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せつないのうた

せつない
せつない
せつない
せつないってなんだ

 このサビの部分を知ってる人はいるだろうか。Eテレの子供番組、ニャンちゅう宇宙放送局の中で放映されていた「せつないのうた」だ。ニャンちゅうが星野源さんと歌っていて、まさにせつない気持ちを連れてくる。

せつない
せつない
せつない
せつないってなんだ…

 聞くたびに「そうそう、この気持ち」となったものだった。「悲しいと違うこの気持ち…」というフレーズもある。そう、その気持ちだ。

 三月はいつも「せつない」があふれ出す。日本では職場も学校も三月はお別れの節目の月。今年も例外なく職場を去って行く人がいて、花束贈呈なんかが行われるとわたしはダメだ。もうなんか泣いてしまう。なんなら号泣してしまう。「ど、どした?そんなに親しかったっけ?」という感じになる。変な人にしか見えないのだ。

 別れにドライな人ってどうなっているんだろう。達観?諦念?それって修行や訓練で身につくのかな?

 小学校の時、列に並ぶのが背の順だった頃の話。わたしとともに小柄な双子さんがいた。3人で先頭の方だったからちょっとおしゃべりしたりしていた。人見知りのわたしと同じような双子。もう名字しか覚えてないな。彼女たち、突然青森(だったな、確か)に引越すことになった、と帰りの会で先生がおっしゃった。小さな双子がうつむいて前に立っていて、廊下におかあさんの姿もあった。一年生ながら、青森はとても遠く、双子にはもう二度と会えない、と知った。悲しみが体の底から湧いてきて、涙をがまんすると、のどが痛くなった。

 「三田さん姉妹はおかあさんと一緒にこれからすぐに青森に向かいます。みなさん、さようなら、と拍手で送りましょう。」

 よく覚えてないけど、帰り道、ひとりでシクシクと泣きながら母と赤ちゃんだった妹のいる団地の家まで帰った。母は何事かと驚き、母の膝に突っ伏して泣くわたしに何があったのか、と聞いていた。妹も泣き出した…

 三田さん双子姉妹が引越すことになって、さよならも言えずにお別れしたことを知り、もしかしたら母はほっとしたのかもしれない。母くらいの歳だと世の中が別れに満ちていることを知っていたはずだから。もうその時の母の歳を越えたわたしは、今だに小さな別れがこたえる。心がびしゃびしゃになる。だめだ、いちいち、さよならだけが人生じゃないか。みんなみんな一緒にいられるわけないじゃないか。

 せつないのうたが心に流れる三月。今年も何人もとさよならしてメソメソ泣いてそしてやっと暖かな春が来る。涙を拭いて空を見上げると咲いているはずの桜が…今年はまだ咲いてないらしい。

去年の桜。早く会いたいね。

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