11月① 川に向けファサード競う蔵屋敷(栃木県栃木市、巴波(うずま)川沿いの蔵屋敷
写真「巴波川沿いの蔵屋敷街」(Wikipediaより)
県庁所在地の名称が、所属する都道府県名と異なる場合は少なくありません。
北海道の札幌、岩手県の盛岡、兵庫県の神戸、香川県の高松など枚挙にいとまがないと言ってもいいぐらいです。
が、県と同じ名前なのに県庁のない市は、山梨市と沖縄市のほかには栃木市があるのみ。考えてみると、ちょっと不思議だという気がしないでしょうか。
その栃木市は県の南部にあって、人口は約16万人――県庁所在地の宇都宮市、小山市についで第3位につけています。
で、県庁がなかったから、なのかどうかは分かりません。
が、近世都市の落ち着いた風景が残ることになったようです。
実際、都心を流れる巴波(うずま)川ぞいに蔵造りの家屋が並ぶ町並が保存されることで、小江戸や小京都、関東の倉敷などと呼ばれ、観光地としての人気を誇っているようです。
また、市南部にはラムサール条約登録の湿地に指定されている渡良瀬遊水地があるなど、いろんな魅力を備えた都市格を維持しているようです。
なお、栃木市の市長さんは女性です。全国772の市の内、女性市長はわずか5.4%の42人です。ですから、この点でも、まあユニークな都市だと言えるのかも知れません。
そんなことを知らされて、こんなコラムを書いてみました。おひまなときに、ご覧ください。
人の目にさらされると、女も男も美しくなる。褒められると、さらに美しくなる。単純明快なことなのだ。
と、記したところで思い出すのは、稠密に建物がひしめく大都会の川だ。東京の神田川、大阪の道頓堀川、そして京都の高瀬川……。水の流れに直に接しているのは「建物の裏側」にほかならない。
人通りのある道路に面する建物の表側は、バーでも小料理屋でも小商店でも、きれいにしつらえられる。
が、水の流れに面した建物の裏側では、油のたれる換気扇から煙が吹き出していたり、使い古しの家具が積みあげられていたりする。
人の視線にさらされないと安心している限り、美しくなりようがないのだ。
それは近代という時代が「陸の時代」だったからだろう。そこでは水、とくに都心の川は、陸上交通の障害物にほかならなかったのだ。
それに比べて、巨大な運河を中心に、都市全体に張り巡らされた運河が、人と物の輸送を担う、たとえばベネチアの水に面した建物は美しい。
日本でも江戸時代、背後の足尾山地から切り出された木材を江戸に運んだ材木商の蔵屋敷が軒を並べる、ここ栃木の巴波(うずま)川の風景には、ベネチアの絢爛豪華とは異なるものの、凛とした誇らしい特有の美しさがある。
不思議はない。かつて水上交通が栄えた時代には、積み荷をする水辺こそが建物の正面だったのだ。
そんな建物の建つ水辺の風景が、県庁所在地を宇都宮に譲ったことで、大都市化をまぬがれた栃木に残されたと言えよう。
ならば明治以降も、ひたすら都市用水としてのみ重用されてきた大都市の川の水面に小舟を浮かべ、川遊びをよみがえらせてみたらどうだろう。
汚染にまみれた川水も、それに面して建つ建物も、自らの表情を美しく変化させるのではないか。
で、いまどきの日本の川だ。
それらは人の目にさらされ、やがて人々に褒められる日の来ることを望んでいるのではなかろうか。
そういえば最近、大阪の道頓堀川を行き来する遊覧船が人々に楽しまれ始めているようで、好ましい変化なのではないか。
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