればそうですが、ただ単に脚が長いというポイントを強調するだけでは芸が無いので、ここでは、私がパドックにおけるストライドの広がりのポイントとして意識していることを紹介します。


1-2. パドックでストライドの広さを見抜く方法

 サンプルとしてキタサンブラックをピックアップします。母父サクラバクシンオーで長距離で結果を残すことは無理だろうと言われていたキタサンブラック。当時、馬体のばの字も知らなった私も、この派閥に属していました。

 しかし蓋を開けてみれば、菊花賞での初GⅠ制覇に加えて天皇賞(春)連覇と3000 m以上の長距離戦で3戦全勝。なぜ長距離で強かったのか。その理由はパドックに隠されていました

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 上記の写真は2017年天皇賞(春)(1着)時のパドックにおけるワンシーンになります。是非、パドック動画を見ながら照らし合わせていただけたると分かりやすいかと思いますが、静止画においても分かりやすい注目ポイントがいくつかあるので、以下の画像にご注目ください。

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 キタサンブラックが長距離戦で強かったポイントとしては、主に以下の2つになります。

【キタサンブラックの長距離戦での強さの秘密】
➀ トモ(黄丸)の筋肉が流動的
(ガチっとしておらず餅のような伸縮性(弾力性)がある)
② 飛節(緑丸)が伸びる

 ①と②を簡単にまとめると、長距離戦で強い馬を見つけるためには、カラダ全身の柔らかさを示す指標に矛先を向けるべきであるということです。

 以下の図に、①と②がもたらす効果を青矢印と赤線で示しました。筋肉が柔らかく飛節が伸びることによってカラダを最大限まで伸ばし切ることに成功するため、必然的にストライドが広がりやすく、完歩(赤線)も大きくなります。これにより、馬において究極レベルに効率が良い有酸素運動が叶うわけです。

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 ちなみに、19年の菊花賞と今年の天皇賞(春)を制覇し、長距離GⅠ2勝を挙げているワールドプレミアも、パドックでキタサンブラックに引けを取らない動きが出来ている馬になります。上述した2点に注目しながら2頭の歩きを見比べてくださると、非常に似ていることがお分かりかと思いますので、是非確認してみてください。(厳密に言うと、ワールドプレミアにはキタサンブラック程の筋収縮機能が備わっていないため、スピード面では劣ってしまいます。=中距離戦ではスピード負けしやすい。)

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 反対に、長距離でストライドを広げられなくなる馬も存在します。分かりやすい例が、2020年オークスで3番人気に支持されながらも15着に大敗したクラヴァシュドールになります。

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 桜花賞4着からの参戦。絶好枠を奪取した上にハーツクライ産駒で距離が伸びて良くなるだろう!!と思われた方も多いと思います。しかし、当時の私は、この馬が距離が伸びて良くなるとは微塵も思いませんでした。その根拠が、長距離戦でストライドが広がらない要素を完全に満たしていたからになります。

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【クラヴァシュドール長距離凡走理由】
➀ トモ(黄丸)の筋肉が密(ガッチリして柔軟性に欠ける)
② 飛節(緑丸)が伸びない

 まさに、キタサンブラックとは真逆のカラダの使い方になるので、長距離で弱さを見せるタイプの馬に該当します。全身が硬いので、カラダを伸ばし切ることができず、完歩が広がりません。こじんまりとした動きになっているので、ストライドを広げようとしてもエネルギーロスが大きくなり、速く走ることができない馬体です。これも、動画で見た方がより顕著に差が出てることを確認できると思います。

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 ちなみに、菊花賞2着で当時無敗のコントレイルに最も迫ったアリストテレスも、飛節が伸びず、全身が硬いタイプにカテゴリーされるため、長距離ではストライドが広がらない馬体をしています。以下の画像のように、カラダを伸ばし切れません。天皇賞(春)4着後にルメールJも、『2400 mがベストで3200 mは長い』とコメントしているように、ルメールJがリラックスさせながら完璧に立ち回りながらも、近いポジションで進めたワールドプレミアには離されてしまったので、距離の壁を否定できない内容でした。

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 このように、長距離戦においてストライドが広がることの優位性について述べてきましたが、ここで1つ疑問が浮かび上がります。

 ストライドを広げられる馬(≒ストライド型)全てが長距離戦で強いのか?

