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019 もやもやに効くエチオピアのチャット

                写真:ダナキル沙漠(Wikimediaより)

 四半世紀余りも昔のことですが、当時NHKに勤めていた友人に誘われて、彼が制作するテレビ番組の取材に同行する機会に恵まれました。

 主な取材地は、アフリカの野生動物のほとんどが見られるというタンザニアのンゴロンゴロ、ケニアとエチオピアの国境にあるトゥルカナ湖の周辺、当時はまだエチオピア領だったダナキル砂漠、そしてエチオピアのアビシニア高原などです。

 なかで最も強烈な印象が残った場所のひとつがダナキル砂漠です。そこは海抜マイナス100メートル余り、一面の塩原から塩を掘り、ラクダで運び出すのが生業のアファール族の土地なのです。
 摂氏50度を超える熱気の中を、のべつ水を飲みながら歩き回りました。すると、汗が噴き出て体が萎んだような気がしたものです。

 そのまま今度はジープでエチオピア西部のアビシニア高原をめざしました。海抜2000メートル余りのそこは冷涼な気候が快いのです。

 その麓で、何者かに狙撃されました。銃声が2発、運転手は「アファール!」と叫んで速度をあげ、ガイドはズボンのベルトからピストルを取り出してにやりと笑います。
 当時、アファールの人々とエチオピア政府の間には、エリトリア独立をめぐる深刻な軋轢があったのです。
 口が渇きました。水を飲むのですが、渇きは収まりません。で、ジープを止めてタバコを一服しまし。
 が、一向にうまくないのです。
 ガイドは「町に着いたらチャットをやろう」とピストルを持て遊びながらつぶやいていまし。

 まもなく小さな町の路上で緑の葉の繁る小枝を商う男たちが見えました。
 ガイドは一束を選んでジープに戻り、葉をむしってくちゃくちゃ噛み始めます。それをぼくも真似てみました。

 と、青臭いが気持のいい匂いが鼻孔に届き、緑の葉の苦みが舌を刺します。それをミネラルウォーターと共に胃の腑に流し込むのです。

 すぐに上まぶたに張りが出てきて、もやもやした心身に爽快感が満ち、ささくれだった気分が落ち着きを取り戻しました。
 おいしくはありませんでしたが、エチオピアの人々がチャットを好む理由が少し分かったような気がしました。

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