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香水レビュー|Alfa/Mendittorosa(サンプル)

Mendittorosa(メンデットローザ)について

私がMendittorosaというメゾンを知ったのは、あのルカ・トゥリン氏が「世界香水ガイドⅢ(2018年版)」の中で、Le Matに星5をつけたのが話題になった時だと思う。
10年ぶりに出版された彼のミシュラン本には、香水の世界の中でも認知度の低いいわゆる「ニッチ系」の作品が多く取り上げられ、そのニッチ系の中でも、とりわけニッチなメゾンから、氏は何点かに星5つの評価をした。それが、世界中の香水マニアの話題の的になったのだ。
一躍注目を浴びることになったニッチメゾン、その筆頭とも言えるのがMendittorosaだった。

気になりつつも季節は巡り、2021年。NOSE SHOPで取扱いを始めるというニュースが飛び込んで来た。
改めて調べてみると、その個性的なボトルデザインや哲学的なテーマもさることながら、調香を見ても、香りがイメージできない事に興味をそそられた。
私もそれなりの数の香水を試しているし、ノートの羅列を見れば、ある程度の香調はイメージできるつもりだったが、全くイメージできない。

これは面白そうだ。と思ったが、NOSE SHOPではweb販売のみ(当時)だと言うし、ムエット送付のキャンペーンも見事に逃してしまった。
それなら!ということで、公式サイトの「MINI SELF SERVICE」を利用して、サンプルを取り寄せることにした。(Mendittorosaではサンプルと呼んでいない。あくまでもMiniなのだ!)
気になる香りは沢山あって迷ったが、今回は、最初の作品であるAlfa、話題のLe Mat、詩をトランスフォームしたというIthakaとOlroの4つを選んだ。

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Alfa


Alfaは、Odori d'Animaコレクションの最初の三部作「Trilogy」のひとつ。他にはOmegaとID(イド/ストロンボリ火山の現地での呼び名Idduに由来)があり、Omegaは終わり、IDは純粋な永遠のエネルギーを表していて、3つの香水が互いを補完し、ひとつの旅になるイメージで作られているようだ。
こちらのAlfaに与えられたインスピレーションは、はじまり。
青く澄んだ海から昇る裸の金星。アルカディアの物語。牧畜と自然。牧歌的な調和のビジョン。


つけたては、鮮烈な酸味がフラッシュのようにぱっと広がったかと思うと、すぐにハーバルな香りに落ち着く。
トップノートはラヴェンサラとホワイトタイムとあるが、意外性のあるオープニング。

この清々しくグリーンを帯びたハーバルの下層には、カーネーションとムスク、サンダルウッドの合わさった、滑らかでパウダリーなベースが透けていて、上層の酸味がうっすらとベースに被さり、香りに多層感を与えている。
その後は、ハーバルの清涼感をフランキンセンスが引き継ぎ、ふわふわした下層とのハーモニーが揺らぎながら後半まで続く。
色々な香りが混ぜ合わさっている。と思うものの、香り全体を見ると、割合シンプルに感じるのが面白い。

肌に残るのは、温かみのあるサンダルウッドとムスクだったり、硬いウッディだったりと安定しない。時には、別々の香りをつけたのかと思うほど、右手と左手で香りが違っていたりもするから驚いてしまう。
香り立ちは、トリロジーシリーズの他の香りとの重ね付けを考慮されているのか、少し物足りないほど穏やか。持続はそれなりだが、中盤以降は香りが嗅ぎ取りにくくなるようだ。(周囲には香っているらしい。)


華やかさは皆無。クラシックとも言えず、特に前衛的とも思えない。掴みどころがないのだが、日常にすんなり馴染みそうでは、ある。
どこか懐かしいと感じるのは、カーネーション様のベースノートが、子供の頃に使っていたエッセンシャル(シャンプー)を思い出すからかも知れない。
それでも、女性的だったりノスタルジックに傾きすぎないのは、ハーバルやサフラン、フランキンセンスといった、硬く刺激的な香りの要素がアクセントになっているからなのだろう。


つくづく掴みどころがない香りだ。そう思いながら、姪っ子が作ってくれた、アイシングが市販品の倍ほど乗ったマドレーヌ(…のようなもの)を食べていると、ふと、ブランドディレクターであるStefania Squeglia氏の幼い頃のエピソードを思い出した。
彼女が5歳の頃、草花と母や祖母の香水を混ぜて遊んでいたというものだ。

その後、彼女がMendittorosaを創設する原点にもなっているこの逸話は、Alfaのイメージと重なる気がしている。
子供の頃のような、先入観を持たない創造。
どのメゾンにも言えることだが、最初に発表された香りは、メゾンの理念を最も色濃く反映しているものだ。
そう思って嗅いでみると、Alfaはどこか懐かしく、少し変わっていて「Odori d'Anima=魂の匂い」という名前のとおり、香りというよりは匂いと言った方がしっくりくるように思う。

実際、同時に購入した4種類のサンプルの中で、一番手に取る機会が多いのがこの香りで、好きか嫌いかも分からないけれど、なんとなく嗅ぎたくなる時がある。
他に似た香りも思い浮かばないし、イメージを決め込む必要がないのが良いのかも知れない。

きっと、この香りは、庭に咲いた花を食卓に飾るような何気なさで使うのが良いのだ。
そうして香りに触れていくうちに、気づけば「自分の匂い」になっているのだと思う。


思い浮かんだもの:天日干しの洗濯物、夏の日の思い出、原っぱ、インコの羽毛、小さな喜び、女性のうなじ

調香/トップ:ラヴェンサラ、ホワイトタイム ミドル:クローブ、ナツメグ、ジャスミン、サフラン、カーネーション ベース:インディアンサンダルウッド、フランキンセンス、プレシャスウッド、ホワイトムスク、ウード(公式サイト参照)


参照サイト

Mendittorosa(公式サイト)
EXCLUSIVE INTERVIEW WITH STEFANIA SQUEGLIA – MENDITTOROSA
Mendittorosa: Interview with the Founder of Mendittorosa Stefania Squeglia (フレグランティカメンバーのみ閲覧可能なページですが、読める方はぜひ)


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