 結論から話しましょう。答えはNoです。冒頭で、長距離戦=マラソンと例えた前提で話を進めてきましたが、厳密に言うとイコールで結びつけることはできません。これは、マラソンと競馬ではレース質が違うということが最大のポイントになっています。

 マラソンでは一定のペースを刻みながら42 km(長距離)を走るのに対し、競馬は前半ジョギングのようなペースで走り、後半からペースが上げていくというレースが多いように、競技種目としてギャップがあります。これに伴い、事実ストライド型でも長距離を走れない馬も存在します。例として挙げるのがキセキです。

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 ご覧のように、キセキは、先程提示した長距離戦で強さを発揮する(ストライドが伸びる)動き(歩様)をパドックで見せています

 キセキは17年に極悪馬場の中で行われた菊花賞を勝利。それ以来勝利から遠ざかっているキセキは、2020年の春は阪神大賞典→天皇賞(春)の長距離戦に挑戦します。菊花賞制覇を受けて長距離が良い!!と陣営も判断し、多くの競馬ファンも期待したことでしょう。

 しかし、阪神大賞典は大出遅れのロスはありながらも、1.6倍の断然人気を裏切る7着。天皇賞(春)は、課題のスタートをクリアし、逃げて押し切るか!?という流れだったものの、直線では力尽き6着(3番人気)。2戦共通して、メンバー比較でも、十分勝ち負け争いに加わるだけの地力を持っているにも関わらずこの結果に終わってしまったので、本質的に長距離戦が向いていなかったと判断できます。

 このように、ストライドを広げられるという要素は、長距離を走るための十分条件であるとは言い切れないということを表しています。大まかに言うと、もっと踏み込む必要性があります。勿論ストライドを広げられることに越したことはないですが、ストライドを広げられる下地が無い(脚が短い、ピッチ走法等)という馬でも長距離で好勝負出来る馬はいます。そのカラクリとして影響している要素が、次章で説明する『道中でのタメが利く走りができる』ということになります。


2. 道中でのタメが利く走り

『競走馬の距離適性は道中での走りで決まる』

 私はこのような持論があります。短距離的なスピードタイプの馬でも、ある条件さえクリアできれば、中距離・長距離へと距離を伸ばしても大丈夫という考えを持っています。むしろ、施行距離よりも高いスピードを持つ武器を活かし、決め手の高さで押し切れる期待が高まるので、有利に働きやすいでしょう。

 しかし、1200 mを走る馬がいきなり大幅距離延長で結果を残すケースが圧倒的に少ないように、実際問題こう上手くはいきません。日本競馬の場合、ヒエラルキーのトップに君臨するのが主要四場(東京・中山・阪神・京都)の1600 m・2000 m・2400 mである以上、1200 mの地位は低く、生産側も育成に重きを置いていない距離になります。つまり、1200 mを走る馬の中には、『元々中距離を使いたかったが、何らかの問題があるから1200 mを使わざるを得ない』というパターンで臨戦してくる馬もいます。この何らかの問題こそ、道中の走りが大きく影響する時が多いです。前述したキセキも、距離は違えど、道中の走りに致命的な欠陥が生じていることが影響して長距離で好走することができません。

 前置きが長くなりましたが、私は距離適性を判断する上で、道中の走りに重きを置き、『タメが利く走りが出来ているのか』に注目しています。抽象的で分かりにくい方は、『リラックスして走れているのか』と解釈してくだされば良いかと思います(この表現でも曖昧さが払拭されないのが、馬体をロジカルに捉えることの難しさです。許してください。)。

