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今さらながら ブルーアーカイブ エデン条約編・第4章前編 当時の考察

 エデン条約がまた盛り上がっているようなので、エデン条約編 第4章 前編更新時(2022年6月上旬)に考察した内容をここに置いてきます。


ベアトリーチェのテクストを読み解き、四章におけるエデン条約の真の意味とは何か探る考察


 ブルーアーカイブ エデン条約編でアリウスを裏から操る人物として深く関わるゲマトリアのベアトリーチェ。
ゴルコンダ曰く、他のゲマトリアの名前や姿のテクストには意味があるという事なので、今回ベアトリーチェを四つの観点から読み解く事で何をしようとしているかを探ることにします。

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「ベアトリーチェ」

 まず初めに「ベアトリーチェ」という名前はダンテによって描かれた「神曲」に登場する女性を指している思われます。

彼女はダンテが幼少の頃に出会い心引かれた少女の名でした。ベアトに恋焦がれるダンテだが、ベアトは他の男性と結婚をするも24歳という若さで死去してしまいます。

そしてダンテは「神曲」に描かれているベアトリーチェを「永遠の淑女」「久遠の女性」「天上と地上を結ぶ愛の導き手」などと象徴化したとも考えられています。


 なのでブルーアーカイブにおけるベアトリーチェはこれらのテクストを込められた名前として使っているものと思われます。

アリウスの生徒からの呼称として既婚者を示すマダムと呼ばれているのはこの為でしょう。 (フランスの行政文書では2012年以来、マドモワゼルは廃止され、女性全般に対しマダムを使うようになった)


「すべての巡礼者の幻想」

4章 第1話 プロローグ

 ベアトリーチェは自身を「すべての巡礼者の幻想」であるベアトリーチェ、と呼称しています。

 巡礼とは日常空間から非日常空間に入り聖なるものに近づき接近・接触し「神との繋がり」を再認識し信仰を強化する宗教的行動を指し示します。
そして幻想とは現実にはない出来事をあたかもあるかのように、思い描くこと。また、その想念。

 これらを意訳するならば、「神を信じる者にとって聖なるモノであり信仰の対象であるベアトリーチェ」と、自身を神格化していると読み解く事が出来ます。


「容姿」

4章 第5話 不可解な探究者

 ベアトリーチェの姿は背が高く赤い肌を持ち、白いドレスを纏った大人です。 大人という記号は先ほど書いた神曲における「永遠の淑女」を表しているのでしょう。

 ベアトリーチェが纏う赤い肌と白いドレスをキリスト教の扱いに照らし合わせると、赤はキリスト教においてイエス・キリストが流した血の色を表し、ローマカトリックの枢機卿や法王が着る典礼服は白を基調としており、その中で典礼色の一つである赤はイエス・キリストの信仰のために死んでいった殉教者たちの血の色を象徴としていると考えられています。

また赤色は太陽神や皇帝を結びつけ権威の象徴としても扱われる色です。

 ベアトリーチェの赤い肌が殉教者の血で染め上がったと考えたならばどれほどの犠牲の上に積み上げられた権威でしょうか。


「ステンドグラス」

4章 第6話 折れてしまった羽

 最も重要と思われるのがアリウス・バシリカに存在する至聖所に不吉なモノとして、後ろ髪を靡かせ細い腰のクビレと頭部が開いた形からベアトリーチェの姿のような物が描かれたステンドグラスです。

バシリカとはローマ帝国内に広まっていた建築様式を用いて作られた教会堂で一番奥には祭壇が作られています。

ステンドグラスは字が読めない人々のために神の教えの物語を表すために作られたとされていますので、これらもやはりベアトリーチェ神格化の一部と考えられます。

そしてこのベアトリーチェのステンドグラス姿に酷似しているのがナツメヤシという植物です。

(邦訳された中で度々ナツメヤシを棕櫚と表記されているが、棕櫚は日本の温帯地域で古来より親しまれた唯一のヤシ科植物であったため、同語ゆえの誤訳とされている。)

 ナツメヤシは紀元前より各地に広まっており神秘的象徴として数多く描かれており、多産・豊穣・王権の永劫・神の威厳・不死性・死の克服・死後の永遠性・勝利、など数多くの意味を有しています。

その中で最も有名なものがアダムとイヴが追放された楽園に存在する生命の樹がナツメヤシと言われています。

以下三つの引用をさせていただきます。

 キリスト教では受難を前にしたイエスのエルサレム入場のときに民衆がナツメヤシの葉を道に敷いて、または手に持って迎え、「ホサナ(万歳)」と叫んだという故事から、この日を「枝の主日」と称し、この日にはナツメヤシの葉を手に持つことになっている。これは、その後カルヴァリーの丘で磔刑に処せられたキリストの復活を予示するものであった。すなわち、ここでのナツメヤシの葉は「死からの救済の象徴」であり、死の克服の象徴であった。殉教者には魂が消えうせる前に天使がナツメヤシの葉を持ってくるとして、殉教を表し、カタコンベの浮き彫り装飾などによく描かれた。そして終末の日に救済されキリストの前に立つ人々はナツメヤシの葉を手にするといわれる。(ヨハネの黙示録第七章)

