総選挙を終えた雑感
10月31日、第49回衆議院議員総選挙が終わりました。
結果は、自民党が追加公認を含めて絶対安定多数の261議席を獲得し、勝利しました。一方、立憲民主党は公示前から議席を減らし、96議席にとどまる結果となりました。日本維新の会は公示前から4倍近く議席(41議席)を増やしました。
私は緊張感のある政治を望み、立憲に期待していましたが、残念な結果です。以下、思ったことを書きます。
1.「野党共闘」は失敗か
今回の選挙では、立憲と共産の野党共闘が実現し、小選挙区のうち7割で候補者が一本化されました。石原伸晃元幹事長を破った東京8区や甘利幹事長を破った神奈川13区など成果を上げた選挙区もありましたが、全体としてみれば、与野党激突となった142選挙区のうち、与党が96勝、野党が36勝と大きく水を開けられました。
ただ、今回の結果をもって野党共闘は失敗だと断じることは早計だと思います。
野党共闘については、連合との関係も含めて「共産党と組むべきかどうか」という「べき論」や、「野党の票を足せば勝てる」といった矮小化された戦術論が先行し、政党や候補者自身の足元を見つめた冷静な分析や戦略論が語られることがなかったと思っています。
今回、野党の候補者が一本化されたことによって、多くの選挙区で接戦になったことは事実であり、一定の成果はあったと思います。反面、勝ち切れなかったことも事実です。
勝ち切れなかった原因は、2つあると思っています。一つは、有権者に共産党の「閣外協力」が十分理解されなかったこと。もう一つは、候補者や支持者が「野党共闘」に過度に期待ないし依存しすぎたことです。
立憲は共産との間で「限定的な閣外協力」で合意しました。衆議院選挙は「政権選択選挙」です。立憲は政権交代を目指す以上、政権枠組みを示すことが必要で、共産党と政権協力で合意したことは評価できます。しかし、選挙直前の合意で党内での議論がほとんどなかったことで立憲の候補者の多くが方針を十分理解していたとは言い難い状況でした。与党が「野合」と批判することに対しても有効に反論できませんでした。これでは有権者の理解も進みません。
そして、選挙はまず自分たちの足元、地力を固めた上で、無党派層や他党の支持者にアプローチしていくのが常道です。競り負けた選挙区で果たしてこうした地道な取組ができていたのでしょうか。私の地元選挙区をみると、候補者(現職)は党を頻繁に移り、次第に有権者の信用を失っていたように思われます。加えて、労組との関係をこじらせ、選挙では一部労組が離反したといわれています。このように自分の足元が揺らいでいたのでは、いくら共産党が候補者を降ろしても勝つはずがありません。さらに、比例票が不振だったということは、自党の支持者の掘り起こしが上手くいっていないということです。
私は小選挙区制を前提にする以上、立憲・共産が選挙協力することは不可欠だと考えています。その上で、まず立憲がすべきことは、党の組織や後援会、労組などの支持団体といった足元をしっかりと固めることです。自陣が固まっていないのに、共産党や社民党の協力を得ても勝つことはできません。この当たり前の原点に立ち返ってやることが必要だと思います。
なお、立憲については、別稿で詳述したいと思います。
2.維新の躍進は本物か
今回、日本維新の会は4倍近く議席を増やし、躍進しました。小選挙区で大阪以外で初めて議席を獲得したほか、比例代表でも公明を上回る得票を得て、政権批判の受け皿となりました。
維新の躍進に対しては、リベラル層やインテリの中で揶揄するような言動も見受けられますが、今回の選挙における活動をみると、見くびってはならないと思います。
維新がこれまでの新党や第三極と違うのは、地域にしっかりとした基盤を築いているということです。知事や市長を獲り、議会を制することで強力に行政や政治を進め、実績を上げることで更なる支持の拡大につなげるという好循環を確立しました。コロナ禍によって地方の首長の対応が注目される中で、大阪では吉村知事に発信を一元化し、その名は全国にも知られるようになりました。
加えて、岸田政権が「新しい資本主義」や「新自由主義からの転換」を打ち出し、「改革」という言葉を使わなかったことで、「唯一の改革勢力」というアピールが功を奏しました。
ただ、今後はなかなか難しいと思います。
それは、「第三極」の難しさです。
これまでも民主党やみんなの党など、第三極を志向する政党がありました。
1996年に結成した民主党は当初、与党でも野党でもない「ゆ党」と呼ばれました。その後、1997年末に解党した新進党の一部を吸収して野党第一党となりました。
2009年に結成されたみんなの党は、第三極として、2010年参院選や2012年衆院選で躍進しました。しかし、次第に自民党との協力連携を目指す渡辺喜美代表と維新との連携を目指す江田憲司幹事長との路線対立が激しくなり分裂しました。
