想界が完全架空の世界であることの意義

今までに何度も述べてきたが、想像地図世界(想界)は地球上ではなく、架空の星にある架空世界である。しかし、過去にこのような意見があった。

  1. 単に架空の土地が作りたいだけなら、その「周り」は「日本」でもよいのではないか?

  2. 架空の都市というものをシミュレーションするだけの為に架空の言語まで作るのは迂曲すぎるのではないか?

などである。しかし、どちらも「ダメだった」が結論となるのだ。

ただ、「完全架空」という言葉の定義がちょっと曖昧かもしれない。ここでは、「架空の設定が架空の中で完結していて、現実世界とつながりがなく、もしその架空世界が実在すると仮定しても我々の観測可能な実世界は何も変化しない」という意味で使うことにする。つまり、例えば「東京のどこかに架空の線路を作る」などのように、現実世界の中に架空を作る「現実改変型」の対義語と捉えて頂きたい。

混線という問題

架空地図作者としてあるまじきことなのかもしれないが、私、想像地図の人は、そこまで現実と架空をきっちり区別することが得意かと言えば、そんなことはない。
もし、現実世界の中に架空の土地や線路を作ったら、それが現実に存在するのか、架空のものなのかを、いつか混線してしまうのではないかという不安がある。「今」は大丈夫でも「30年後」に混線してしまうかもしれない。当然ながら、混線してしまえば自分の世界認識に多大な悪影響を生じる。
「混線してしまうかもしれない」という不安に対処しようと思うと、「自分の作るこれは、架空なのだぞ、実在しないのだぞ」と自己暗示をかけ続けることになる。そんな自己暗示をかけ続けていれば、本気で創作することを楽しめないのではないか。そういう不安とも戦わなければならなくなるだろう。

しかし、舞台が完全に架空だったらどうだろう。それなら現実に存在するものなのか、架空のものなのかは区別は容易にできるだろう。なぜなら、土地自体が架空だからである。
「想界は地球から観測できないほど遠い宇宙の彼方の星にある」という設定だ。もし、まかり間違って想界が実在であると錯覚してしまったとしても、「地球から観測できないほど遠い宇宙の彼方の星」があろうとなかろうと、現実世界は、何一つ変わらない。もし想界が実在すると仮定しても、地球は何一つ変わらない。従って、もし想界が実在だと勘違いしても、自分の実生活に何の悪影響もないだろう。
だから安心して創作ができる。
住岡解釈はそれを逆手に取っているのである。

想界が「地球から観測できないほど遠い宇宙の彼方の星にある」という設定には、そういう意味もある。

ならば、言語まで架空にする意味は何か

例えば、「サツマイモ」。
現実にはサツマイモは薩摩が原産のイモという由来を持つ。薩摩は鹿児島県の旧国名だ。では、もし想界で日本語と同じ言語が使われていたら、サツマイモのことは何と呼ばれているという設定にすれば良いだろうか。というのも、想界に「薩摩」という場所は存在しないのである。

1番目の方法は、想界では薩摩とは別の由来があってサツマイモと呼ばれているという設定にする方法である。例えば、想界では佐津間という名前の人物が開発した芋という設定にするという方法がある。
2番目の方法は、想界ではサツマイモのことは別の名前で呼ばれているという設定にするという方法である。想界で鹿児島に相当する地域は「堂園」という旧国名だから、「ドウゾノイモ」と呼ばれているという設定にするという方法がある。

確かに、どちらの方法をとったとしても「矛盾」が生じることはない。しかし、どちらの方法でも、前章で考えた「混線」という問題からは逃れられない。

1番目の方法では、サツマイモという単語は変わらなかったが、サツマイモという単語の由来、すなわち歴史に改変を施すことになる。サツマイモという単語だけとはいえ、日本語という実在言語に対して改変を加えたことに変わりはない。それは、東京という実在の場所に架空の鉄道を作るのと、何ら変わりはないだろう。違いがあるとすれば、改変の対象が地理であるか言語であるかである。そして、現実のサツマイモという名前の由来を、混線しない保証がどこにあるだろうか。まかり間違って、作者自身が「佐津間という名前の人物が開発した芋」であると、勘違いしてしまう可能性は、ゼロではない。もちろん、今は大丈夫だと思う。しかし、40年後はどうか。

2番目の方法でも、単語を置き換えているのだから、日本語という実在言語に対して改変を加えたことに変わりはない。

このように、日本語と同じ言語が架空世界で使われていると設定するなら、何らかの改変は絶対的に必要となるだろう。そしてその改変を行う以上、現実の由来と、架空世界における設定を混線してしまう不安から逃れることは叶わない。

では、その不安から完全に逃れるためにはどうすれば良いか。架空言語を作るのが最良の解決策であろう。日本語と音韻体系や文法の異なる架空言語を作り、その単語一つ一つに由来を造ることにすれば、日本語という実在言語には一切手を加える必要がないから、混線してしまうことはありえないだろう。

もちろん、架空言語を実際に作らなくても「本当は日本語とは異なる言語が使われている。しかし、それらを全て日本語に訳した状態で表示している」という方法でも良い。それであれば、向こうには向こうの固有の呼び方があるが、それは地球の日本語ではサツマイモと呼ばれているから、向こうの呼び方を日本語に訳したらサツマイモという呼び方になる、という解釈でも、この問題は解決可能だ。確かにこの方法でも「混線」という問題はたちどころに解決する。2016年の想像地図は、この方法で「解決」していた。
しかし、「本当は向こうでは固有の名前で呼ばれているが、それを日本語に訳した状態で表示している」と言われたら、「じゃあ向こうの固有の名前はどんな発音なの?」という疑問が沸き立つだろう。その疑問に答えようと思えば、架空言語を作ることはやはり必要となる。

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