金沢大学考古学紀要 ナツメヤシの図像と意味

 キリスト教において中世には聖地巡礼を果たした徴としてナツメヤシの一葉を持ち帰ったという、ここから巡礼者は「椰子を持つ人」と呼ばれる。おそらく巡礼によって神の国への生まれ変わりが約束された事を表していたのだろう。

金沢大学考古学紀要 ナツメヤシの図像と意味

 『旧約聖書』「創世記」の楽園物語によれば、神によって創造された最初の人間アダムとイブが初めに置かれていたエデンの園の中央には、知恵の樹(善悪を知る樹)と並んで生命の樹が植えられていた。ところが、禁断の知恵の樹の実を食べたアダムとイブは楽園から追放され、生命の樹は、もはや人間が近づくことのないようにと、神によって剣と炎で守られた。それは、生命の樹の実を食べる者は永遠に生きるからだ、という。

コトバンク『生命の樹』


 人類が楽園から追放される事になったのは、遥か太古に結ばれた神とアダム(人類)の間に結ばれたエデン契約(けいやく)を破ってしまった事に起因します。

エデン契約とは旧約聖書の中で描かれる神と結んだ八つの神学的契約
①エデン契約
②アダム契約
③ノア契約
④アブラハム契約
⑤モーセ契約
⑥土地の契約
⑦ダビデ契約
⑧新しい契約

の八つの内の一つです、その中でエデン契約はいくつかの条項があると考えられます。

エデン契約の条項
(1)第一の条項 生めよ。増えよ。地を満たせ。 *創世記1:28a
(2)第二の条項 地を支配せよ。 *創世記1:28b
(3)第三の条項 すべての生き物を支配せよ。 *創1:28c
(4)第四の条項 人の食生活に関して。 *創1:29~30;2:1
(5)第五の条項 エデンの園を守り、整えるようにとの指示。 *創世記2:15
(6)第六の条項 人は、善悪の知識の木から食べることを禁じられた。 *創2:17a
(7)第七の条項 不従順に対する罰は死。 創2:17b

エデン契約条項

 契約のタイプには二種類存在しており、一つは条件付契約で、これは「もしあなたが~するなら」という形式で条件をつけた契約です。

 もう一つは無条件契約で、これは神が一方的に宣言する形式で、「わたしは~するという」形式になります。

 これによりエデンにおける神との約束事、神とアダム(人類)の間に結ばれたエデン契約(けいやく)を破ってしまったがためにアダムとイヴと全人類は、原罪と霊的な死を背負って楽園を追放されました。
(第七項に書かれている死は霊的な死を示し、霊的な死とは神との関係が絶ち切れた事を示します。)



考察と予想

 以上四つのテクストを読み解いた私の考察として、四章におけるエデン条約とはトリニティとゲヘナの間で結ばれる平和条約ではなく、神と人とが太古に結んだエデン契約を巡る物語なのではないでしょうか。

3章 第10話 甘い嘘
3章 第10話 甘い嘘


 ベアトリーチェはアツコを生贄の儀式に使い、自身を神格化し生命の樹と同一化を図り、ヘイローを持たない者が神秘の存在に触れ神に成る事で世界を観測しうる立場へと昇華する。

「天上と地上を結ぶ愛の導き手」ベアトリーチェとして天より追い出された人類を、生命の樹から生み出される生命の実を分け与え、原罪を負いし人類の霊的な死から復活を果たし死の克服を成し、自身が支配するアリウスの領地を楽園に染め上げる。

領地で力を得たアリウスの生徒はその力を制御できずに暴走状態となり襲ってくるのかもしれません。

 ここで鍵となるのがベアトリーチェと契約を結んだアツコの存在です。

3章 第10話 甘い嘘

 太古におけるエデン契約は人が破ってしまったがために楽園を追放されたました。しかしこの契約をベアトリーチェが破ったとしたらベアトリーチェをキヴォトスからの追放という結果を得られるのではないでしょうか。


 しかし知恵の実を食べてしまったアダムとイヴにはもう一つの罪がありました。

それは知恵の実を食べてしまった事を神に言い訳するように、アダムはイヴに、イヴはヘビに責任転嫁をした罪です。

自身の行いを悔いるもその責任をサオリに押し付けてしまったミカもまた、エデン契約において楽園を追放された責任転嫁という同じ罪で、自身の世界の中心であるトリニティから追放されねばならなくなってしまったと考えます。

罪に向き合えないミカは今後どうなっていくのか私には分かりません。


1章 第1話 プロローグ

 思えばエデン条約編は1章から七つの古則を引用し、「楽園」という言葉が繰り返し使われてきました。

3章 第10話 甘い嘘
3章 第10話 甘い嘘

 そしてセイア曰く、キヴォトスの住人は追放された者たちであると話しています。

1章 第1話 プロローグ

 ベアトリーチェが行おうとしているのは、楽園にのみ存在する生命の樹を呼び出す事で楽園の存在を証明する。五つ目の古則の答えの一つとなりうるのではないでしょうか。

3章 第15話 五つ目の古則への答え

 もし真に楽園への扉が開かれたとしたならば、ミカやサオリ、キヴォトスに住む生徒たちは楽園へと旅立とうと思うのでしょうか?


 以上により考察の締めとさせていただいて、今後もこのブルーアーカイブという物語を観測し考察して目一杯楽しんでいこうと思います。

追加の考察URL:https://note.com/koroux/n/nb9aa2b31b093