ひと匙日記 文豪先生。

6月23日(金)

 いま、文章を書いているのだけど、自分が書くようになって思うのはやっぱり文豪ってすごいなってこと。いままでは、文豪たちの書いた文章を物語として楽しんでいたけど、最近はたとえば、冒頭はどんなかんじなのか、話の進め方、語彙の選び方、目線、情景、対比のさせ方、終わらせ方などなど。気にして読んでみると、あらためて面白い。すごい。最近読んで面白かったのは夏目漱石の「自転車日記」という随筆で、これがもうめちゃくちゃ笑える。自虐とユーモアが絶妙に織り混ざっていて、読むと漱石のことが大好きになる。短編であっという間に読めるのでおすすめです。
 自分が書いていて、ちょっと悩む時には文豪たち本を開く。悩んでは読む。読んでは書く。文豪たちに励まされながら書く。気付くとわたしの机の上に小さくなった漱石や芥川や太宰がやってきて叱咤激励してくれている。
「先生、もうダメです…最近寝不足で目の下のクマがヤバいです」
「うむ、お前の顔など誰も見ちゃあせん。大丈夫だ」
「先生、わたし今週まだ一滴もお酒を飲んでいないんです。。少しくらいなら飲んでもいいですか?」
「馬鹿、お前が酒を飲んで書いた文章を翌朝読みなおした時の絶望を忘れたのか。」
「酒は我々が代わりに飲むから安心しなさい」
「先生、又吉直樹さんの随筆集「東京百景」と「月と散文」が好きすぎて憧れます。この場に又吉さんを召喚していただけませんでしょうか…」
「なに?我々がこうして励ましてやっているにもかかわらず、又吉くんだと?生意気な。お前に又吉くんを召喚するなど百年早いわ」
「又吉くんの小説もいいよね」
「自由律俳句も面白いな」
「先生方!そうなんですそうなんです!わたし又吉さんの文体が好きなんです」
「うむ。しかしお前の好きな又吉くんは我々の書いたものを随分と読んでくれているのだぞ」
「そうだよね、だからさ、君はもっと僕たちの小説を読んでよ」
「全部読みなさい」
「先生方、そうですよね。わたし、もっともっと本を読みたいです」
いつの間にかわたしも小さくなって文豪たちと一緒に話をしていた。
気付けば窓の外は明るくなっていた。朝か。文豪たちはいつの間にか消えていた。残っていたのはより深くなった目の下のクマだけだった。