 では、具体的にどこで判断しているのか。ポイントを以下に示します。

【タメが利く走りを見抜くポイント】
① 折り合い(気性)
➁ 力まずゆっくりとカラダ全身を収縮できる動き


2-1. 折り合い(気性)

 長距離戦において皆が口にすることであるので、今更強調はしませんが大事な要素です。距離が長くなる程追走スピードが求められにくく、ジョギングのペースで走る時間が長くなるため、そこで我慢できないと最後のノビの悪さに繋がってしまいます。折り合いを欠きやすい馬が次走距離短縮ローテで一変しやすいのも、追走ペースが上がることに加えて我慢の時間も短くなるので、馬自身のストレスも小さくなることが影響していると考えてよいでしょう。

 折り合いを欠きやすい馬の特徴としては、主に気性に問題があることが多いです。特に牝馬は、気性の悪さと馬格の無さ(極端に馬体重が軽くなりやすい)が密接の関係してくることもあります。体重管理も難しく、繊細な面が強いため、小柄馬(基本的に450 kg以下)が馬体重減でオークスに出走してくる場合は、割引要素になると私は判断しています(厳密に言うと、パドックで様子を確認してから決断しています。)。

 逆に、距離延長でも難なくこなせる馬は、気性的な不安が少ない馬が多いです。例として、19年スプリングSで2着に入ったファンタジスト(1人気4.8倍)をピックアップします。

 小倉2歳S、京王杯2歳Sと短距離重賞2連勝から、マイルの朝日杯FSで4着。そこからの臨戦となり、朝日杯の敗戦を受けて距離不安を抱いていた方も多くいた印象をオッズから感じました。しかし、ファンタジストは気性が非常に素直で、鞍上の指示通りに道中走れるタイプの馬であるので、距離延長を苦にしないタイプに該当します。距離延長で勝利した京王杯SCも、前半600 m38.0のドスローで進んだ中でも暴走することなく折り合いが付いていたので、終いに鋭い決め手を発揮。距離をこなせる下地はこのレースからも推測できました。

 気性に関しては、次章で述べる『カラダ全身を力まず伸ばし切れる時間の長さ』においての "力まない" というポイントで重要な支えとなってきます。比較的目を付けやすい要素でもありますので、まずはそちらの方から意識して見ていくことをオススメします。


2-2. 力まずゆっくりとカラダ全身を伸縮できる動き

 こちらの方は少し上級者向けのテクニックになりますが、見極められるようになると、長距離戦攻略が近づいていきます。

 単純に言うとカラダの柔らかさに当たり、エネルギーロスを抑える走りに繋がる要素となります。これに関連して、1章で『ストライドを広げられる下地が無い(脚が短い、ピッチ走法等)という馬でも長距離で好勝負出来る馬はいる』と言及しましたが、この章で説明する内容が完璧に出来る馬こそ、現代競馬の長距離戦で強い馬、言わばトレンド長距離馬にカテゴリーされます。

 現代競馬は、馬場が軽くなりスピード指向が強くなっているため、スタミナ自慢が長距離で強い!!という考えは時代遅れ。私がこれまで距離適性の話で、スタミナの絶対値に関して一切言及していないのは、上述した背景が大きいです。そもそも、根本的な体力比べになるレースは、極悪馬場で行われない限り発生しないと言っても過言ではありません。長距離戦だろうが、最終的には直線でのスピード比べになります。

 その象徴として活躍したステイヤーこそフィエールマンです。菊花賞と天皇賞(春)連覇の長距離GⅠ3勝を挙げましたが、近代長距離界の天才と個人的に表現していました。道中でのタメが利く走りが完璧にできるため、直線でもストライドを伸ばすことができ、長距離でも躍動感溢れるダイナミックな走りが可能となっています。

 フィエールマンの馬体を詳しく見ていきましょう。画像では分かりにくいかもしれませんが、フィエールマンは脚や胴が短めであるため、長距離戦でストライドを広げられる下地が無いタイプに該当します。脚と胴が長いストライド型のキセキと比較すると、馬格の差はより顕著に見受けられるでしょう。

