マガジンのカバー画像

ロティの冒険

12
白い仔馬ロティの冒険のお話です。 月・金曜更新予定です。
運営しているクリエイター

記事一覧

居てもいい、じゃない。居たいと思える場所

居てもいい、じゃない。居たいと思える場所



 街外れの丘の上まで走って私は止まった。

「ど、どうした……んだい?何か………呟いたと………思った………ら、急に走り……出して………」

 お兄さんが息を切らせながら追いかけてきた。

「お兄さん、わたし、ずっとバザールが出来る所知ってるの。でも、出来るかわからないから、見ててくれないかしら」

 私はそう言うと、

『大きな雲さん来て』

 そう心の底から思ったわ。だけど、来たのはいつもの

もっとみる
もっと素敵な提案

もっと素敵な提案



「やっぱり難しいかしら……」

 私がそう言うとおにいさんは笑顔になって首を振ったの。

「ロティの考えは素晴らしいよ。ただ、お店でやるには大変だなぁってことさ、お店で、ならね」

「どういうこと?」
「お店でやるとどうしてもいつも品物がなくちゃいけない。でも、職人さんは工場じゃない。大量生産はできないんだよ。だから、市場、バザールを開いたらどうかな?」

「バザール?」

「そう、職人さん達

もっとみる
理想と現実

理想と現実



「ねえ……この作品達は職人さんが心を込めて作ったものなの」

「あぁ、そうだね。だから僕はこれを売りたいと思ったんだ」

「私はまだ世界の半分も見てないわ。でも、貴方がお店をやるならそれを買った人も作った人も笑顔になるようなお店にしてもらいたいわ」

「どういうことだい?」

 私は今まで出会った絵描きさんや文章書きさん、写真家さんの話をしたの 

 それだけで生活している人は、皆、絵や文章や

もっとみる
新しい出会い

新しい出会い



「貴方は誰?」

「君の耳についてる星だよ。君が頑張ってるのをずっと見てたんだ。でも、アドバイスしたらきみひとりでできるようになったことにならない。だからずっと黙っていたんだ。これからは『雲さん来て』って願えば、そこに雲が現れるよ」

「本当に?」

「うん。海辺で試してみると良いよ」

 私は雲さんが言った通り海辺で願ってみたの。すると、何もなかった場所から雲ができたわ。恐る恐る乗ってみると

もっとみる
努力と願い

努力と願い



 やり方なんて知らないわ。だから父さんが飛んでたのを見よう見まねで、練習したの。こんなことなら父さんにどうやったら飛べるのか聞けば良かった。

 でもあの頃の私は羨ましがるばっかりで、自分しかできないことが欲しくて訊きもしなかった。

とにかく、わからないなり気に空を飛んでる所をイメージしながら丘の上から飛び降りたり、ジャンプしたり。 

 ちっともうまくできない。当然よね。始めからうまくでき

もっとみる
願いのために

願いのために



 その絵かきさんの言うとおり私は色んな人にであったわ。

 絵や文章だけのお金で生活している人、他の仕事をしながら、それでも絵や文章をかいたり、写真を撮って売っている人。売れなくて、大好きなのに、やるのをやめてしまったって言ってた人もいたわ。

 現実は絵描きさんの言う通りだった。

 自分の作品だけで食べている人にも、凄くお金を持っている人はほんのひとにぎりでほとんどの人ほそぼそと生活してい

もっとみる
作品の価値

作品の価値



 尋ねる私に、絵描きさんは溜め息をついて言ったの。

「この絵は売れないよ。いや、確かにこの絵は売れるかもしれない。でも、きっと今日君が稼いだお金よりずっとずっと安く売れるだろう」

「どうして?」

「君はまだ世界をそんなに知らないんだね。職人、特に私の様な絵描きや文章を書いている人、写真家、そんな趣味でも出来ることを生業にしている人たちでそれだけで食べて行けるのは、ほんの一握りなんだよ」

もっとみる
世の中の仕組み

世の中の仕組み



 旅は私が考えていたほど簡単な物じゃなかったわ。

 食べ物も、寝る所も全部「お金」っていう物が必要なのを私は知らなかったもの。

 でも、私には使い古しのおもちゃのピアノしかない。

 町の公園で、広場で、時にはお店の前でだって私は弾いたわ。

 お金が集まらなくて、公園で草を少しだけ食べて寝た日もあったわ。雨の中、どこにも雨宿りできなくてずぶ濡れになりながら一晩中歩き続けた日も。

 ご飯

もっとみる
サーカスとの別れ

サーカスとの別れ



 その夜、私は団長の部屋の前にいたの。

「ここを抜けたいです」

 ってちゃんと言わないと、心配すると思ったから。前足でノックすると待っていたように扉が開いたの。

 入るとそこはいつか本で読んだ魔法使いの部屋のようだったわ。不思議な文字で書かれた本の山と、実験に使うと思うガラス器具。そして、透き通る綺麗な羽を持った妖精。

 団長のくすりと笑う声で、驚いてそこに立ち尽くしていた私はここに来

もっとみる
赤いおまもり

赤いおまもり



「えっ……!?」

 ピエロさんの言葉に私はピエロさんの顔を見た。いつも通りの仏頂面だったけれど、嘘を言って騙そうとしていないことは目を見てわかった。

「私はここに来るまで色々な所を転々としていました。この顔で、空間を移動できる力がありますからどこに行っても気持ち悪がられました。石などを投げられたり、街に入れてもらえないこともありました。ここに居るみんなはそれぞれの特異性が故に辛い目にあって

もっとみる
ピエロさんのひとこと

ピエロさんのひとこと



「ロティさん……でしたか」
 ある日、ピエロさんが初めて自分から口を開いたの。
 私、ピエロさんは案内の時以外自分から口を開くことはないって思ってたの。私と2人でいても一切喋らないし、喋るのはいつも歌うたいのオウムさんが来た時にオウムさんから話しかけられてだったから。
「は、はい!」
「今の生活は辛いですか?」
 単刀直入だった。
「全然!こうやってピアノをみんなの前で演奏できるし、ここにも置

もっとみる
不思議な移動サーカス

不思議な移動サーカス

 

 私が生まれたのは移動サーカス。

 そう、その移動サーカスはただの移動サーカスじゃなかったわ。団長が世界を巡って集めてきた不思議なものだけがいる不思議なサーカス。

 例えば自分の意志でしゃべってきれいな声で歌を歌うオウムや、けして笑わないけれど、お客様が見たがっている芸の世界へ間違いなく案内するのピエロ。継ぎ接ぎだらけの踊るビスクドール。

 団長の力で部屋のような感じで違う小さな世界に

もっとみる