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わたしにとってのレゴシくん

BEASTERSを読むと、思い出す人がいる。わたしにとってのレゴシくん。

その人は、一人暮らしの部屋に一度遊びにきたことがある。わりと引っ越して日が浅い時期だったのかな。家のいろいろが整っておらず、力が必要なことを手伝ってもらった。それからゲオで借りたDVDを観て、ごはんを作って食べて、それぞれシャワーを浴びて、同じベッドで眠った。短いキスだけした。それだけ。

彼がセックスを暴力だと思っていたかはわからない。わたしとは特にしたくなかったのかもしれない。とにかく、セックスに誘ってこないことに、やさしさを感じてしまった。

家に来させておいて、セックスしないなんて申し訳ないかもと思ってた。でも、したそうなそぶりもあまり感じられなくてほっとした。

その晩、彼はわたしに、就こうとしている職業を教えてくれた。「誰にも言ってないけど、俺のこと見てたらわかるでしょう?」と言われた。そういえば、がっしりして強そうな見た目なのに、言葉遣いが丁寧でやさしかったな。

彼はとくに真面目なほうではなく、人と一緒になってふざけることもある。学級委員タイプでもないし、正義の味方っぽくもない。ただ、いじめに加担したりは絶対しない。なんとなくわかってしまった。

そして誰にも話していないのに、わたしには教えてくれたことに、少し自惚れてしまった。だって、わたしは。

数年前、教室で、わたしは彼の後ろの席になることが多かった。わたしは大人しそうな見た目だからか、通学途中、かなり頻繁に痴漢に遭った。無視しても、がんばって駅員に引き渡して遅刻しても、いずれにしろ疲れ切って学校に到着する。

何度経験しても平常心でいられなくて、心臓の音が頭に響いて、流れる血が全部真っ黒になってしまったようで、他のことが頭に入ってこない。わかんない、わかんないけど、プリント回す時とかにわたしのことに気づいてた?

そんなによく気づくほうじゃないのかな。でも、あえてわたしに将来の話をしてくれたのは、あのころのわたしのことを、ほんとに守ってくれるみたいで。その晩はとっさに言葉が出てこなくて「そっかぁ。わかる気がする」って、にこっとしただけだったけど。

性犯罪に遭ったときの警察官の対応を思うと、警察官のことはあまり好きじゃない。ただ、全員が全員あんな感じなわけじゃないだろうし、彼みたいな人が警察官だったらいいなと思った。

彼にはもう何年も会ってない。わたしはハルみたいにセックスを利用してきた。理由はちがうけど。彼には言えない。でも言ったとして、別に「大変だなぁ」と笑ってくれて、それで終わりかもしれない。

彼は、社会に立ち向かおうとしてた。一方で、わたしのなかにはレゴシくんはいない。わたしのなかにレゴシくんがいて、わたしとか、わたし以外の人たちを守ってあげられればよかった。でも、できなかった。サボった。サボり続けてる。強い肉体と精神を持っていないからだろうか。それは言い訳にしていいの?

セックスに対していい印象に持てないのは、個人的には当然だ。ただ、この人生だとそう思わざるをえないというだけで、他の人にとっては違うかもしれない。

わたしはわたしの経験としても、わたしが目にするニュースからしても、セックスについては悪い話のほうがずっと多い。いい話はニュースにならないから、それはそうかもしれないけど、いかんせん件数が多すぎる。日本のほとんどが性犯罪なんじゃないかと思う。

それがわたしにとっての現実だけど、でも、男の人全員が悪いとは思わない。する人たちが悪い。女の人も。


男の人の家に泊まるとき、この人がその気になれば、わたしなんか簡単に殺せちゃうんだろうなーということに安堵する。

わたしはセックスは暴力(※1)だし、しんどいなと思いつつ、レゴシくんみたいな見た目の男の子が好き(※2)だし、暴力がエロいと思ってしまってる。ハルがシシ組につかまる回とかエロいなーって思って観てる。たぶん日本のエロ産業によって、そう思うように育った。でも、暴力はエロいけど、受けると傷つくから結構しんどいんだ。

※1
「襲うぞ」「喰うぞ」「犯す」などの言葉やAVから、そう思わざるをえない。そしてわたしはそれらを嫌いと思っていない。慣れて価値観を内在化させてしまっている。むしろ丁寧に扱われるほうが無理。←自分を大切にできなさそうな人の考え

セックスしようとしてくる知らない人の性欲によってだいぶ傷つけられたし、知ってる人でも性病がうつったり、乱暴だと傷ついたりする。いいことがなかったとは言わないけど、面倒なことのほうが多い。

それから、相手に「子どもはいらないし、妊娠したら死の〜」と言っている場合もあり、それなのにセックスしようとしてくるってことは、死んでもいいってことだよね? と思ってしまう。でもそれが気持ちいいこともある。相手(わたし)が死ぬとしても、そんなのはどうでもよくて、とにかく欲望に抗えないんだなーって。

※2
デカい人が、大して強そうじゃないわたしの言うこと聞いてくれるのが単純にうれしいというのもある。そんなことをうれしく思ってごめんなさい。

ハルがメロンに自分を安く売る心理には共感しすぎて、「作者と生い立ち似てる?」と思ってパルノグラフィ読んだけどかなり違った。書いてあることは人生のほんの一部だろうから、わからないけど。多かれ少なかれ、この世代の女(もしくは男)はこういう思いしてるってこと? 誰かお話ししたいよ〜。

BEASTARSを読むと、やっぱりわたしのなかでセックスは暴力なんだなと思う。これって共通認識なんだろうか? 連載が終わってしばらくしてから読んだので、読者にはどんな解釈をしている人が多かったのかわからない。比較的体が強くできていることのほうが多い(例外はある)男性は、これを読んで責められているように感じなかったのだろうか。

調べたら、togetterにこんなのがあった。

https://togetter.com/li/1592890?page=2

責められていると感じて、牙をむいていた。一応リンク先のnote記事もお金を払って読んだけど、フェミニズムが目指すところは男女平等であって、女性優位な社会ではない。フェミニズムをもともとミサンドリー込みだと考えてるところが、うーん……だった。

ただ、レゴシくんが牙を抜いたところ(去勢とも捉えられる)はわたしもショックだった。レゴシくんは、そこまでする必要ないよ!!! レゴシくんがそうしたいんだったら、そうするしかないけど……。

※そこまでしたほうがいい人もいるけど、男性全員がそうすべきなわけじゃ全くないし、男性原罪論だ!というのは違う。落ちついてほしい。この物語の終盤は、そう思わざるを得ない内容だったかもしれないけれど。

※漫画を読んでからしばらく経っているので、記憶違いなところがあったらごめんなさい。

まとまらないけど、これについてはずっと考えているし、いつかちゃんと言葉にしないといけないなと思っている。まずはたたき台です。

急に雨が降ってきた時の、傘を買うお金にします。 もうちょっとがんばらなきゃいけない日の、ココア代にします。