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いちごおばちゃん

近藤です。

昨日、私の住んでいる街から1時間ほどの場所へ出かけました。同じ愛媛県ですが、気候は東西に長いためずいぶん違います。帰りの高速道路では春の湿った重たい雪が横殴りに降り、山はあっという間に真っ白に。しかし、我が家に近付くにつれその雪は水分が増し、溶けかけのかき氷のようになっていました。春が近くなると最後にこんな雪が降る山の我が家です。

その山の我が家から少し行くと果物がおいしいマルシェがあります。愛媛なので柑橘が季節とともに移り変わっていき、今は「甘平(かんぺい)」や「たまみ」という種類がたくさん出てきました。そして、イチゴも。ほぼ週替わりでイチゴの種類が変わるのです。が、名前がなかなか覚えられません。さちのかや紅い雫、あまおうなどはスーパーでもよく見かけますが「あすか」はこのマルシェで初めて知りました。

さて、そのいちご。「いちごおばちゃん」という子どもたちに大人気の叔母がいました。

本当の名前は「いちこ」さんなのですが、春になってイチゴが出てくると子どもたちのためにテクテク歩いてイチゴを持ってきてくれるのです。夫の叔母なのですが、結婚したばかりの頃は近所に住んでいたので近藤の母の代わりに色々と教えてくれました。

結婚したての頃、「いちごおばちゃん」が事前に私のことをご近所さんに紹介してくれており、道で誰かに会うたびに「近藤さんちのお嫁さんねー」とあっという間に皆さんとお知り合いになる事ができました。

庭木の消毒に庭師さんが来た時、私はうっかりして洗濯物を干して出かけていました。すると「いちごおばちゃん」宅に連絡が行き、我が家の洗濯物は全ておばちゃんのお家の物干しへ移動していた事がありました。(ヨレヨレのパジャマがかかっていたのを見た時は顔から火が出そうでしたが)

赤ちゃんが生まれると「いちごおばちゃん」が朝からお友達と訪ねてきてくれて、御近所がみんな「いちごおばちゃん」のような存在になっていき、子育てが楽でした。自治会の卓球やカラオケに連れて行って遊んでもらったこともありましたっけ。

叔母はとても小さかった私の娘が「いちごすきなんよ」と言ったその言葉をずっと覚えてくれていて、春になると「ほら、いちごおばちゃんがイチゴを持ってきたよ」とニコニコ何度も顔を見せてくれました。引っ越して少し遠くなっても「ついでがあったからね、イチゴ持ってきたよ」とテクテク来てくれました。

子どもたちも白い髪のいちごおばちゃんがやってくると「いちごおばちゃんってお話に出てくる魔法使いみたいね」なんてこっそり言ったりして。

近所のバス停で立っている叔母を見つけると「おばちゃん、乗っていく?」とナンパして町まで降りていきながらするおしゃべりが楽しかったなあ、なんて思い出したりするのはやっぱりイチゴの季節。

ですから小柄な白髪の女性がバス停にいると、今はもう会えないにもかかわらず「あ、おばちゃんかも」と思って車のブレーキを軽く踏んでしまうのです。

春になるといちごおばちゃんはいちご売り場に潜んでいて、耳元で「いちご持ってきたよ」と囁いて私にいちごを買わせているのかも知れません。「子どもたちに食べさせてやってね」って。

では、また。