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おにぎりくん

息子が学校の授業で絵本を作ってきた。「おにぎりくん」という題名である。

おにぎりくんが坂道で遊んでいたらつるっと滑って穴に落ち、蛇に助けてもらうという話である。ひねりも何にもない素直な絵本だなあと思う。そんなひねりのなさがかなり気に入った私は何度もこの絵本を読んでいる次第である。

おにぎりくんはおもちゃがなくても坂道を転がるだけで楽しいと思っている。穴に落ちてずいぶん泣いている時に蛇が現れてもちっとも怖がらず、「きみはだれ?」とたずね、「ぼくはへび。ここからだしてあげるよ」と言われたら「ありがとう」と機嫌よく助けてもらう。大したことないようだが気持ちいい子だなあと思うのである。

実際これを書いた息子はとっても気のいい奴なのだが、おにぎりくんほど無防備ではない。家族の誰よりも危機意識が高い。がさっと音がしたらサルかイノシシがいるんじゃないか、と警戒する。飛行機に乗ればご搭乗のしおりは必ず読む。幼稚園の頃アメリカへ連れて行ったが、7度飛行機に乗って7度ご搭乗のしおりを見て、7度緊急避難のビデオを最初から最後まできっちり観た。

この危機意識の高さは小さい時から愛読している「スパイ学」の本のせいだと思う。スパイの基本(らしいのだが)として気配を消すことなども得意としている彼なので穴に落ちても誰も気がついてくれない可能性も高い。だから自分で身を守るためにもいろんなことにアンテナを張り巡らせているので頼りになるが、そのぶん疲れるのだろう。車の中では大抵爆睡している。これでは命を狙われていても気がつかないうちにこの世から去ることになるのでは、と心配になる。

大体どこのお母さんも会えば「息子が朝起きない」とぼやく。起こすだけで1日のエネルギーを使い果たすよね、と互いに共感する。もちろん我が家もそうなので早く寝ればいいじゃないのと思っていたのだが、実は違うんだろう。最近はアンテナを張り巡らしているからエネルギーの消費量がすごいのかもしれないと考えるようになった。

本当のところはわからないが、どれだけ甘いものを食べても、夜どんなに早く寝ても朝はぐずぐずとし、なかなか起きない息子。私が思っている以上にこの世界は色々と複雑なのだろう。寝て元気を溜めないとやっていけないのかもしれない。そう思うと坂道を転がって穴に落ちてもとにかくまずは寝てから考えておくれと言いたくなる。

これを書いている側で彼はスパイ学の本を読んでいる。息子よ、おにぎりくんの素直さと愛嬌、そしてスパイのような抜け目のなさでこの世を生きていくのだ。次回の作品は誰が助けてくれるのだろう、とても楽しみである。

では、また。ごきげんよう。