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にっぽんの知恵「銭湯:快い湯浴みが人の気持を変える力」⑧背中を見られて美しくなる女性

                      浮世絵:鳥居清長「女湯」

 銭湯でのことを思い出しながら、熊谷さんが、女性らしい話題を提供してくれました。

 「男性にとっての銭湯は、もっぱら緊張の緩和なんですね。米軍の脱走兵が『やっぱり戦争はやめた』といいだしたのも、心と体が軍隊の拘束から解き放たれたからなのでしょう。むろん、女性にとっても銭湯は、日常の雑事からの解放にほかならない。でも同時に自分自身に目を向け、自分に磨きをかけるひとときでもあるような気がします」

 女性にとっての銭湯は、かつて「ファッション雑誌のような役割」を果たしていたのだと熊谷さんはいいます。
 脱衣所から浴場へ入る瞬間のしぐさ、かかり湯やせっけんの泡立て方、体の洗い方や湯舟への入り方など、他人様ひとさまの立ち居振る舞いを気配で見て、センスの良さを学ぶ庶民の知恵の宝庫でもあったのだそうです。
 それに、美肌効果のある糠袋や肌にやさしい化粧水などについての情報が交換されたりもしました。

 くわえて今ひとつのポイントは「背中だ」と熊谷さんが付け加えます。
 「銭湯は、湯船につかると、体を洗う人の背中が見える造りになっています。で、見られる側は、背中に意識を集中させる。これが全身の美容にいいのだそうです。他人の視線を背中で受けつつ、身を清める。たいへん理にかなっているわけです」

 「そうか、女性の視線をプラスすると、異なった視野がひらける。大事なことですね」
 と鶴見さんが感心します。

 ここで話が、しばし憲法に飛びました。
 不思議はありません。「銭湯デモクラシーこそ偉大な民主主義だ」と説く鶴見さんは「銭湯は『体験の中の憲法』だ」とも考えていたからです。
 げんに「米軍の脱走兵にとっての銭湯」は「反戦への気づき」のきっかけになりました。この出来事に関与した鶴見さんは、その後もずっと「九条の会」を続けてこられたのです。

 この記事と直接の関係はないのですが、ぼくは、こんなキンドル本を出版しています。
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