ハードボイルド探偵バネントの日記 vol.5
木曜日 晴れ
全然自慢にならないが、俺は友達と呼べる存在がさほどいない。全くいない気もするが、そう考えるにしては腑に落ちない部分が多すぎる。しかしとりあえず、前回の日記からかなり日数が経っていることをバカにするヤツは周りにいない。
せっかくだから自戒をこめて記しておくが、俺という人間は継続という行為にあまり向いていない気がする。子供の頃は犬を飼いたいと言っても許してもらえなかった。俺では面倒を見切れないからというのが、母の言い分だった。当時はかなり悲しい思いをした気がするが、今となっては母が正しかった。犬に限らず、命あるものは少し手をかけてやらないとすぐ死ぬ。死んだらもっと悲しい。母とすれば、息子に悲しい思いをさせたくなかったのだろう。
ところでこれを読んでいる未来の俺は、何でこんな調子で日記を書いているんだろうと訝しんでいることだろう。突然分かりきった話を備忘録かのように記しているのだから、それも仕方ない。実際これは半分覚え書きのようなものかもしれない。
この数日、俺は迷い犬を探していた。できるだけ早く見つけたかったが、なんだかんだで時間がかかった。最終的には同居人の助けもあってなんとか見つけ出し、俺は報酬を手に入れた。犬がどうなったのかは分からない。というよりも、本当に犬を見つけたことで報酬をもらったのかどうか確信が持てない。気が付けば俺は大金を手にし、犬の件は片が付いたと認識していた。この二つを結びつけるのは、俺からしてみれば簡単なことだ。
ただ、俺は最近色々と記憶が怪しい。だから、忘れてもいいようにこう言う感じで日記に書き留めることにした。報酬の件はこの際どうでもいい。昔から、3日前の晩飯の記憶さえ乏しかった俺だ。問題は、子供の頃に母に犬を飼うことを禁じられた話を、俺が先日犬(この犬は別の犬で、べつに飼いたいとは思わなかったが)を見つけるまで忘れていたことだ。あんなに悲しかったのに。
まあそうは言うものの、実際は杞憂なのかもしれない。忘れていたことに脅えるよりも、思い出せたことを喜ぶべきなんだろう。そういえば、何故思い出せたのか。そのことで同居人に意見を求めたら、そいつは何も答えなかった。珍しいこともあるものだ。普段は返事をしてくれるのに。しかし他の話題は普通に受け答えができるので、心配することは何もない。服が謎の液体まみれになって新調する羽目になったが、これもどうでもいいことだろう。
(今回のプリンセス・クルセイドはお休みです)
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