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「だから言ったのよ、そんな女と結婚するなって。父親が誰だかわからないなんて凶暴なのは父親がやくざだからじゃないの?」
片や香に絶交宣言をされて一方的に電話を切られた一花は(実紀さんからの情報を香に言うなんて馬鹿なことをしてしまった)と後悔で顔を歪めた。お琴に訊けばよかったかと考えてもそれもしない方がよかったと思える。畑に来ないお琴もきっと実紀のことは好きじゃないはず。誰にも言わずに一人で抱えていればよかった。
夜の八時。夕飯の片付けを終えて明日の朝食の仕込みも終えた香はお風呂に入ろうと自分の部屋へパジャマを取りにいった。その時机の上のスマホが鳴った。一花からの電話だった。
瞑想会当日。二人に言わなかった一花は(やっぱLINEしとけばよかったかな)と後ろめたい気持ちを拭い切れなかった。
「あれ一人?今日はあの二人来ないの?」 と嬉しそうな実紀に一花は、 「二人とも予定が入っちゃったみたいで」 と平気を装って答えた。しかし週末なのに一人で三人分の畝を世話するのはまるで平日のようだと寂しさを感じずにはいられない。偶然二人とも来られなかっただけ。頭ではそう思おうとしても何故だか胸騒ぎがする。丸かった三人の仲が歪(いびつ)な形に変わり始めているようで。そこへ「ネコは?」と信二がミーちゃんを探しに来た。
(私も行きたくない) お琴から「次の畑は行けない」とLINEが来た香は強くそう思った。
町から車で三十分走ると野生の木々が生い茂る東中之村(ひがしなかのむら)という村がある。そこで大々的に苺のハウス栽培をしている杉野夫妻が農業をいろんな人に体験してもらいたいと使っていない畑二面を農業体験用に開放している。三人が参加した日はほかにも十人ほどいてほとんどは家族連れで農薬を使わない安全な自然農法だけあって小さな子ども連れが多かった。