《こざきななみ》さんからのお手紙

近衛寮広報室の皆さんへ
はじめまして、こんにちは。こざきななみと申します。

3ヶ月ぶりの映画館、本当に久しぶりに暗闇の中で溶け合った映画はワンダーウォールでした。

映画館のロビーでお手紙を拝見して、お返事を書くことにしました。長くなってしまったのですが、お読み頂けたら嬉しいです。

ワンダーウォールを見て、決して慣れてはいけない不条理さに慣れてしまっていることに気が付きました。
私は、資本主義に操られ、企業や国によるムーブメントが大きな流れになって、無意識のうちに人間が消費されていく今に違和感を抱きながらも通り過ぎていました。
最近感じた身近な例としては学校の掲示板があります。私の学校の掲示板には科学や海外留学という偏ったジャンルの資料が多く張り出されていて、そこには二つの理由が推測できます。
ひとつは学校の取捨選択の仕方、もうひとつは科学による発展やグローバル化というそもそもの時代の流れです。

確かに科学や国際化も重要だとは思いますが、個人の考えが重視される流れにあるように見えながら、目に見える発展や繁栄に役立つものが(無意識・意識的に)重視され、さらには推奨されているため、個人の嗜好や、端的に言えば個性という違いが教育における壁と化し、本来あるはずの自由を狭めてしまっていると思います。

今はインターネットの時代でもあるので、学校の掲示板よりも多くの情報に目を通すことでその壁を超えた気持ちになっていましたが、怖気付いて直接的な訴えを出来なかったことを反省しています。「時は金なり」と言いますが、時間はもっと不可侵なものだと思うので教育やその他の場面においても、もっともっと選択肢を増やしていくべきだと、声を上げるところから始めようと思います。

また、違和感を声にして砕けていったとしても、近衛寮を応援する人たちが各々の楽器を奏でたように、どんどん層が厚くなっていけばいいし、そうするしかないのだとも思いました。
実際に今までの積み重ね(ワンダーウォール含めたくさんの作品や人の声)が確実に分厚い層になっていることで、なんてことのない高校生の私にもこの問題を考える機会があります。
多様である自認やその上での平等という理想はまだ幻想かもしれないけれど、先の時代で実現するために、まずは、身のまわりで起こっていることに丁寧に向き合おうと思いました。

それから、正しさなんてものは真っ直ぐに線引きできることではないのだから、どうか、消えないでほしい、消えないでいよう、と伝えたいです。鑑賞後の電車の中でふと、あんな風に真摯に向き合う人たちや少し意地悪な人たちにも優しくしたいな、と思わされた作品でした。


素敵な作品を作って下さった皆様に心から感謝しています…。
            こざきななみより

⇨キューピー役・須藤連からのお返事

こざきななみさん、初めまして。須藤蓮です。
この置き手紙(乃至文通企画)は、舞台挨拶ができないために捻り出された企画です。だから僕はいつも、誰からも興味を持ってもらえないんじゃないかという不安と共に向き合っています。
こうして気にかけていただけると、まだ火が消えてないような気がして、すごく嬉しいです。

現役の高校生なんですね。お手紙を拝見させていただき、あまりの成熟度に絶句しました。
なんてことない高校生だとおっしゃってますが、そもそも本当に高校生なのかを疑ってしまうほどです。(僕が高校生の頃なんて、金髪にピアスはジャラジャラで、日本の総理大臣が誰かも知らなかったので。)そして高校生のあなたと僕が、こんなにも同じ感覚を共有できることに驚いています。と、同時に少し悲しいです。
ここ数年間で時代は急速に動き、技術の進化は著しいのに、世の中の価値観は更新されてないんですね。世の中を変えるって、口では簡単に言えても途方もなく難しいんだって改めて思います。

資本主義や企業に対する違和感、そして消費されていく僕たち。教育に関するあなたの意見。
全くその通りだと思います。僕も同じようなことを3年以上ずっと考えています。
一方で、今のあなたの考え方を、身近な大人の人に伝えてみてください。
きっと青臭いとか若いって一蹴されると思う。でもそんな人の言うことは多分あんまり信じなくて良いです。しつこくいってるとたまに本気で向き合ってくれる人がいます。
そんな人を見つけたら大事にしてみて欲しいです。

そしてこれはそんな僕の個人的な意見ですけれど
日本の教育も、受験制度もはっきり言っておわってると思います。
正直あんなクソみたいな試験通ったところで、詰め込んだ知識なんかあっという間にこぼれていって、手元に残るのは勘違い全能感ぐらいでした。(受験中だったらごめんなさい。クソって知るためと、親泣かせないためにやっといたほうがいいです。)

高校生のあなたにこんなこと要求するのも酷なのですが、すごく頭がいいからこそ、たくさん勉強して欲しいです。(僕もアホなりにします)いろんな本を読んで、周りにすすめてみて、議論して欲しいです。世の中の価値観とか無視して、自分の心を踊らせてくれるものに向かって突き進んで、価値のある体験を掴み取って欲しいです。そして是非仲間になってください。

僕は本質的なものを馬鹿にするような世の中を変えたいと思っています。美意識を取り戻したいと思ってます。

確かにあなたの言うように違和感を口にする人は増えてきたかもしれないけど違和感を失う人も同じくらい多いと思います。多分そのぐらいシビアなことなんだと思います。

でも、きっといつか何かを変えられる気がするんです。
一緒に線引きできない場所も大事にできる世の中にしましょう。

見てくださってありがとうございます。次は面と向かって、近衛寮とかでお話ししましょうね。
ではまた。