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勤務先の小学校から二㎞離れた場所で田んぼの隣にあるアパートにお琴は住んでいる。学校で子どもたちと騒がしい時間を過ごしても寝室とリビングと小さなキッチンのついたこの静かな部屋がお琴の疲れをいやしてくれる。
数か月一緒にいるとあんなに恋した心はどこへやら、すっかり熱が冷めて知らんぷりを決め込んでしまう。ただし彼氏もいずに一人でいるのはその飽きっぽさによるだけではなかった。
いつでも背筋がシャンと伸びた一花は言葉も真っ直ぐだ。ズバズバものを言うからきつい性格に思えるけど、言ったあとにこちらの心情を配慮したことも言うから正直で誠実という印象がある。ひっつめてきれいにまとめた髪のように一花が乱れるところなんて見たこともない。 (どうして離婚したんだろ。不思議。男の人にはわがままを言うのかな)
家中の掃除機をかけ終った香は自室へ戻った。お昼ご飯の準備まで二時間ある。その間は自分の時間を楽しめる。香はウキウキと水引を取り出した。一花からオーダーをもらったピアスを作るのだ。
ぶるるっ。 一花のスマホが鳴った。
「いつにしよっかな」 一花は自宅マンションのリビングでスケジュール帳をめくった。結婚していた当時から使っている三人掛けの大きなソファ。その上に足も上げて座り込み膝の上に手帳を置いてウキウキと山登りの日程を立てている。
体型もパーソナルカラーも性格も何もかもが違うけれど一緒にいると楽しくて仕方がない。お琴にとって一花と香とランチを食べながら話すこの時間はとても大きい。月一、多い時は隔週で会ってしまう。もちろん招集するのはお琴だ。(大人になってからこんなに仲のいい友だちができるなんて。婚活をしていてよかった)などと思ってしまう。と言うのもこの三人が出会ったのは婚活パーティーでだった。運命の男に出会おうと気合いを入れて参加したのだけど、運命の女たちに出会ってしまった。
重たい沈黙を破って一花が言った。 「今日のお琴なんか違うよね。メイク変えた?」
「ねえ今度さ」と鏡をしまった一花が神妙な顔をした。 「山に登らない?」
「ここの石焼きパスタがほんとにおいしいんだって」 おいしいお店に目がないお琴はお店のドアを開けながら二人に言った。緊急事態宣言中にもかかわらず親友である香(かおり)と一花(いちか)とパスタを食べに来たのだ。