如法暗夜 2019年 7月 受胎と堕胎
なかなかスッキリとは晴れず曇りや雨の日が続き、陽子は体調を崩しやすくなって2,3日休んだ事があった。続く頭痛と胃痛が続き、1日寝れば治ると思ったが良くならず、翌日クリニックへ行った時に妊娠が発覚し、体調不良の原因が所謂悪阻だった。当然そのことを駿介に伝えた。
「陽子も今は仕事を始めたばかりだし、自分にも生活力がない。本当にごめん。まだ若いしチャンスがあるから辛いけれど今回は諦めて欲しい。」
長く続く天候不良で休日昼間なのに薄暗い陽子の部屋で駿介は泣きながら土下座し謝った翌週、陽子は病院で命を1つ落とした。
駿介は陽子の初めての男で、小学校から高校までは私立女子校の一貫教育、大学では共学に通ったものの特に浮いた話もなく、恋愛経験がないまま大人になり、父親を失って天涯孤独になった寂しさから、全てを委ね駿介が世界だった。その時は辛かったが、近い将来手順を踏んで一緒に生きていけると思っていたのだ。
子供を諦めた後、駿介は陽子に優しく接した。堕胎の後数週間は陽子に寄り添いながら食事や掃除など、夫婦の様な時間を楽しんだ。陽子はいつかこういう生活が一生続くのだと信じ、失った命に報いる幸せを必ず手に入れようと思った。
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