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015 旅をして変化してきた寿司という料理

              写真:カリフォルニア巻(Wikipediaより)

 人と同じように、料理も旅をして変化するようです。
 たとえば寿司という料理です。今や日本でも珍しくりませんが、四半世紀昔のカナダで不思議な寿司に驚かされました。具がエビとアボカドとキュウリのカリフォルニア巻き、焼いた鮭の皮に野菜を添えたブリティッシュコロンビア巻きなど、いずれもマヨネーズ入りの裏巻きだったのです。

 あらためて考えると、寿司は長大な距離と時間を旅しながら変化してきました。
 起源は昔のインドシナ半島の湖や大河の水辺です。魚と米飯を塩で漬け込み発酵させてアミノ酸の旨味を引き出した熟れ寿司(なれずし)が誕生します。

 それが日本に伝わり、和歌山の熟れ寿司、滋賀の鮒寿司、秋田のはたはた寿司などになりました。
 やがて大阪で酢飯に魚を載せ、木箱で成型する箱寿司に変わります。さらに近世、江戸では酢や塩で味付けした白飯に、江戸湾の新鮮な魚貝を乗せた握り寿司が誕生することになります。それが高度成長期には庶民の手の届かぬ高級料理になったのです。

 やがて寿司は日本企業の海外進出に伴ってニューヨークやロサンジェルスに伝わり、高価だが健康的な日本食の地位を確立します。で、ロスでは、職人がいなくとも提供できる手巻き寿司に変化しました。

 その手巻き寿司が日本に凱旋して、高度成長期の超高価な寿司に対し、適切な価格で食べられるようになります。さらに寿司を載せるコンベアが開発されて回転寿司が登場。パリやレストランなど昨今の欧米では高級レストランと見なされて人気を集めているようです。

 おかげで海外旅行の途上、その長大な旅の跡をしのんで土地ごとの寿司を味わえるようになりました。現代世界では、かつて考えることすらできなかった旅の楽しみが可能になったというわけです。

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