更紗語のことを全く考えていなかった時代に考えられた地名から、更紗語の単語を抽出する (1)

本題に入る前に。
これまで何度も述べてきたが、想像地図世界(想界)は地球上ではなく架空の星にある。しかし想界の地名は基本的に日本語で書かれている。架空の星なのに何故日本語が通じるのか、と思うかもしれないが、本当は想界では日本語は通じない。城栄国の公用語は更紗語である。2020年の時点で公開している地図は、「想界の言語は、地名のような固有名詞でさえも日本語に訳されている」というのが公式な解釈である。

すなわち、公開されている地図は、「ドラえもんの翻訳コンニャクを食べた状態で見た地図(のようなもの)」である。

言い換えると、翻訳コンニャクを食べた状態で書かれた地図にある数少ない情報から、更紗語を再建するというのが、更紗語創作になっていくのであろう。

想界に「勿来」のような地名はあるか

日本には「勿来」(なこそ)という地名がある。これは日本語の古語で「来てはならない」という意味である。当時の北方に住んでいた蝦夷に対して「ここより南に来てはならない」と呼びかけたものと言われる。

城栄にも、そんな感じの場所がある。それは奥井県と森藤県の境界にある「原井(はらい)」である。これは更紗語の「さ」の字も考えられていなかった時代に造語された地名である。しかし、原っぱの井戸という地名では、勿来のような「来てはならない」という禍々しい意味を表すことができないし、それでは現想対称性に反してしまうだろう。

だがここで1つ思い出しておきたいことがある。確かに、日本語版の地図に書かれた城栄の地名は、更紗語を日本語に訳したものである。例えば、赤松という地名は、更紗語で赤い松を意味する アータスィ という地名の意訳である。しかし、蓮間という地名は、更紗語で ファスマ と発音する地名の音訳である。更紗語で ファスマ とは、古い川という意味である。このように、更紗語の地名は、意味に基づいて意訳された地名の他に、音に基づいて音訳された地名もある。

原井が、更紗語で原っぱの井戸という意味の地名を意訳したものではなく、更紗語でそう発音する地名を音訳したものだったとすればどうだろう。もっとも、原井は日本の勿来とは立地が少し異なっているため、「来てはならない」という意味の地名ではなく「行ってはならない」という地名だと考えた方が辻褄が合いそうである。

すなわち、更紗語の古語で ハライ が、「行ってはならない」という意味だと考えてみるのである。

日本語の場合、変格活用(不規則動詞)は「する」と「来る」の2つである。更紗語にも不規則動詞が2つあれば現想対称性に矛盾しないだろう。既に、更紗語で「する」を意味する fure は不規則に活用することが確定している。

どうせなら、更紗語で「来る」ではなく「行く」を意味する動詞が不規則に活用すると考えたらどうだろうか。

日本語の「勿来」は副詞の「な」と、終助詞の「そ」の間に、「来る」の未然形の「こ」が挟まれるような構造になっている。更紗語のハライも同様の構造だと仮定する。すると、raが「行く」を表す動詞の活用形だということになりそうだが、更紗語では固有語の語頭にrが現れることはない。従って、ha-ara-i が縮約したものと考えることにする。これならば、araが「行く」を表す動詞の活用形だということになるので、語頭にrが現れることにはならないからである。

更紗語の動詞は、不規則であろうとも原形(不定形)は必ず語尾が -e となる。「する」は、原形が fure, 未然形がfa, 連用形もfa となる。ここから(多少のガバガバさはあるが)予想すると、araが連用形だったにしろ未然形だったにしろ、「行く」の原形はareが予想される。

次に、古語ではなく現代語で「するな」がどう表現されるかについて考えてみる。日本語では「な行きそ」となっていたものが「行くな」という形になったように、現代語では副詞の「な」が後ろ側に移動した。同様のことが更紗語でも起こったならば、ha-ara-i の ha が後ろ側に移動し、araha となる。しかし、更紗語は後の時代に母音間に挟まれたhが脱落した設定がある。そのため、現代語では araa となる。これだったらまだいいのだが、「生える(iyare)」の場合、「生えるな」は iyarea となってしまう。更紗語のeは「エ」ではなく中舌中央母音なので、おそらく最後の母音連続が発音しにくいことこの上ないだろうから、「iyaree」にでもなってしまいそうだ。そうなると、何よりも「生える」と「生えるな」の音は母音の長短だけと言うことになり、音が近すぎて聞き間違えられやすそうで不自然だ。

では考え方を変えよう。原井は、haraiを音訳したものではなく、paraiを音訳したものだと考えたらどうだろうか。更紗語でp音は安定した音であり、「生える」iyare と「生えるな」iyarepa の違いなら問題ないだろう。また、更紗語の地名を音訳する場合も、音訳して日本の地名らしい表記にすることが慣例であり、パライと発音する地名を原井(はらい)と音訳すること自体は何分おかしい点はない。

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