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 それでも、カラダの使い方一つで距離適性が大きく変わってしまうのが競馬の奥深いところ。キセキが追走時に力みながら伸縮運動を強いられてしまうのに対し、ゆったり脱力しているかのような動きでカラダを伸縮できるフィエールマンとでは、運動効率(エネルギー消費量)に決定的な差が生じています。ここからは動画を用いながら説明する必要があるので、今回はここで終了というカタチをとりますが、そこに意識しながら天皇賞(春)の道中を注目してレースを見返してくださると嬉しいです。

 ちなみに、1章で長距離戦で強い馬として紹介したキタサンブラックワールドプレミアもここで紹介した道中リラックスした走りが出来る馬に該当しています。このように、道中でのタメが利く走りが見抜けるようになると、より精度が高い競走馬の距離適性を導くことができます

 しかし、この見方の欠点としては、個人によって見方が変わってしまう可能性が大きくなってしまうことです。最終的には感覚に委ねるしかありません。いくらロジカルで掘り下げても、結局フィーリングに頼らざるを得ないです。私としても、ポイントに注目しながら多くの馬を見て感性を磨いてください!!としか言い様が無いので、身に付けるには時間を要することが想定されます。それでも、数をこなしていくうちに分かるようになっていくことは保証します。私がそうでした。地道ではありますが、未来の勝利に向けて取り敢えず実践してみて欲しいということが、私の願いです。

 

3. まとめ

【長距離戦攻略法】
Step1. パドックでストライドを広げられる要素に該当する馬を見つける
・トモと飛節に注目
・これに該当しても、距離をこなせない馬もいる
→ その場合はStep2へ

Step2. 気性とリラックス走法から道中タメを利かせられるか判断
・関節や筋肉が硬い(可動域が狭い)馬・道中で我慢が利かない馬
→ 直ぐにカラダを収縮しようとする傾向があるため、ストライドを広げられない=長距離戦で脆さを見せやすい

 長距離で強い馬の必要条件としてStep2を満たしていることが多く、精度は高い
 しかし、人によって見方は大きく差が生じるため、多くの馬に触れながら感覚を磨いていくしか方法がない(時間を要する)


4. Epilogue

 いかがでしたでしょうか。馬体に関する話は、普段馴染みのない方からするとイメージしにくかったかと思いますが、このような目線でも競馬を分析することができるよ、ということが伝わっていただけると何よりです。長距離=スタミナの絶対値で決まるものではないという考えには、驚かれた方も多いのではないでしょうか。

 私自身、馬体を勉強する前は長距離戦=スタミナ勝負という考えを持っていました。ただ、この考えを改めるきっかけになったのも、そして私が馬体を勉強するようになったのも、Twitterを通して知り合った相馬眼japanさんの影響が大きいです。我々の一歩先を行く競馬の見方。当時の私(無論今もそうですが)は、強い憧れを抱いていました。そして、中でも刺激に感じた内容こそ、相馬眼japan流馬体論です。

 私の馬体の見方は、相馬眼japanさんのルーツに基づいて考えていることが多いです。現在は本人の都合によりTwitterでの活動が出来ていないですが、代わりと言っては力不足でも、少しでも多くの人に馬体の奥深さを知ってもらいたい、相馬眼japanさんの偉大さを知って欲しいという思いのもとで文字起こしをしました。勿論、自分は相馬眼japanさんではないため、理論のズレは生じてしまいますが、私に新たな視野を与えてくださった感謝をこの場を借りて申し上げたいと思います。ありがとうございました。そして、またいつか競馬界に戻ってくださることを楽しみに待っております。

 最後になりましたが、オークス・日本ダービーと世代の頂点を決する戦いが幕を開けます。私自身も、自分の持てる力を存分に発揮して予想していこうと思います。好きな馬を応援するなり、馬券を当てたいなり、人それぞれ楽しみ方があると思いますので、最高の2週間になることを願っております。

 ここまでお付き合いいただきありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。


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