維新は2012年の総選挙で50議席を獲得しましたが、みんなの党から分裂した結いの党と合併して維新の党となり、2014年の総選挙では40議席を獲得しました。しかし、その後民主党との合流を目指す勢力が分裂し、残った大阪系の人たちによって現在の維新ができました。
このように、第三極として大きくなると、政策実現のために与党に寄っていくのか、それとも野党第一党を目指すのか、という路線問題が持ち上がってきます。党としての独自性を保ちつつ、分裂させずにまとめていくことは容易ではありません。現在は松井代表がしっかりとグリップをきかせていますが、松井氏は政界引退を表明しており、松井氏に代わって吉村知事がこうした微妙なかじ取りをできるのかは未知数です。
3.岸田政権は本格政権になるのか
当初自民党は単独過半数がとれるかどうかと言われていましたが、結果は絶対安定多数を獲得する勝利でした。
一方で、政権の要である甘利幹事長が小選挙区で落選し、幹事長を辞任することとなったほか、石原元幹事長や野田毅元自治相といった大物議員も落選し、大勝の割には高揚感はありませんでした。
とは言え、岸田総理は総裁選と総選挙という二つの選挙で勝利したことで、本格政権に向けた政治的資産を手に入れたと思います。
「一内閣一仕事」という言葉があります。岸田総理は今回得た政治的資産をどういう政策実現に使うのでしょうか。
岸田総理は先の所信表明演説で「新しい資本主義」の実現を訴えました。ただ、その中身は未だ判然とせず、有識者の検討に委ねられています。総裁選で言及した「金融所得課税の強化」も株式市場の下落を受けて事実上撤回しました。選挙戦でも成長戦略に寄った訴えを強くするようになり、分配政策は後退した印象があります。
また、岸田総理は選挙中、憲法改正や敵基地攻撃能力に言及したり、選択的夫婦別姓制度に消極的な姿勢を取るなど、保守層に配慮した発言をしていました。もともと宏池会はリベラルとみられているだけに、自民党の岩盤とも言える保守層が逃げないよう気を遣ったからかもしれません。
いずれにせよ、今回の選挙で得た政治的資産をどのように使っていくのか、岸田政権としての目標を早急に示してほしいと思います。
4.国民民主党の行方
国民民主党(国民)は今回、公示前(8議席)を上回る11議席を獲得しました。
国民は昨年、旧国民民主党が解散し、大半の議員が新しい立憲民主党に合流した中で、残った人たちによって結成された政党です。綱領や規約、政策の多くは旧国民のものを引き継ぎました。
今回の選挙では立憲・共産の野党共闘とは一線を画して戦ったとしていますが、小選挙区ではほとんどの選挙区で立憲と候補者を調整し協力していました。
にもかかわらず、玉木代表は「改革中道」「対決より解決」が支持されたとして、国会運営では立憲・共産・社民の国対の枠組みから外れることを表明し、今後独自路線を強化する姿勢を示しています。政策実現のために与党に協力する場面が出てくるかもしれません。
国民にとっての正念場は来年の参院選です。国民は労組の組織内議員が多く、全員が比例選出です。今回の衆院選の得票を当てはめたシミュレーションでは2議席にとどまり、全員当選は厳しい状況です。選挙区では野党協力が不可欠です。
5.反省と今後への期待
私は今回の選挙で立憲は政権はとれないが、140議席くらいはとれるのではないかと思っていました。そうなれば、2003年の民主党並みの勢力となり、政権交代可能な勢力として政治に緊張感が生まれるのではないかと期待していたのです。
しかし、結果はそうなりませんでした。私自身、知らぬ間にエコーチェンバーに陥っていたのかもしれません。
出口調査結果によると、若い世代ほど自民党を支持し、30代・40代では自民の次に維新が支持されているそうです。「野党は批判や反対ばかり」していることが嫌がられているということなのでしょうか。
今回の選挙では、多くの政党が公約で選択的夫婦別姓制度の実現やジェンダー平等を掲げ、選挙の争点の一つになりました。
従来こうした問題は「票にならない」、「ジェンダーや多様性より経済」、「明日のご飯の方が大事だ」と言われてきました。しかし、主要政党が公約として大きく掲げたことで、多様性が政治における大きなイシュー(課題)の一つとして俎上に上がるようになったのです。
自民党が勝利したことでこうした課題が進むかは不透明ですが、着実に流れは変わってきていると思います。
選挙は民主主義のきっかけに過ぎません。日頃から政府や国会が何をしているのか見ていくこと、そして、間違っていると思ったらためらわずに発言すること、次の選挙できちんと審判を下すこと。この民主主義のサイクルを繰り返していくことを忘れないようにしたいです。
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