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第5話:大名行列

国内の老舗大企業には、素晴らしい家柄のお方が採用されることが多い。

いわば、家柄のリファレンス採用というやつだ。

育ちの良い人というのは、大きな愛とプレッシャーの両方を受けて育つ。

それは他の人よりコンプレックスが少なく、勇気を持ってアクション出来る能力と、常識や民度の高さ、口が堅さにつながることが多く、バランスが取れていれば接してすごく楽な人達だ。

コネ入社が実力が無いと思ったら大間違いで、素直に努力する人が多く、だいたい勉強もできるし、スポーツやアートでも得意なことや趣味を持っている。にもかかわらず、意外と字は汚かったりするのが憎めない。

何より、日常生活で「えええええええ」ってなることをしない。

・店員さんやその時に下の立場になる人に横柄な態度をとらない。むしろ対等に親切に接する。

・他人の努力を頭ごなしに否定しない。むしろ本人も努力家なので応援してくれる。

・公共の場を汚く使わない。むしろごみが落ちてたらサッと拾って捨てる。

感じの悪い対応をすることが、無意味であるということを、知っているのだ。

会社の名刺を持つということは、規模のビジネスをするとき、会社の信用を背負うということでもある。「いちいち○○してはなりません」と教える回数が少ない方が安全に決まってるから、きっとそういう需要があるのだと思う。

けれども、感じのいい人に育ちの良い人は多いが、育ちが良いからといって、感じが良いとは限らない。

合コンじゃなくて、大名行列だった話。

その昔、某大手商社の方々と、合コンしようという話になった。

幹事の男性とその同期達は、未婚だし、先に上げたようにすごく素敵な育ちの良い人達だった。

「ごめん人数が増えた」と数日前に連絡があったので、幹事の女性がメンバーを増やし臨んだ。

ところが、集合したら、1次会からおじさんが数人混ざっているのだ。

そして、私たちの対面だった幹事の男性とその同期との間に、ものすごい上下関係を醸し出してくる。

なんだろう?この空気。大人数で、何で上下関係を出してくるのだ。

とりあえず、自己紹介タイムで、お名前と関係性を聞いた。

幹事とその同期たちの自己紹介タイムが終わり、小おじさんに回ると、彼らの先輩らしい。最後の大トリとして、やたら敬われている大おじさんに順番が来た。

「いやー、私は彼らの部署の上司でSといいます。来月から海外赴任が決まって、今日は最後の飲み会なんですよー。あ、既婚者ですけどね!」

アホか。合コンを上司の送別会にするな。あと既婚者いらねぇ。

その瞬間怒りが湧いたが、ここで「帰る!」とか言うなよ…という女性側の幹事の目線が飛んできた。女の友情は裏切れない。

絶対に1次会で失礼することを心に誓い、別の興味を探すことにした。

ところで、Sって、日本史で聞き覚えのある大名家と同じ苗字だ。

チーッ、ピピピ!…

この瞬間、私の中のタイムスクープハンターである要潤が発動した。

えー、この時代の人々にとって私は時空を超えた存在となります。えー、彼らにとって私は宇宙人のような存在です。えー、彼らに接触するには細心の注意が必要です。私自身の介在によって、この歴史が変わることがありうるからです。えー、彼らに取材を許してもらうためには特殊な交渉術を用います。それは極秘事項となっており、お見せすることはできませんが、今回も無事、密着取材することに成功しました。

交渉完了!密着取材のため、積極的に質問して行こう。

「Sさんって、もしかして○○の方面がご実家ですか?」

とその大名が治めていたエリアの名前を出してみた。

「いやーそうなんだよー!わかっちゃった?あ、でも明治維新の頃にはあの辺実質住んでなくてさ、旧藩邸のあったエリアで生まれててさ、東京出身なんだよ。」

悦に入って、殿は話し始める。

「さすがですよねー!いや、立派なお家柄です!」

「Sさん、お名前だけでも高貴ですよね」

部下たちが褒めまくる。

した~に~、したに!大名行列のようだ。

ひたすらに「殿」をほめそやす2時間が終了した。

不毛だ!不毛すぎる!

2次会に連れていかれたが、女性同士目くばせして静かに荷物を持って失礼した。

送別会は自分たちだけでやればいいし、女性の接待を求めるならプロの方々に頼めばいい。

どんなに家柄が良くても、それしか取り柄がないのは最低である。

ましてや、側室を何人も持っていた時代とは違い、今は法律上重婚はできないので、奥さんと子どものために家に帰れと言いたい。

何より。1つの会で全く異なる2つの目的を果たそうというのは、目の前の人とうまく向き合い切らないという意味で、営業マンとしてカスみたいな人達だ。

その後、幹事の男性から「もう一度やり直そう」という連絡が入ったそうだが、友人は丁重にお断りをしていた。

そこで感じたのは、どんなに家柄や育ちや勤め先の規模や年収といった、世間的なスペックが良かったとしても、カスみたいな人はいるということ。

こういう奴らに遭遇するということは、我々もまだ魂の修行が足らんなと思い直して終わった。

結局は、精神的に安定して、モラルのある人間である方が、そういったスペック論よりうんと大切だという良い勉強になった。

えー、以上。ミッションコンプリート。アウトします。

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