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雨の功名(737文字)

シンガポールのチャイナタウンを歩いていた時、スコールに降られて部品屋さんの軒下で雨宿りをしたことがあった。

南国のスコールは、急に激しく雨が降って、程なくして雨雲は去っていく。それまでの少しの時間、店先の屋根の下にお邪魔した。

通りを挟んだ向こう側には扇風機屋さんが、道路脇で裸のままの中古の扇風機を並べていた。扇風機は突然の雨になすすべもなく、びしょ濡れになっていた。

その隣にはやかん屋さん。同じく路上に中古のやかんを並べている。中には蓋のないものもあり、雨水がやかんの中に溜まっていく。

そんな風景を眺めていると、すぐ隣りのお店から、スタッフが店の入り口に置いているウェルカムマットを持って外に出てきた。激しい雨の中、道端にマットを置くと、洗剤を振りかけてデッキブラシでゴシゴシと洗い始めた。みるみるうちにマットは泡だらけになった。もちろんその人もマットも雨に打たれながらの作業だ。そうして一通り擦り終わると、そのままデッキブラシを持って店内に戻って行った。

残されたマットに、スコールは降り続ける。勢いよく雨に打たれて、マットの汚れは洗剤の泡と共に流されていった。なんと省エネ洗濯!日常的にスコールが降る南国ならではの知恵なのかもしれない。

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先日、梨狩りに行った際にレジャーシートが果汁でベタベタになってしまった。ふと、シンガポールで見たマットのスコール洗濯が脳裏に浮かび、ちょうど雨の予報が出ていたので試してみることにした。屋根のないベランダの手すりにレジャーシートを掛けて放置。

程なくして雨が降り始め、そして止み、レジャーシートはすっかり綺麗になっていた。シンガポール方式、なかなか効率の良い洗濯法だ。

(写真はイメージです)

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