ひと匙日記 365日

5月13日(土)

 音楽は“あのとき“に一気に連れて行ってくれるタイムマシーンのような力がある。それはいい時もあるけど、連れて行かれるのが怖くなることもある。

すごく大切な曲があって、それを聴いた人とはもう会えないのだけれど、もし今、その曲を聴いてしまったら“思い出の曲“として自分の中で認定されてしまうのが怖くて、十年以上ちゃんと聴けなかった曲があった。でも、ある時、大好きな曲なのに「聴いたら辛くなる」なんて悲しいな、このまま避けて聴かずに生きていくことが“思い出の曲“にしてしまってるやん、と思い、聴いてみることにした。YouTubeで検索をしてみると、わたしたちが一緒に聴いた時のライブの映像がそのままあった。あのライブのアンコールで歌ってくれた曲だった。隣には君がいた。あの頃は入院中で病気ももうずいぶん進行していたけど、君にとってはとても大事なイベントだったから多少無理してでも行きたかったんだよね。君は立っているのがしんどくなって途中からは座って見ていたけど、すごく楽しそうだったね。帰り道、君はかなり疲れていたので、同じライブ帰りの高揚した人たちにどんどん抜かされながら、ゆっくりゆっくり歩いたね。わたしたちだけが違う時空の中にいるみたいでなんか良かったよ。歩きながら君が「アンコール見たかったな」というので「え?あの曲がアンコールやで」と言ったら「え?そうなん?全然気づかんかった。アンコールまだやのになんでみんな席立つんやろと思ってた」と言って笑ったね。確かになかなか席を立たなかったから、久しぶりの外出でしんどいだなと思って一緒にしばらく席に座ってたけど、ほんとはアンコールを待ってたんだ。笑ったね。

あのときのアンコールの曲を聴いた。そしたら、もう、めっちゃいい曲で。こんなに素晴らしい歌をあの人と一緒に聴けたんだと思ったら泪がボロボロボロボロでちゃって、全然思い出になんかできてなくて。泣きながら笑ってしまった。