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コンドル。

岩の上。ごろんと寝転んで見上げる高い空をコンドルが横切った。雲をかぶる山のてっぺんを旋回して、動物の死骸を探している。コンドルが生きた動物を獲らないのだと、バーリロチェの博物館で後から習った。コンドルは山や谷の大事な清掃員らしい。近くで見ると、禿げ切らない頭にステージ歌手みたいな襟巻をしたちぐはぐな容姿だけど、空を高く高く上がって雪山の峰を旋回する姿は、ステージ歌手顔負けだ。そこへ来て死骸しかとらないだなんて、なんて控えめな生き方だろう。


たらららららららららー らーらー らららー らららー


ここへ来てコンドルを見かけるたび、どこかでスイッチが入って口ずさむ。人の行きかうメルボルン市街の通りでいつも「コンドルは飛んでいく」を演奏している人がいた。メルボルンはいいところだけれど、あの人がこんな天国みたいな場所から来ていたのだとしたら、メルボルンでの生活もなかなか窮屈に感じやしないか。とは言え人って良くも悪くもとことん順応していく生き物だから、にぎやかな街のどこかに心休まる小さなポケットを見つけて、南米の人だから友達も楽しみもたくさん見つけて、意外と楽しく暮らしているのかも。


エルチャルテンでの6日間は快晴に次ぐ快晴で、私たちは休む間もなく山に登った。パタゴニアは秋。雨が多くなってきたので余分にとっておいた「休日」もせっかくだからと歩きに出るけど、頂上はもう見たからと途中で彼を見送って、風のない一角を見つけては本を読んだり絵を描いたりして過ごした。旋回するコンドルの下、山のふもとに押し寄せられた氷河が川になって町に続くのが岩の上からよく見える。


コンドルにもここで暮らす人たちにも、これから長い冬が来る。つかの間の雨がもたらす「外へ出られない日」に私はなんだか少しほっとしたけれど、ここに暮らす生き物たちは冬支度に忙しい。けれどやっぱりコンドルも人もなんだかゆったりどっしり構えて見えるのは、気分屋な天気と折り合いをつけながら、パタゴニアの土地に順応して生きてるってことなのか。

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