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いつもよりスピードを出した一花の車はあっという間にマンションに着いた。東西に横広な九階建てのマンションは北側一面が住民専用の駐車場になっている。一花は急ハンドルを切って駐車場へ入った。自分の駐車スペースまで行くといつもはバックで停めるのにそんなまどろっこしいことなんて出来ない。頭から突っ込んで駐車すると荒々しくドアを閉めて足早に東側のエントランスへ歩いた。
お琴の婚約者朋輝の実家は農家だ。土をいじるのが好きな朋輝は農業をしたいけれど実家の農業は兄が継いだ。朋輝は弾かれるように地元を離れて農作業の放浪の旅に出た。季節労働の募集をしている果樹園や野菜農園を巡って日本各地を転々としたのだ。
それから二週間後の秋の終りを感じる十一月下旬。降りそうで降らない雲が空に居座り昼間なのにどんよりと暗い日曜日だった。
片や香に絶交宣言をされて一方的に電話を切られた一花は(実紀さんからの情報を香に言うなんて馬鹿なことをしてしまった)と後悔で顔を歪めた。お琴に訊けばよかったかと考えてもそれもしない方がよかったと思える。畑に来ないお琴もきっと実紀のことは好きじゃないはず。誰にも言わずに一人で抱えていればよかった。
夜の八時。夕飯の片付けを終えて明日の朝食の仕込みも終えた香はお風呂に入ろうと自分の部屋へパジャマを取りにいった。その時机の上のスマホが鳴った。一花からの電話だった。
瞑想会当日。二人に言わなかった一花は(やっぱLINEしとけばよかったかな)と後ろめたい気持ちを拭い切れなかった。
「あれ一人?今日はあの二人来ないの?」 と嬉しそうな実紀に一花は、 「二人とも予定が入っちゃったみたいで」 と平気を装って答えた。しかし週末なのに一人で三人分の畝を世話するのはまるで平日のようだと寂しさを感じずにはいられない。偶然二人とも来られなかっただけ。頭ではそう思おうとしても何故だか胸騒ぎがする。丸かった三人の仲が歪(いびつ)な形に変わり始めているようで。そこへ「ネコは?」と信二がミーちゃんを探しに来た。