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職業訓練校木工工芸科という所(1)

以下の文章は、私が職業訓練校木工工芸科に在籍していた当時発行していたメールマガジンの文章です。私が木工で行こうと決めたときに最も不安に感じたことは、職業訓練校とはどんな場所か、ここでは私が学びたいと思っている事が学べるのか、等でした。そこで入校後、同じように不安を感じている人達のために訓練内容などをレポートしたものです。
全くの初心者が意気込んで日々の訓練に没頭したあげく、少し背伸びをしながら書いたものなので、内容的には “?” な所が多々あります。ここで書かれていることを木工の参考などにしてはいけません。しかし訓練校の雰囲気だけはある程度感じ取ってもらえると思いますので、今回、いくらか文章を整え再掲します。これから職業訓練校で木工を学びたいと考えている人がいたならば、参考にどうぞ。


職業訓練校木工工芸科という所(1)

ありがたいことに私が通い始めた職業訓練校の方針は私の希望に合っているようだ。
訓練始めにまず説明を受けたのだが、めったやたらと就職に有利な技術はカリキュラムに入れないと言っている。これはどういう事かというと、たとえば中空の合板と心材(これはフラッシュとか呼ばれる)、これを用いた組み立て家具のようなものについてはあまり教えるつもりが無いそうだ。マンションなんかを建てた場合に大量に発注がかかるんで、こっちは扱う会社も多いし給料もそれなりになるらしいのだが、やはり自分の好みではない。
そして加工のための応用技術よりも、基本的な手作業に重きをおくと言っている。こちらも望ましい。日本の文化の中で消えるには惜しい技術について、私にもいくらか担えないものかと思ってこの道を選択したからだ。そんなわけで私は毎日カンナの刃を研いでいる。
午前中、レトロな雰囲気の漂う教室で授業を受けると、午後いっぱいが実習になる。ここでは指導教官以外に、第一線を退いた建具職人のお爺さんたちが講師として日替わりで指導に来てくれる。かつては自らの木工所で強権を振るっていたのかもしれないが、ここではどの爺さんも親切で自分の知っている「技」を伝えようと惜しみがない。
ときにアツくなる事もある。ある講師は私が研いでいた練習用のカンナ刃を見たとたんに、「この鍛冶屋は腕がいい!」など言い出して何事かを語り始め、いつ果てるともなかった。いつの日か私もここまでこの仕事に熱くなれるのだろうか。その腕も確かで私はまだその一端をかいま見ただけだが、十代から木工の道に入って現役を引退するまで続けたその技術はかなりのものだ。
ただし、様々な技術の根拠を物理的に説明しようとした場合、時折やや怪しげな説明になるようだ。これらはいくらかサイエンスをかじったような人間ならば見抜くことができるがわざわざ指摘したりはしない。すると私はここに、私にできる役割の一つを見いだしたような気がした。理由はよく分からないけど、とにかくこうすればうまくいってしまうという「コツ」に対する、万人向けの説明。一冊本でも書ければ、学費の借金ぐらいは消し飛ぶんじゃないか。そんなことを考えた。
あとがき
木工職を目指そうとしている人にとって、高等技術専門校(一般に職業訓練校というのだと思っていた)に入ることが、近道なのか遠回りになるのかは実のところよく分からない。さっさとやりたい事の目星をつけて、直接弟子入りを申し込んでしまうような事もありなのかも知れない。
私の場合は、木工で行こうと考えたときに始めに知った手段が訓練校であったこと、その後、この分野のアウトラインを知るためにも、将来の自営を模索するためにもその方がよろしかろうと判断したことから訓練校を選択した。しかし最も切実な理由は、文無しでも失業給付を受けながら勉強ができるという事である。
ともあれ、職業訓練校という言葉の響きには、いささか抵抗感があったといわざるを得ない。私は、今後同じような道を選択しようかと考えている人たちのために、訓練校というのがどのような世界であるのかを紹介していきたいと思う。
私が4月から通い始めた訓練校の木工工芸コースは一年のコースである。そのため、基本的には月末、その月に行われた事、教えられたことを紹介していきたいと思う。ただし、月の途中であっても、なにやらおもしろげな知見が得られたときには、書こうと思う。


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